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休日 4

 青春を経験した私たちは、弟とサフィーア王女が服屋から出てくるまで時間を潰すことにした。


 といっても、周囲には様々な催し物があるため、どれを見ようか目移りしてしまう。


 手品や大道芸、路上演奏や路上演劇といった目立つ物以外にも、店頭でバザーをやっている店も多くある。


 どこを見ようか迷っていると、ヘリアン王子が「レイ、体を真っ二つにされに行こう!」と手招きをしてきたので、ひとまず手品ショーを観ることにする。


 観客参加型のショーであったため、ヘリアン王子は無事真っ二つになることが出来て、とても喜んでいた。


 その後は、大道芸人の元でジャグリングを教えてもらい、私の前で披露していた。まあ、ジャグリングに使った玉は二個だったが。


「次はあっちを見にいかないか? ほら、あの紙芝居だ!」


 ヘリアン王子は、元気に駆けていく。


 弟とサフィーア王女たちは、まだ服屋から出てくる気配はない。

 おそらく今は、気合の入った店員によって着せ替え人形にされている頃だろう。


 時間はまだまだかかりそうだ。


 仕方ない。しばらくは、はしゃぎっ放しのヘリアン王子に付き合うことにしよう。

 そう決め、私は彼の元に向かう。


 ――その五分後、ヘリアン王子は号泣しながら紙芝居屋の店主に対して上映された紙芝居の続編を熱く要望するのだった。



 ♢♢♢



 私はふうと、一つ息を吐く。

 一旦休憩を取ることに決めた私は、ベンチに腰を下ろす。


 とても元気な様子のヘリアン王子を眺めながら、露店で購入した果汁ジュースを口に入れる。


 柑橘類特有の酸味と甘みが、口の中いっぱいに広がった。

 美味しい。

 思わずもう一杯欲しくなる。


 そう思っていると、ケルヴィンが露店で買った焼き菓子を手に、私が座るベンチに腰を下ろした。


 えっ、何故私の隣に。

 他のベンチが空いているから、そっちに座りなよ。

 ちょっと狭い。


 一瞬そう思ったが、どうやら私と雑談がしたいらしく、焼き菓子をかじりながらおもむろに声をかけてくる。


「この国は豊かだな。いろいろ見てきたが、俺の中ではこの国の住民が一番幸せそうに見える」


 そうなのか。他国に行ったことがないからよく分からない。

 けれど、確かにこの国は恵まれた環境にあるとは思う。


 同じ規模の小国があったとしても、ロドウェール王国以上の豊かさを持つ国はおそらく無いだろう。


 そう思う。


「この国が、基本他の国から何て称されているか知っているか? 『小さな大国』だ。この国はそれだけ評価されてるんだよ。お前さんたちはあまり気にして無いと思うが」


 それは初めて知った。

 確かに、歴史の勉強をするたび「何でこの国滅ぼされないの?」と思うことは多々あるけれど。

 何しろ、ロドウェール王国は近隣を幾つもの大国によって囲まれている。


 ロドウェール王国の豊富な資源は、他国にとって魅力的なはずであるし、その気になればいつ攻めてきてもおかしくはない。


 国力の差は天と地ほどある。攻め入られれば、間違いなく負けることになる。


 だが、今まで一度もそういったことは起きていなかった。

 近隣諸国とは、常に友好な関係を保ってきていたのだ。

 しかも、お互いが対等な関係の状態のまま。


 自分が暮らす国のことながら、ちょっと凄いなと感心する。

 おそらく外交官が優秀なのだろう。

 母だって、いつも忙しくなく頑張っているし。


 そう考えていると、突然、私の足元に紙飛行機が飛んでくるのだった。


 紙飛行機……? 一体どこから……?


 周囲を見回して持ち主を探すが、全く見当たらない。


 飛んできた紙飛行機を拾い上げてまじまじと見つめると、内部に字が書かれてあることに気付く。


 おもむろに折ってある紙飛行機を開くと、中にはこんなことが書かれてあった。


『どなたも俺の考えた偽名を使わないんですけど、何でなんでしょう?』


「……」


 キースだった。


 ……そんなの呼び辛いからに決まっているではないか。当たり前である。


 私は、無言で紙飛行機を握り潰した。

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