反省
あの後、投降した私たちは、十年前と同じく姉弟一緒に従者たちから朝まで説教を受けたのだった。
そして、従者揃ってその説教振りは鬼であるのも相変わらずである。
私たちの騒ぎに気づいて起きたのか、途中から父が私たちの様子を見に来て「何してるんだ、お前たち」とやや呆れていた。
仕方が無かったのだ。これは私たちの中で絶対にやらねばならない、優先順位第一位の物事だったのだから。
不可抗力である。こうなるなんて、子供の頃は微塵も思っても見なかったのだ。
そう、声を上げたいところであるが出来る筈がないので二人揃って黙り込むしかない。
私たちの作戦は見事に失敗した。
特に私の場合、試合に勝って勝負に負けた典型例のような結果となってしまった。
サイラスとの戦いは楽しかったが、とにかく今はとても悔しい。
そして、弟もそう思っているらしく、瞬きをしてしょんぼりとしながら謝ってくるのだった。
――『ゴメン マリー カテナカッタ』。
弟の方は、最初から半ば勝利が決まっていたと思っていた。
だが、それは大きな間違いであった。
女であるマリーは、男である弟よりも普通に強かったのだ。
マリーは腕力、膂力共に弟を軽く凌いでいたのだった。完璧に予想外である。
それに関して、弟は責任を感じていたらしく、最初真剣な様子で「責任を取ってヘリアン王子と結婚する」と言ってきたので焦ってしまった。どうか早まらないで欲しい。
びっくりした私は、落ち込む弟を何度も宥めることとなったのだった。
そして、その後、あの夜のことを思い出した弟は「まるで男みたいな力だった……」と、言うような表情をする。
ちなみに、マリー曰く「メイドは基本皆、普段の仕事で鍛えられていますので」だそうだ。
本当かなあ? と疑問が湧いてくるが、まあ兎にも角にも日常的に力仕事をしている彼女を相手取った場合、今までスプーンやフォークより重いものを持ってこなかった弟が敵うはずも無かった。
性別云々とか以前の問題である。
――『マイドン シャアナイヨ』。
なので、そんな感じに慰めの言葉を送る。
しかし、それにしても女性に対して男みたいだと表すのは少し酷いと思う。
せめて、動物とかに例えた方が無難じゃないかと思う。
すると、弟は神妙な表情で「なら、控えめに言ってゴ○ラみたいだった」と、正直すぎる感想を述べるのだった。
いや、それはもっと酷い。マリーに言ったら、次こそ腕をへし折られそうだ。
心からそう思う。
それなら「学名で例えると……ええと、その、ゴリラ・ゴリラみたいだった」と、気を遣ってくるが、隠せてない。一切隠せてないぞ、弟。
もしかして、わざとやっているのでは?
あ、痛い思いをしたから、ちょっと怒っているのか。
――『チガウ オコッテ ナイモン』。
いや、そんな可愛いい感じで言われても……。
反応に少し困ってしまう。確かに私の弟は世界一可愛いけれど……。
話が少し脱線してしまった。
とにかく、今回は反省点や課題が多い。
私がサイラスに勝てたのはいいが、正直言って今回上手くいったのはその部分だけである。
次はマリーをどう対処するべきか考えねばなるまい。
ちなみに弟は、やはり今回の敗因は自分にあると考えているらしく、「打倒、マリー」を掲げて筋トレを始めるつもりらしいがまあ怪我をしない程度にほどほどにしてくれると嬉しい。
あとそれとなのだが、そもそも仮に元に戻れたとして、そのあと自分たちの外見をどうするか私たちはあまり考えていなかった。
たとえば今現在において、私は男として髪を短くしているし、弟は女として髪を長く伸ばしている状態なのである。
お互いに元に戻った時、何故髪型が反対なんだと違和感を持たれてしまう可能性が大きかった。
その際は、弟は髪を切り、私はカツラを被って誤魔化すしかないのだが、今回は完璧に用意し忘れている。
そういった細かい辺りは、詰めが甘かったと言わざるを得ない。
今回は、元に戻るための作戦であったため、後のことは後で考えることにしていたのだが、やはり今後のことも加味しなければいけないことは明白である。
この反省点を次に活かしていきたい。
それと、これは別に反省や課題の話ではないが、一つ気になったことがある。
それは、あの時のサイラスの言葉だ。
『―― たとえ自身の性別を偽ることとなったとしても、決して後悔はしないでしょうね』
私は記憶を思い起こす。
あれは一体、どういう意味であったのだろう。
例え話をするにしても、あんなピンポイントな話を普通はわざわざするだろうか。
やはり、彼らは私たちのことについて既に気がついているのでは……?
そう思わずにはいられない。
気になって、サイラスに尋ねようとしたけれど、説教中は私たちの夜遊びに対して大層ご立腹だったため、ろくに取り合ってもらえなかったし、その後は罰として当分レッスン漬けの日々となってしまったのでまともに会話を切り出す機会がなくなってしまった。
いずれにせよ、聞くタイミングを逃してしまった以上、真相は闇の中である。
まあ、何はともあれ私たちの状況は、相も変わらず現状維持のままであった。
――ああ、入れ替わったままの私たちが元に戻れるのは一体いつになるのだろうか。
先が思いやられるばかりだ。
早く元に戻りたいなあと思いながら、私たちは二人揃って空を見上げるのだった。
これで第一章は終わりです。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
第二章からは弟と王女が今までより登場する予定となっております。
よろしくお願いします。




