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夜遊び 3

 私は剣を振り下ろす。

 現状、私の方が有利であった。


 相手の得物は、サーベル。

 対して、こちらは二振りの直剣(ロングソード)


 耐久力はこちらが圧倒的に上。

 斬り結べば、確実にあちらの方が先に折れるだろう。


 ――さあ、どうする?


 そう思っていた時だった。


 私が攻撃を繰り出した瞬間、サイラスが呟く。


「――甘いですよ、レイン坊ちゃん」


 私の攻撃に合わせるようにして、サイラスもまた鞘からサーベルを抜き放ったのだった。


 ぞくりと怖気が走る。


 私は慌てて踏ん張り、そのまま攻撃を中断して身を捻る。


 キィンと甲高い音を耳にしながら、ほとんど無理やりな形で緊急回避を行うのだった。


「――なるほど、これを避けますか。さすがはレイン坊ちゃんです」


 その賛辞の声に対して、「レインじゃなくてカティアです」と心の中で返したいところであったが、今の私にそんな余裕はない。


 急いで後退した私だが、大きく舌打ちすることになる。


「……狙っていたな、サイラス」

「ええ、本当ならこの一撃と次の二撃目で決めるつもりだったのですが、初見で避けられてしまい残念です」


 私の右手に持っていた直剣は、剣身の半ばから綺麗に切断されていたのだった。


 ――抜刀術。


 刀身の反りを利用して、帯刀した状態から一気に抜き放って素早い一撃を繰り出し、次の二撃目で確実にとどめを刺す、という技だ。


 そういった技があることは、本で読んで知識としては知っていた。

 だが、実際に経験してみると、何と恐ろしい攻撃なのだろう。


 思わず、身震いする。

 直感的に避けていなければ、確実にやられていた。


 それに剣を断ち切ることが出来るなんて、何という技量だろうか。

 やはり私は、サイラスを見縊っていた。絶対に油断しないぞ、と思っておきながら。大失態である。


「貴様、今まで実力を隠していたな」

「まさか、とんでもない。総合力という点では、レイン坊ちゃんの方が上ですよ。ですが――」


 サイラスは、再度剣身を鞘に納める。


「技の冴え一つ一つはまだレイン坊ちゃんに劣っているとは思ってはいません」


 寝巻き姿のサイラスは、相変わらず無表情まま、そう言うのだった。


「なるほど、なら今から貴様を凌駕してやる」


 私も寝巻き姿で、傲慢に笑う。


 こんなやりとりをお互いしているけれど、第三者から見たらかなりシュールな光景だなと思う。


 そんな無駄なことを考えるほどに私は、余裕の心を持てるまでに回復していた。


 私は笑みが込み上げてきて、仕方がなかった。


 なんと言ったって、目の前のサイラスは本気なのだ。


 この私に対して。

 あのサイラスが。


 ――面白い。


 そう思わずにはいられない。


 私は切断された剣を投げ捨て、もう一本をしっかりと両手で持ってサイラスに対して構えをとる。


「まだ続けるつもりですか、レイン坊ちゃん」

「当然だ。言っただろう? この俺を止めたければ、力尽くで止めてみろ、と」

「……ええ、そうでした。そうでしたね、レイン坊ちゃん。どうやら甘かったのは、自分の方だったようですね」


 サイラスは、自嘲気味な声音で呟く。

 そして、決意を込めて力強く宣言する。


「あなた方は、歴代のメアリクス家の中でも類稀な才能を有しています。故に、ここで終わらせるわけにはいかない。絶対に止めてみせます」


 それを聞いて、私は挑発するように鼻で笑う。


「はっ、まるで従順な飼い犬だな」

「ええ、そうですね。あなた方、メアリクス家は飼い殺された狂犬と称されますが、それなら我々は、さしずめ手懐けられた番犬といったところでしょうか」

「そうか、ならさぞ美味い餌をもらえているんだろうな?」

「さて、それはどうかは分かりませんよ。――何にせよ、マリーも自分も、この身もこの心も全てこの国に、そしてあなた方に捧げると決めているのです。たとえ自身の性別を偽ることとなったとしても、決して後悔はしないでしょうね」

「何? それはどういう――」


 そこで、私の言葉は途切れることとなる。

 受け身だったサイラスが突然攻撃に転じたからだ。


「ちっ!」


 踏み込んできたサイラスが繰り出したのは、先ほどと同じく抜刀術である。

 私はすんでのところでその一撃を後ろに仰反ることで回避する。

 だが、私も負けてはいない。

 サイラスが、流れるように二撃目を繰り出した時に、すぐさま体勢を立て直して反撃を行う。


 ギィン、と再度甲高い音が鳴り響いた。


 私はサイラスと鍔迫り合いの形となる。


 そして、私は間髪を容れずに力任せにサイラスを押し除ける。

 対する彼は、追撃を避けるため抵抗せずにそのまま大きく後ろへと下がって私から距離を取るのだった。


「やはり、二度目も見切られてしまいましたか」

「これで分かっただろう? それはもう俺には通用しない」

「そのようですね、なら――」


 サイラスは、突然廊下に敷いてあった絨毯をめくり、下から一本の短剣を取り出したのだった。


 マインゴーシュと呼ばれる防御用の短剣だ。


 サイラスは、それを左手に持ち、そして右手のサーベルを突きつけるような形で私に対して構えをとるのだった。


「お待たせしました、レイン坊ちゃん。次に参りましょう。さあ、レッスンはまだ終わってはいませんよ?」


 そう、言ってくるサイラスに対して、私は思わず絶句する。


 え、えぇ……。

 本当に屋敷のあちこちに隠してあるんだ……。


 心の中でドン引きするのだった。

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