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仕立て

 一礼した後、顔を上げた仕立て屋の老夫婦は、私たちを見てにっこりと笑う。


 ――私たちが服を仕立てる時、決まって頼むのは彼らだった。


 私たちが生まれる前から、今日までその関係は続いている。


 もちろん夜会の時も、彼らは私たちのドレスとスーツを仕立ててくれていたのだった。


 どうやら仕立て屋の老夫婦は、母から頼まれて屋敷に来たらしい。


 そのため彼らは、いつものように私たちのドレスやスーツを新しく仕立てる予定のようだ。


「奥様には、『新たな始まりに向けて心機一転すべし』と仰せつかっております」


 つまり母は私にドレスを、弟にはスーツを作っておくべきだと、考えているらしい。


 私たちとしては、単に互いの衣服を交換するだけのつもりだった。


 だが、母としてはそれではいけないと考えているようである。


「それではカティア様とレイン様のドレスとスーツ、それに制服も新調しましょう」


 老夫婦は、そう言っていつも服の採寸をするために移っていた部屋に行くよう促す。


 いつもスーツの採寸は老夫婦の男性が担当し、ドレスの採寸は女性が担当していた。


 だが、今回は当然として、いつものようにはいかない。


 今回は『夜会』の時と同じく、私たちは元に戻るのだから。


 そう思っていると、どうやら私たちの心配は杞憂となったらしい。


 仕立て屋の老夫婦の男性は、弟に向かって「それではこちらへお移りしましょう」と言ったのだった。

 そして、その女性は私に声をかける。


 母は、きちんと彼らに話を通していたようだ。


 良かった。どこまで話しているのか分からなかったから、判断に迷っていたところだった。


 彼らは長年メアリクス家に関わってきた。

 口はとても固い。そのことは、よく知っていた。


 私は弟と別れて、別室に向かう。

 そして、その後私のドレスを仕立てるため採寸を始めた。


「――いつか、こうなる日が来ると思っていました」


 採寸中、女性がぽつりと声を漏らす。


「去年、ドレスを仕立てさせていただいた時、レイン様――いえ、カティア様がお喜びしていたことを今でも鮮明に覚えております。そのため、もう一度カティア様にドレスを着ていただける機会が訪れたことをとても嬉しく思っているのです」


 そう言われ、私は「ああ、そうか……」と納得する。


 この老夫婦は、おそらく最初から私たちのことについて気付いていたのだろう。


 私たちを間近で何度も採寸してきたのだ。

 気付かないわけがない。


 だが、それを胸の内にしまい、今日まで一切誰にも告げることは無かった。


 余計なことはしない。

 注文者に最適な衣服を仕立てることこそが自分たちの仕事であるのだと、そう考えて――


 仕立て屋の女性は、嬉しそうに笑った。


 私も彼女の笑みを見て、とても嬉しく思うのだった。

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