声援
ヘリアン王子は、今日で三度拐われた。
私とサイラスがガードを固めていなければ、もっと回数は増えていただろう。
やはり、ヘリアン王子は呪われていると思う。
サフィーア王女が全く狙われないことを考えると、彼女の分までヘリアン王子が狙われているような気さえしてくる。
とにかくヘリアン王子は今日、もてもてだった。
もちろん、嬉しくはないだろうけれど。
彼に対して「災難だね……」以外の言葉が見つからない。
何故ここまで連続して拐われようとするのか。
運が悪いとか、そういう次元では最早なくなってしまっているので、心から同情してしまう。
そしてそのようなことを思いながら、私とサイラスは襲いかかってきた邪教の集団を迎撃する。
現在私たちは、戦いの真っ最中だった。
「その者を我らの神の生贄に捧げる!」
「邪魔をするな、同志よ!」
いや、同志じゃないよ……。
私の髪が黒いからって、悪魔と決めつけて仲間扱いしないで欲しい……。
私は、身の潔白を証明するため邪教徒を次々と倒していく。
その間、ヘリアン王子には私たちの近くにいてもらう。
彼は下手なことをするとまた拐われると理解しているので、私たちに対して「頑張れー!」、「いいぞー!」、「凄い格好いい!」、「最高だ!」とひたすら応援してくれたのだった。
それによって私たちは、嬉しい気分になるし、声を出し続けてくれれば万が一拐われてもすぐに分かるしで、とにかくいいこと尽くめだった。
けれど、一つ問題があった。
声を出すということはヘリアン王子自身の居場所を教えているということである。
そのため、先程から絶え間なく襲撃に遭い、まるで前に進めないのである。
しかも、運悪く周囲に騎士が見当たらない。
なので、増援を呼ぶことが出来なかった。
もちろん、一般人はちらほら見かけた。
しかし、一般人故に私たちの事情に巻き込むことが出来ない。
そのため、私たちはなかなか苦しい戦いを迫られることとなるのだった。
何故なら襲撃に遭うたび、敵の数が段々と増えていくのだから。
一人一人の強さは大したことはない。けれど、やはり数は力だ。
押し切られてしまえば、それはヘリアン王子が拐われることを意味する。
それは避けなければならない。
「二人とも、負けるなー! 応援しているぞー!」
苦戦を強いられてきた私たちに、ヘリアン王子が負けじと声援を飛ばす。
そうだ、負けられない。
私たちは、学園に戻る。そのために、死力を尽くさなければならない。
私たちは、数十人以上の集団を二人で捌いていく。
皆で揃って、帰還するために。
♢♢♢
私たちが邪教徒の集団を撃退した後、敵にある変化が訪れた。
それは質の向上だ。
数で駄目なら質で圧倒すると言わんばかりに、私たちの目の前に二人の手練れの敵が立ちはだかったのだった。
「あんたら、なかなか出来そうだな」
「ちょいと、俺らの試し斬りに付き合っちゃあくれないか?」
私たちが、ようやく這い出てきたトンネルの近くまで戻って来れたと喜んでいた時に、そう声をかけられる。
トンネルの近くにある川――その橋の上にいた私たちの前に立ちはだかったのは、腰に東洋式の刀を携えている二人の男だった。
それを見て、私とサイラスは目を細める。
――これは少し骨が折れそうだ。
と。




