地雷
私たちは、それぞれ退室して教室に戻る。
皆で話し合った結果、「とにかく現状の対処法としては、どんな反応もしないこと」を貫き通すしかないと言うことになったのだった。
私たちが無反応であれば、他の学生たちもより早く熱が冷めることになるだろう。
私たちの入れ替わりを公表するのは、私たちだけでは決められない。それについては、帰ってから父に相談すると言うことになった。
私は、一人廊下を歩く。
サイラスは再び情報収集に出かけた。
そのため、私の周りには誰もいない。
いや、もちろん何人かの学生たちが私を好奇の視線で見てはいる。
けれど、そのような例を除けば、私の側には今誰もいなかった。
私は廊下を歩く。
そして、考え事をしていた。
それはヘリアン王子のことだ。
ヘリアン王子は、先程の部屋の中で私たちに何度も謝っていた。
それが、私たちにはとても心苦しかったのだ。
結局のところ、これは自分たちの都合でしか無いのに。
なのに、ヘリアン王子は私たちをずっと気遣ってくれた。
嬉しかった。
けれど、とても申し訳なかった。
結局のところ私たちは、ヘリアン王子の好意に甘えただけなのである。
その事実を認識して、私は私のことをたまらなく嫌悪してしまう。
ヘリアン王子は、昨日私に勇気を振り絞って自らの想いを伝えてくれた。
それを私たちは、今日、事もなく無碍にしてしまった。そう思ってならないのだった。
ヘリアン王子は、いつも優しい。
私は、彼が優しい人間であることを理解しているが故に彼を利用しているのでは無いか。
そう、何度も自問することになるのだった。
私は、前髪をかきあげるようにして、梳く。
そして、一度深呼吸をして、思考をリセットする。
駄目だ。良くない流れだ。
私たちは、これからより一層前向きにならないといけないのだから。
そのため、まずは出来ることを確実にしていかなければならない。
「――それで、何の用だ?」
私は振り返らずに、言葉を発した。
気配からして、私の背後には十人以上の人間が立っている。
距離は少し離れている。
彼らはこちらを警戒していた。
「――そうだな、我々は『反対』過激派だと言ったら、理解してくれるだろうか?」
そのように声をかけられ、なるほどと私は呟く。
「理解はしたが、この俺にはどうでもいいことだ」
「それについてはこちらも同じでね。悪いが、我々も、君の意見などどうでも良かったりする」
そして、先程から私に声をかけてきている『肯定』過激派の集団のリーダーと思わしき人物は、私に要求した。
「ここに、契約書がある。君には、この契約書にサインをして欲しい。ちなみに、内容は――ヘリアン殿下とではなくサフィーア殿下とくっつくことを誓う文面だ」
そのように言われたので、私は、即座に断ると伝える。
彼らには悪いが、それは出来ない。
私とサフィーア王女は、女子同士だし、何より――それは、弟自らの意思でどうするか決めてもらいたいと思っている。
そう考えていると、『反対』過激派のリーダーは、溜息を吐いた。
「だと思ったさ。仕方ない。――実力行使だ」
その瞬間、私にいくつもの敵意が向けられる。
そして、彼らが皆、私に向かってにじり寄って来るのだった。
「僕らは、ヘリアン殿下と君の組み合わせは認めない。僕らが望むのは、ただ一つ。――君とサフィーア殿下の組み合わせ、それだけだ!!」
その言葉と共に彼らは、私の背後から一斉に襲いかかってきたのだった。




