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入学式(上)

 

 ――時は一年前ほどまで遡る。


 ♢



 十五歳となった私たちは、父からの言いつけにより、いよいよ学園に通うこととなった。


 学園に入学するにあたり、私たちは予め『悪役』としてのスタンスをお互いに相談して決めることにした。


 方針としては、最初から王族たちとは敵対せず、徐々に悪役として振る舞っていこうというものである。

 あえて命名するならば、『目立たず、地味に! 親しくなった友人からどんどん滲み出てくる悪役オーラ!!』計画だ。


 何故そんな方針にしたのかというと、そもそも私たちはずっと屋敷に篭りきりだったため、同い年だという第一王子と第二王女に会ったことすら無い状況だったのである。


 もちろん父から前もって情報を得てはいるのだが、やはり実際に接して彼らの人となりを直接確認した方が良いだろう。


 お互いに話し合った結果、そのような結論に達したのだった。


 そのため入学式後に偶然を装って接触し、王子たちと円満な友好関係を築くことから始めようと思っていた。


 ――そして、あわよくば入れ替わっているこの状態から元に戻る機会を伺うのだ。


 無論忘れてなどいない。

 屋敷では監視の目が厳しかったので無理だったが、王族の周りならば少しは監視の目が規制されるだろうという期待を私たちは抱いていた。

 可能性は十分高いと思う。頑張りたい。


 一旦、話を戻す。

 入れ替わった状態から元に戻るのは私たち双子にとって最優先事項なのだが、勿論だからといってお役目を放り出して良いことにはならない。

 私たち双子は何事においても真剣なのだ。


 父曰く、この学生時代こそが『悪役』のお役目をこなす上で、とても重要となってくる期間であるらしい。


 何故ならば、王都にあるこの学園には、王族も含め大勢の貴族たちが通っている。


 そして基本学園には十五で入学し、十八で卒業することとなるのである。


 つまり、そんな思春期という多感な年頃において、他者との交流という名の外部刺激は、その者にとって計り知れない価値を持つことになる。


 以前、父はそのように言っていた。


『――ゆえにこの三年間はとても重要な時期だ。カティア、レイン。この国の未来のため心して行動してくれ』


 私たちは、父の言葉を深く胸に刻んだ。


 そして晴れて学園に入学することになった私たちだったのだが――


 ――入学式当日、学園内の屋内広場にて大勢の前で新入生代表として挨拶を行うことになっていた。


 なぜ私たちがそんな状況に陥ったかというと、お互いに首席合格者として入学することになったからである。


 私は武芸。

 弟は座学。


 どうやら学園の規則で、入試を首席合格した者は、入学式の際に新入生を代表して、全ての学生の前で挨拶をしなければならないと決まっていたらしい。


 そのことを知ったのは、入学式の一週間前である。

 出来れば、もっと早くに言って欲しかった。


 これでは、『目立たず、地味に! 親しくなった友人からどんどん滲み出てくる悪役オーラ!!』計画に、少なからず支障が出てきてしまう。


 だって、大勢の前で目立つことになるし。

 それに、私たちがいたために王子と王女は次席合格となったらしく、そのことについては絶対憎々しく思っているだろうし。


 初っ端から前途多難になってしまった。ツライ。


 一度計画を見直そうにも、何故か私たちは残った時間一杯を使って、何度も、執拗に、念入りなほどリハーサルを行わされたのだった。


 これは後から知ったことだけど、メアリクス家の先代当主と現当主――つまり、祖父と父がどうやら学園入学時に盛大にやらかしたらしい。


 というか、メアリクス家は代々やらかしているらしい。


 どういうことなの……?

 それと何故、反省しない……。


 我が家が一体何をやらかしてきたのかまでは知らないが、とにかくメアリクス家は、学園の要警戒対象のリストのトップページに載っていて、そのために私たちが問題なく大事な行事をこなせるかチェックされたのだった。


 正直、不本意である。


 私たち、まだ何もしてないのに……。


 そんなに不安なら次席合格した王族の二人に任せればいいのに。

 そう思ったが、そこは規則は規則であり、伝統は守っていかなければならないとのことだった。


 頭の固い大人たちである。


 しかしそれにしても、何故私が首席合格なのだろう。正直疑問に思う。


 弟の場合、テストで全科目満点を取っていたから当然だとして、私に関しては心当たりがない状況である。


 あるとすれば、試験官である武芸担当の教師を一対一の決闘で倒してしまったことくらいだろうか。


 確かに試験官の人は強かった。

 だが最終的に公爵家の人間である私に、花を持たせてくれたのだと思っていたのだが……。

 その考えが、もしかして違ったのかもしれない。


 そういえば……剣を交え終えた時、こちらを凝視してきた教師の顔が死ぬほど悔しそうに見えた気が……。


 い、いや、ただの思い違いだろう……。

 過ぎたことを気にしても仕方がない。

 前だけを見て歩こう。


 思い出した記憶を私は頭の片隅に追いやることにした。


 とにもかくにも、まずは入学式だ。


 これを乗り越えないことには、何事も始まらない。


「――はい、それでは新入生代表の二人。挨拶をお願いします」


 入学式が始まってしばらくすると、ついに私たちの出番がやってくる。


 私たちはお互いに小さく頷いた後、席から立ち上がって前に歩み出る。


 壇上に二人して立つと、同時に深呼吸を行なった。


 挨拶を行う順番としては、まずは私からだ。


 この挨拶を華麗にこなして、王子たちに「なんて立派な二人なんだ! 是非お友達になりたい!」と思わせなければならない。


 不本意だが、リハーサルは何度も行なっている。準備は完璧だ。


 つまり、よほどのことがない限り失敗することはない。

 大丈夫、余裕である。


 そう思いながら私は、声を低く変えて言葉を紡いだのだった。


 だが、そこで気が抜けたのがいけなかった。

 私は無意識のうちに、行うことになってしまったのだ。


 学園創立以来類を見ないほどに前代未聞の挨拶を――


「――武芸主席レイン・メアリクス。先に忠告しておこう。貴様らのような虫けらには粉微塵も興味はない。近づけば、踏み潰す。以上だ」


 空気が凍る気がした。


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