試練 8
私とサイラスは、激突した。
彼と相対するのは、もう、これで何度目だろうか。
彼は強敵だ。
最初に出会い、そして今まで出会った中で最も手強い相手が他ならぬ彼だった。
私は一撃を放つ。
サイラスもまた剣を振るう。
――だが、私の方が速く、そして力強い。
木剣同士が、ぶつかり、激しい音を立てて弾かれる。
そして、弾かれた際にその体勢が大きく崩れることになるのは必然的に私ではなく、サイラスの方となる。
私はその機を逃さない。
素早く体勢を戻して、畳み掛けるようにして、連撃へと繋がる。
私はその一撃一撃全てに全身全霊を込めた。
その威力はたとえサイラスであっても、容易に受け流せるものではない。
木剣を打ち込む度に私は更に力を込めて、速さと威力を増大させていった。
限界まで。
いや、限界すら超えてみせる。
サイラスの防御を突破するまで、私は攻撃を止めない。
そのつもりであった。
「……っ!」
分が悪いことを理解したのだろう。
サイラスは、すぐさまカウンターを狙おうとしてくるが、私としてはそれさえもさせるつもりはない。
――サイラスの攻撃手段全てを、私の剣で強引に捩じ伏せる。
私は勢いよく足を踏み出し、更に加速した。
後のことなど考えない。
文字通り捨て身のつもりで、私は剣を振るう。
攻撃は最大の防御とは、言い得て妙だと私は思う。
私は、その言葉が好きだった。
何しろサイラスを完封するには、その手段を用いるのが最も有効であったからだ。
サイラスの技を私の力で捩じ伏せる。
互いに剣を持っているので有れば、やはりその勝負の行方はあの『夜遊び』の時と同様に私の方が有利であった。
そして、私は戦いの中でサイラスの技を学習していく。
戦いとは、敵を理解することだ。
サイラスの本気の剣を見るのは、これで二度目だった。
戦いの中でサイラスを理解し、そしてそれを自分の中に組み込んでいく。
故に、以前よりも彼を凌ぐのは、私にとって容易となる。
――さあ、どうするサイラス?
相手はあのサイラス。このまま終わるはずが無い。
彼はまだ、その全てを出し切ったわけでは無いのだから。
彼は私に対して防戦一方であり、私の学習速度によってその戦況は更に顕著なものになっていく。
そして、三十秒もしないうちにサイラスの防御が崩れる。――彼の剣が、私の攻撃に耐え切れず、その剣身の途中から砕けるようにしてへし折れたからだ。
私は、すかさずその生まれた隙に全力をぶつけるのだった。
サイラスの剣は使い物にならない。故に、それを自分の剣で受けることが出来ない。
取った。私が繰り出したのは、そう確信出来るほどの不可避の一撃。
故にこのままいけば、私の勝ちとなるのは明らかだった。
しかし――
私の振り下ろした剣が、サイラスの眼前でぴたりと止められる。
何故ならサイラスが、自身の剣を手放し、その両手で私の剣を白刃取りしていたからだ。
「……やはり駄目ですね、もう剣ではレイン坊ちゃんには勝てないようです」
サイラスは、そのように言葉を溢した。
その声音に悔しさはない。
あるのは、私への心からの賞賛と敬意。
「強くなりましたね、レイン坊ちゃん。とても誇らしいです」
そのように告げ、そして――
「ですが、次にこれはどうでしょうか?」
サイラスの手が素早く動き、私の剣を絡めとるようにして、一瞬にして奪い取る。
私は、半ばそれを予期していた。
故に、抵抗することなく剣を手放し、彼から距離を取った。
サイラスは、私の木剣を投げ捨てると、ゆっくりと息を吐いた後、両の拳を握り――構える。
そう、サイラスの真骨頂は剣では無い。体術だ。
「それでは、レイン坊ちゃん。一度、仕切り直させていただきます――」
今度は、サイラスが連撃を行ってくる番であった。




