試練 2
サイラスが突然、ヘリアン王子に向かって決闘を申し込んだ。
私は、それを聞いて混乱することになる。
――サイラス、あなたは何を考えているの?
彼の思考がまるで読めなかった。
彼が何を考えているのか、何一つ……。
「理由を聞いても良いだろうか?」
サイラスの申し出について、ヘリアン王子が尋ねる。
すると、サイラスは言った。
「あなたが、自分のライバルだからです、ヘリアン殿下――」
それを聞いて、ヘリアン王子が「どういうことだ、それは……?」というような顔をする。
もしかしたら私も彼と同じ顔をしていたかもしれない。
――ヘリアン王子が、サイラスのライバル? 何の……?
まるで見当がつかなかった。
サイラスとヘリアン王子の共通点が何一つ思い浮かばなかったからだ。
そして、サイラスは私たちの疑問に答えるようにして、言葉を紡いだ。
「――ヘリアン殿下、あなたは今朝、レイン坊ちゃんのことを『好き』だと仰いました」
その言葉を聞いて、ヘリアン王子の目が泳ぐ。
「えっ、あ、ああ……そうだな、確かに言ったが……それと、今は何か関係が……?」
サイラスは「はい」と頷いた。
「――自分もほとんど同じ思いなのです、ヘリアン殿下」
サイラスの言葉に皆が固まったのだった。
♢♢♢
ヘリアンは、激しく狼狽えることになる。
突然、レインの従者の青年サイラスから、ライバル扱いされたのだ。
そして、その後、朝の一件のことついて口にされる。
それを思い出して、羞恥と混乱が一変に彼を襲うことになるのだが、次のサイラスの言葉によって、頭が真っ白になりかける。
――自分も同じ思いなのです、ヘリアン殿下。
サイラスは、そのように口にしたのだった。
自分の中の血の気がさあっと引いていく。
喉が異様に渇き出した。
――ほとんど同じ? ほとんど同じとは、どういう意味なんだ……?
ヘリアンは、激しく困惑することになる。
今のサイラスの言葉をすぐには受け止め切れなかった。
一方、サイラスはヘリアンに自分の言葉を再認識させるようにして、畳み掛けるような口調で言った。
「自分もレイン坊ちゃんが『好き』なのです。そのためにヘリアン殿下、あなたとはライバル関係にあるのだと思っております」
故に、このようなことをしたのだとサイラスは言った。
「申し訳ありませんが、レイン坊ちゃんを簡単にお渡しすることは出来ません。レイン坊ちゃんにきちんとそのお気持ちを伝え、共に歩みたいというのならば、まずは従者である自分を下してからにして頂けないでしょうか?」
そしてサイラスは、ヘリアンの瞳を覗き込むようにして、見据えたのだった。
♢♢♢
私は、思わず呆然としていた。
その原因はサイラスが、言い放った言葉だ。
彼の言葉により、私だけでなくマリーを除いた他の者たちも固まることになるのだった。
「……本当、なのか? サイラス……?」
「はい、レイン坊ちゃん。本当です。ずっとあなたのことを思っていました。今もそうです」
恐る恐る聞くと、そのようにはっきりと答えが返ってくる。
そして、私は再度呆然となるのだった。
「そ、それで、ええと……私は、どのようなことで呼ばれたのでしょうか……?」
受けた衝撃から何とか立ち直ったサフィーア王女が、そのように尋ねる。
すると、マリーがサフィーア王女と弟を見て、言った。
「それはサフィーア殿下が、私のライバルだからです」
マリーは、続けて口にする。
「――私も、カティアお嬢様さまのことが『好き』なのです」
それを聞いてサフィーア王女と弟がまた固まることになるのだった。




