事後処理
検査を終えたヘリアンは、王宮の廊下を歩いていた。
頭部に腫れはあるものの、診察結果は特に異常無しであったため、そのまま父である国王がいる公務室に向かったのだった。
「お兄さま! 探しました、ここにいらしたのですね」
公務室の近くまで来た時、慌てた様子のサフィーアと出会う。
おそらく学園を早退してきたのだろう。
その姿は未だ制服姿のままであった。
サフィーアは、若干息を整えながらヘリアンへと言葉をかける。
「医務室からはすでに退出しました、とのことでしたので今あちこちを見て回ってきたんです」
「そうなのか、すまない。苦労をかけてしまった。それに沢山の迷惑も――」
ヘリアンが、申し訳なさそうな声音で話すと、サフィーアは首を横に振った。
「いいんです。怪我をせず無事に帰ってきてくれただけで十分です。さあ、お父さまにこのことを報告いたしましょう」
サフィーアは喜びの表情を浮かべて、ヘリアンの袖を引くのだった。
♢♢♢
公務室に入ると、書類の事務処理を行なっている最中であった。
「よくぞ無事に帰ってきてくれた、ヘリアンよ」
厳しい顔をしていた国王がヘリアンの姿を見ると、破顔する。
そして、椅子から立ち上がってヘリアンの体を抱擁するのだった。
「すまなかった。本当はいの一番に駆けつけてやりたいところだったのだが、事後処理に追われていてな」
「構いません、父上。この国の王として当然です。それにこの通り、検査でも体に異常は有りませんでした」
「そうか、それは喜ばしいことだ」
安堵するように頷く国王。
一方、ヘリアンはきちんと謝罪しなければならないと口を開く。
「父上、この度はご迷惑をおかけして誠に申し訳ありませんでした」
「よい、よいのだヘリアンよ。今はそんなことを考えず、ゆっくり休んで欲しい。それが今の我々の願いなのだよ」
そして、話題を変えるようにして国王は、ヘリアンに予定を説明するのだった。
「賊への尋問は、準備が整い次第すぐに行わせる予定だ。出来るならすぐにでもその背景や事実関係を洗い出せねばならんからな」
「確かにそうすべきだと思います。彼らが一体どの国の者なのかは、とても重要な情報ですから」
「ああ、場合によってはまたメアリクス家の力を借りることになるかもしれぬ」
「メアリクス家、ですか……?」
国王の言葉に、ヘリアンは首を傾げる。
「賊が尋問をしても口を割らなかった場合だ。その時は、仕方ないがメアリクス家の者に尋問してもらうことになる。以前は公爵夫人に助力を頼んでいたが、おそらく今回からは彼らの娘に頼むことになるだろうな」
「カティアさんがそんなことを……」
サフィーアが息を飲んだ。
「出来ればそうならないようにしたいところだが、実際はどうなるか分からぬ。それに仮にそうなったとして報告を聞いている限りは、メアリクスの者に対しての心配は無用だぞ、サフィーアよ」
「何故ですか、お父さま」
「メアリクスの双子はどちらも非常に優秀だからだ。その程度のことか、と片手間でこなすだろうな」
「おそらく……そう、でしょうね」
その言葉にヘリアンはおもむろに頷いた。
すでに双子の弟の方であるレインの戦い振りを見ていたからだ。
双子の姉も彼と同じほど優秀であるならば、そんなもの些事だと言わんばかりにいとも容易くこなして見せるだろうと。
そしてヘリアンは、戦闘で終始傭兵たちを圧倒していたレインの姿を思い出す。
まるで赤子の手を捻るように、次々と傭兵たちを倒していったあの光景を。
拘束されていたとはいえ、自分は結局何も出来ずに、それを見ているだけだった。
無力だった。それをまざまざと実感させられた。
ヘリアンは気がつけば、無意識に拳を握っていた。
そして、いてもたってもいられなくなり、彼は国王に告げるのだった。
「父上、申し訳ありませんが、明日から騎士団の訓練場を使用させてください」
「構わないが、何をするつもりだ?」
「大事をとって学園を休むことになるその間、騎士団に混じって訓練を行いたいと思います」
今はただの気休めにしかならないかもしれない。
でも、出来ればずっと続けていきたい。
その努力が実を結ぶ日まで。
――いつかレイン・メアリクスの隣に立つ日まで。
彼は、そう心に決めたのだった。




