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従者たち 3

 ――毎日が充実している、二人は常にそう感じていた。


 メアリクス家の双子に対して行なったレッスンは全て、自分たちが当初に予定していた内容よりも質の良いものとなった。


 それは、双子に優れた素質があったからだ。

 彼らの物覚えがよく、自分たちが教えたことをきちんとこなすことが出来たがために、余裕を持って次のレッスンに順序よく進むことが出来たからであった。


 カティアとレイン。彼らには、『悪役』としての素質があった。

 それは、歴代の従者の中でも類稀な才能を有していると言われた自分たちよりも優れた素質であった。


 サイラスとマリーは、これが、メアリクス家の人間なのか、と思わず内心で驚嘆してしまう。


 そして、両親たちが言っていたことを思い出すことになる。


 ――たとえ我々がいなくとも、彼らの爪と牙は自然と鋭く研がれることになるだろう。


 ――彼らを正しく導かなければならない。


 その言葉を胸に刻み、二人は双子にレッスンをつける毎日を送った。


 だが、順風満帆な毎日を送っていても、二人には常に気がかりなことがあった。


 それは、双子の性別と名前が一致していないことだ。


 もちろん、それについては最初の方で納得している。

 彼らは、その方がより素晴らしい才能を発揮出来る。

 そう判断したからこそ、現当主であるアーロンは二人の立場を入れ替えて自分たちに会わせたのだ。


 まるで――と同じように。


 しかし、やはりどうしても気になってしまう。

 それは仕方のないことだった。


 何しろ幼い頃から、メアリクス家の双子はそのように生きることを強いられたのだから。


 ――それによる不満は無いのだろうか、と。


 見たところ『悪役』として生きることに関しては、彼らは誇るべきことだと思っているように思える。


 しかし、入れ替わっていることに関しては、従者二人には分からなかった。


 ――自分が自認している性別とは、異なる性別の人間として生きる。


 それは、あまりにも苦痛なことだろう。


 現に――だって……。


 双子と過ごすうちに、従者たちは愛情が芽生えていくのを自覚していた。


 それは、親愛の情だ。

 弟のように、あるいは妹のように。


 双子は幼い頃から聡い。

 そのため、あまり手のかからない存在だった。


 しかし、会って半年もすればもっと我が儘に振る舞ってくれてもいいのに、とさえ思えてきてしまうのであった。


 初日の夜に寝室から抜け出そうとした時は、今後骨が折れそうだと予感していたのに。


 しかし、それ以降一度も双子は寝室を抜け出したことが無かった。


 故に、二人は内心拍子抜けしてしまったのだった。


 カティアとレイン。

 二人は、あまりにも聞き分けが良すぎる。

 何か企んでいるのかと、疑ったこともあったが、今のところ何一つとしてしてこない。悪戯さえも。


 二人としては、それが段々と寂しく思えてきたのだった。


 双子には常日頃から、己を律するように教えている。

 しかし、やはりまだ幼いのだ。

 もう少しばかり、自分というものを出してくれても良いのではないかと思っていた。


 だが、それは自分たちの我が儘に過ぎないということを二人はよく理解していた。

 常に己を律しているのは、自分たちだって同じなのだから。


 時折、サイラスとマリーは自分の顔を無意識に手で触れることがあった。

 そして、そのたびに強く認識することになるのだ。


 ――この仮面のような無表情の顔を。


 自分たちは、双子を正しく導かなければならない。


 そのために、表情は不要と判断した。

 表情を縛ることでより強く己を律することが出来るからだ。


 不用意に表情を変えてしまえば、自分たちの『覚悟』が鈍ることにも繋がる。

 故に、二人は無表情を貫き通してきた。


 時折、鏡を見るたび、二人は自分たちの姿が成長していると実感する。

 そして同時に、自分たちの顔つきを見てこの先不安に思ってしまい、より一層無表情を固めることになる。


 ――二人にとって、表情とは鎖であり、枷でもある。


 今後、自分たちが笑うことなど絶対に訪れないのだと二人はそのように考えていた。

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