直接確認 1
昨日のサイラスとマリーの言葉を胸に刻んだ私たち。
そのために、そのことが無性に気になってしまったのだった。
もしかしたら、私たちに好意を持っている相手がいるかもしれない、という意味合いの言葉。
真相はどうあれきちんと確かめる必要がある、と私たちは判断した。
サイラスとマリーが、わざわざ言及した、ということは身近な人物である可能性が高い。
なら、放置しておくことは出来ない。
何かしらの話はすべきだろう。
なので私たちは、学園に到着した後、自分たちの知り合いに直接自分たちのことをどう思っているのか、率直な感想を聞くことにしたのだった。
と言っても、流石に露骨には聞けない。
それとなく聞き出さなければ――
「おい、貴様。俺のことをどう思っている?」
無理だった。
呪いが発動してしまい、直球すぎる発言になってしまった。
弟も同じであったみたいで、私の隣で「あかーん!」と言葉には出さずに瞬きを繰り返していた。
「は? お主たちのことをか?」
「あなた方をどう思っているか、ですって……?」
目の前の二人が、不審な目を向けてくる。
私たちがまず最初に聞いたのは、テオバルト皇子とその隣にいた一人の少女だ。理由は、偶然私たちの目の前を通ったから。
ちなみに、その少女とは『夜会』の時に私たちの命を狙っていた刺客の一人であるイリスタチス王国出身の少女である。
「正直に言うと、余にとって恩人だな、お主たちは」
「正直に言うと、今すぐくたばって欲しいと思っていますがそれが何か?」
両者からはそれぞれ真反対の言葉を告げられた。
テオバルト皇子からは感謝され、元刺客の少女からは殺意を向けられる。
ここまで対極の感情を同時に向けられるとは思わなかったので、私たちは内心ちょっと戸惑いながら「そうか」と頷いて彼らの元から立ち去ることにした。
「は? それだけなのか? どういうことだ……?」
「何がしたかったんですか、あの人たち……」
後ろからそのような声が聞こえてくるが、まあ今は気にしないでおこう。
今は、とにかくどんどん確認していくことが大事だ。
と思ったが、私たちは強い視線を背後から感じて振り向かざるを得なくなる。
そう、サイラスとマリーだ。
彼らは、文句を言いたそうに私たちをじっと見つめていたのだった。
ち、違うから! これ、昨日したやりとりとは無関係だから!
心の中で、そう言い訳してしまう。
どうやら二人とも、私たちがまさかこのような直接的な手段に出るとは思っていなかったようだ。
でも、私たちとしては仕方がないのである。
現状二人の言葉に全く心当たりが無いし、かといって二人の言葉を無碍にすることも出来ない。
故に間をとって、このように行動することにした、というわけなのである。
とにかく、虱潰しに試してみるしか無いだろう。
私たちは一般的な常人であって、エスパーでは無いのだから。
なので、私たちは「ん? 何か問題でも?」と堂々と立ち振る舞う。
そう、開き直ったのだ。
「レイン坊ちゃん……」
「カティアお嬢様……」
それを見て、二人が呟く。
その声音はどことなく憐憫の色が含まれていたような気がするが、おそらく気のせいだろう。
さあ、がんがん行こう。
と言っても、朝のホームルームが始まるまでそれほど時間が無いので、後一人か二人くらいしか聞けないけれど。
――次は誰にしようかな。
私と弟は、獲物を狙い定めるため、思考する。
その間、わずか三秒。
時間が無いので、私たちはパパッと決めたのだった。
『王族二人、だね』
『だね』
やはり彼らが最も気になる。
別に私たちに対して好意を持っていなくても構わないから、彼らが私たちをどう思っているのか純粋に興味があった。
確か昨日、コレットからは友達ともライバルとも言わなかったと教えられたし……。
そのため、とても気になってしまう。
彼らの目には、私たちがどう写っているのだろうか。
……まあ、もしも私たちに彼らが好意を持っていたら、嫌ではないし、むしろ嬉しいとは思うが……。
そのように考えながら、私たちは王族二人がいそうな場所に向かう。
そして、ちょうど学園内の敷地の人通りの少なくなっている場所を歩いている王族二人を見つけたのだった。
なので、私たちは出来るだけ気配と音を殺して接近する。
いつものように逃げられては、面倒だったからだ。
「っ!? レイン・メアリクス!?」
「か、カティアさん!?」
そこそこ近くまで接近していた私たちに気づいた二人は、驚きの声を上げる。
なので、すかさず私は二人の後ろに回り込んで、弟と挟み撃ちにするのだった。
――もう逃げられないぞ。
私たちは、そのように目で告げる。
そして、戸惑う二人に先程と同じように告げたのだった。




