↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/366

血統

 結局何も思いつかないまま屋敷に到着する。


 屋敷に戻ると、私はすぐに父に呼ばれることとなった。


 書斎に行くと、私の姿を見てほっとした表情の父が椅子に腰掛けていた。


「父上、ただいま戻りました」

「ああ、良かった。どこも怪我はないか、レイン」


 立ち上がり、心配そうにこちらに向かって歩み寄ってくる父。

 それに対して私は、これ以上心配させないよう自信満々の態度で応える。


「はい、この通り傷一つ負っていません。ヘリアン殿下を拐った賊はこの手で捕らえましたので、ご安心して下さい」

「そうか、良かった。何よりだ」


 父は、緊張を解くように大きく息を吐いた後、私の両肩に手を置く。


「レイン、よくぞ無事に戻って来てくれた。お前は自慢の息子だよ」


 そういう父に対して、私は「お父様、私はカティアです。娘です」と思う。

 けれど、彼の心の底から喜ばしいという表情により、そんな突っ込みも今は少しばかり控えることにしたのだった。


「しかし、何故あの場所に賊がいると分かったのですか?」


 何だか少し気恥ずかしくなった私は、話題を変えるように最初から父に対して疑問に思っていたことを尋ねる。


 ヘリアン王子を救うことが出来たのは、ほとんど父のお陰である。

 あの地図があったからこそ、私はまだ間に合う内にヘリアン王子の元にまで行くことが出来たのだから。

 それに、一週間前の時には、私に対して頼みごとだってしている。


 つまり父はかなり前から賊の計画を看破していたのでは無いだろうか。

 そう思えてならないのだ。


 すると、父はどこか遠い目をするのだった。

 そして、ポツリとおもむろに呟く。


「そうだな……。正直に言ってしまえば、長年培ってきた経験則ということになる。確固たる根拠はなかったが、強い確信はあった。だから、迂闊に誰にも言えなかったのだがね」


 どういうことかというと、父は「そろそろ王族の誰かが事件に巻き込まれる頃合いだろう」と思ったため、細心の注意を払いながら用心していたに過ぎなかったのだった。


 その予感は幸か不幸か見事に的中し、結果として父は迅速にフォローを行うことが出来たのである。


 実を言うと父は、王都でヘリアン王子とサフィーア王女が襲撃されるという情報を掴んだ際にすぐさま誘拐された後の逃走経路や潜伏場所の候補を文字通り虱潰しに調査したのだった。


 そして、今回当日の賊たちの逃走した方角から、偽装工作も含めてある程度の当たりをつけて、地図に記した。それだけの話である――ということだった。


 父は「どうやら今回も当たりだったようだな」と苦笑を浮かべる。


 基本父だけが、影武者ではなく王族の誰かが誘拐されるという一番最悪のパターンを前提として動いていたため、今回の対処が出来たのだということらしい。


「こういうのは慣れだ。何度も経験していれば、直に分かってくる」


 父はどうやら今回のような「皆、万全の態勢で失敗など起きるはずもないと思っていたところを、想定外すぎる事態が起きたことで大失敗が引き起こされることとなる」という状況を何度も経験しているらしかった。


「しかし、今回で王家も十二分に懲りたはず。もうこのような事態にはならないでしょう」

「――甘い。甘いぞ、レイン。あまり彼ら王族たちを見縊らない方がいい。今回こそ被害が比較的軽微な状態で済んだが、場合によっては収拾が全くと言っていいほど付かなくなることだってあるんだ」


 何かを思い出したかのように、少々熱っぽく語る父。

 父曰く、この国の王族は非常に注意しなければならないという。


「彼ら王族たちは御伽話に登場する、竜に魅入られた姫君だと思った方がいい。――なぜかは不明なのだが、本当によく分からない理由で拐われることが多い。その度に私たちメアリクス家の者が、必死になって連れ戻しに行くことになる。これについては今後も変えようのない宿命だよ、本当に……」


 父はそう言って、疲れ切ったような表情で溜め息を吐くのだった。


 その顔からは、長年の苦労の軌跡が手に取るように見て分かる。


 父は多くを語ろうとはしなかった。心なしか、したくなかったと言った風にも見えた。

 

「――とにかく、この先、何度もこういうことがあるだろうが、私の代わりにどうか頑張ってくれ。期待してるぞ、レイン」


 そして父は、最後にそう締めくくる。


 いや、えっ、えぇ……。嫌すぎる。

 今後何度もは流石にちょっと……。


 父の手前、頷くことしか出来なかったが、私の心中はその気持ちで一杯であったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 話の構成がとても某の好みで毎回楽しみにしています。 かざなみ先生の文章の書き方が大好きです。とても心を動かされます!主人公の思考と行動でいつも笑みが絶えません笑大好きです‼ [気になる点]…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。