従者たち 2
サイラスとマリーは対面することとなった幼い双子を見て、ひどく混乱することとなったのだった。
――何故、二人は衣服を交換しているのか。
その理由が分からなかった。
その双子の姿はまるで――のようだ。
そのように、二人は思ってしまう。
なので「これは一体どういうことでしょうか? 聞いていません」と、二人は現当主であるアーロンに視線を向けた。
すると、アーロンは紹介を促されたと思ったのか、二人に幼い双子を紹介し始める。
「こちらがカティアで、そちらがレインだ」
そのように言われたが、彼が指し示した順番からどう見ても性別と名前が一致していない。
ドレス姿の少年をカティアと称し、スーツ姿の少女をレインと称した。
まるでちぐはぐだった。
一体どういうことなのか。
しかし、そのまま混乱しているわけにはいかない。
従者として、相応しい対応をしなければ。
そう考え、サイラスとマリーはすぐさま恭しく一礼する。
そして、自分の主となる相手に対して手短に自己紹介を行なった。
それを見て、アーロンは満足そうにしていた。
無事に顔合わせが出来たと思っているのだろう。
しかし、従者二人からすれば目の前の最大の疑問が拭えないままだ。
それについて訊くべきなのかと、一瞬迷う。
しかし、それは不要だと判断した。
おそらく現当主であるアーロンには、何かしらの考えがあるのだろう。
でなければ、このような不可解な紹介をされるはずがないのだから。
一瞬、現当主が我が子二人の見分けがついていないだけなのかと思ったが、それならば目の前の双子が衣服を交換していることについて説明がつかない。
おそらく後で、アーロンから何かしらの話があるだろう。
こちらが納得出来るような話が。
そのように考えながら二人は早速レッスンに取り掛かることにした。
サイラスとマリーは二手に分かれる。
サイラスは、スーツ姿の少女を屋敷の中庭まで連れて移動する。
マリーは、使っていいと言われている部屋へとドレス姿の少年を伴って向かった。
そして、そこで各々レッスンを施したのだった。
まずは双子の適性を見なければならない。
素質は十分か、どのような性格なのか。
それを自分たちの目で見て判断しなければならなかった。
故に、レッスンは最初からとても厳しいものとなる。
サイラスとマリーの時もそうだった。
彼らがこれからなるのは、『悪役』なのだ。
進むのは茨の道である。生半可なレッスンでは、かえって二人を不幸にしてしまう。
そのため、サイラスとマリーは決して手を抜くことはしないと決めていた。
幼い双子は、突然始まったレッスンに戸惑いを覚え、理不尽な目に遭わされていることについて、途中から怒りを覚えていたようだ。
そして、従者二人を睨みつけてくる。
――性格は、負けず嫌い。そして、好戦的。
悪くない。
いや、これ以上ないほどに素晴らしいと評価すべきだろう。
幼い双子は、最初顔を合わせた時からずっと不安げな顔をしていた。
何か、気にかかることがあるようで、少しばかり集中力に欠けていた。
しかし、途中から思考の切り替えが上手く出来たらしい。
目尻に涙を浮かべながらも、双子はレッスンについていこうと必死になっていた。
――自分たちの役目をまだ完全には理解していないが、今こなすべきことはきちんと把握している。
幼いながらも、なかなかに聡い。
これは仕え甲斐のありそうな主だと、従者二人は心の中で思う。
そして、それなりに上機嫌になってしまい自分の主へのレッスンにより一層熱が入ってしまう。
二人して、後でやり過ぎてしまった、と反省することになるが、しかしそれでも双子は脱落することが無かった。むしろ、一層やる気に満ちていたように見える。
それを見た時は、二人とも驚いたのだった。
そこで従者二人は、何故アーロンがあのように双子を紹介したのか理解する。最初は、単に――な自分たちに配慮してくれただけかと思っていたのだが、そうではなかったのだ。
そして当然のごとく従者二人は、幼い双子の主をこう評価することになる。
――いずれ、必ずや自分たちを易々と超えてくれるであろう、と。




