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聞き取り 4

 コレットは、打ち明ける。


 そういえば以前王族二人は、私たちのことについて聞かれた時、少し答えに窮していた、と。


「お二方とも、『もちろん好敵手同士であり、友人――』と答えかけていたのですが、何故かその後、言葉が途切れてしまったのです。そして、ご自分ですぐさま他の話題を振っておいでになられた気がします」


 彼女は、そのように告げたのだった。


「……確かに、言われてみれば、それは不自然だと思いますね」


 ジェシカが肯定する。

 ハワードも「確かにな」と呟いた。


「ヘリアン殿下は、いつもそのようにレイン・メアリクスのことを認識していた。なのに、断言もせずに話を逸らしただと……?」

「同じくサフィーア殿下も、カティア様をそのように思っておいででした」


 だから、おかしいのだと、二人は言った。


「ジェシカ。これは思っていた以上に非常事態なのではないか……?」

「私もそう思います、ハワード。一大事です」


 二人は突然、慌て出した。


 それを見て、私たちは戸惑うしかない。


 え、いきなり何……?

 二人して、何故深刻そうな顔をしているの……?


「分からないのか? あのヘリアン殿下が、だぞ。あの誰に対してもお優しいヘリアン殿下が、レイン・メアリクスに対してだけ、言葉を躊躇ったんだ」

「サフィーア殿下は、いつもカティア様を気にかけておられました。なのに今は好敵手でもなく、友人でもないと、そのように仰ったかもしれないと言うのですよ?」


 そして二人は、私たちに詰め寄ってきた。


 空き教室に入った後、皆で椅子に座っていたのだが、二人は勢いよく立ち上がって私たちの元まで来たのだった。


「お前たちは、殿下たちに一体何をしたんだ……!?」

「あなた方こそ、何か心当たりがあるはずです。正直に仰って下さい……!」


 そのように、語気を荒くして言われてしまう。


 いつの間にか、私たちとお目付役二人の立場が逆転してしまっていたのだった。


 一方、私たちは困惑するしかない。

 正直、あまりぴんと来ていないのである。


 ……え、王族二人は私たちに気遣ってくれたんじゃないの……?


 そのように、思ってしまうのだ。

 私たちは、悪役である。


 なので、いつものように友人や好敵手、と答えてしまうと、悪役である私たちのイメージダウンに繋がるのではないか、と二人は思ったのだと、私たちは予想していた。


 ゆえに、別におかしなことではないと思っていたのだが……。


「認識が浅いぞ、レイン・メアリクス! そもそもヘリアン殿下は、未だにお前たちの役目を理解していない!」


 あ! そうだった!


 それを聞いて私は、はっとする。


『え、何? どういうことなの?』


 そのように弟が、首を傾げたので簡単に説明する。


『ほら、サフィーア殿下は、私たちのお役目のことについて王都巡りをしていた時には、もう気づいていたでしょ? でも、ヘリアン殿下はまだ気づいていない。だから、私たちのことを多分口と性格が悪いだけの変わった人たちだと思っていると思う』

『えっ!? まだ気づいていなかったの!? 鈍すぎない!?』


 弟が、びっくりしていた。

 私も今思い出して、びっくりしている。


 そうだ、そうだった。

 ヘリアン王子は、まだ知らないのだ。


 ――私たちが、『悪役』であるということを。


 初めて彼と対面して決闘を行なって以降、おそらく彼は律儀に約束を守り続けているのだろう。


 ハワードの口振りからすると、どうやら他人に聞くこともしていないらしい。


 彼は、私たちが『悪役』であることを知らない。それは鈍いのでなく、単に全く気にしていないのだ。あまりにも器が広すぎる……。


 そんな良い人すぎるヘリアン王子が、私を友人とも好敵手とも呼ばなかった。


 私とは、もうかれこれ一年以上の付き合いだというのに。


 え、じゃあ、彼は私のことを一体何だと認識しているの……?


 そのように、疑問に思ってしまう。

 ハワードは、先程からそれを指摘していたのだ。


「――正直、サフィーア殿下のことは分かりません……。ですが、ヘリアン殿下のことについてなら、予想を一つだけ立てられます」


 ジェシカが突然、そのように口走る。

 そして、その表情は、何故か微かに赤らんでいた。


「――ずばり、ヘリアン殿下のご様子がおかしかったのは、レイン様への恋心ゆえではないでしょうか?」


 突然、とんでもないことを言い出したのだった。

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