帰路
騎士団と合流した後、私は強制的に帰宅させられることになった。
今回の大事件の一番の関係者であるため、万が一を考えて自分の屋敷でしばらくの間待機しておいて欲しいとのことであった。
まあ、確かに少し考えれば当然のことである。
賊は捕らえられたが、これで全員かどうかは分からないのだから。
後で闇討ちでもされて、周囲に被害が出てしまう可能性も完全には捨て切れない。
妥当な判断であったため、私は従うことにしたのだった。
ちなみに、ヘリアン王子は私と別れ、そのまま騎士団と共に王宮に向かうことになる。
王都に戻ったら、念のため精密検査を受けなければならないらしい。
それもまた当然と言えば当然である。
正直私も乱暴に気絶させてしまったので、彼の体の状態について心中でかなりの心配をしていた。
けれど、そこで待ったの言葉をかける者がいた。
まさかの当の本人のヘリアン王子である。
「いや、駄目だ。少し待って欲しい。実は今日行うはずだったレイン・メアリクスとの決闘がまだなんだ。せめてそれを終えてからにしてはもらえないだろうか?」
ヘリアン王子は、第一騎士団の団長に対して「頼む」と真摯な態度で頭を下げるのだった。
そして、彼の言葉により私も思い出す。
そういえば、そうだった。
今日は決闘の日だった。今の今まですっかり忘れていた。
――あ、そういえばサイラスを学園で待たせたままだ。
……どうしよう。
彼を置いて自分だけ帰るのは躊躇われるけれど、騎士団からは屋敷で待機していろと言われた以上従わないわけにはいかないし、どうすればいいのだろう。
仕方ない、乗ってきた軍馬は帰宅後すぐに騎士団の人が返しにいってきてくれるらしいので、その時にサイラスへ言付けてもらおう。
そう決めて、次はヘリアン王子への対処を始めることにする。
騎士団長の彼が困り顔であったからだ。
さすがに助力しなければならないと思い、私はヘリアン王子に対して告げる。
「おい、ぐずぐずするな。さっさと帰れ、雑草風情が。まさかそこら中に生えている草木に対して同族意識でも芽生えたわけではないだろうな?」
「いや、もちろん違うが、まだ君との決闘が――」
「そんなもの後でいくらでも相手してやる。さっさと帰るぞ。それともまだこんなところに居たいのか?」
私がそう言うと、ヘリアン王子は渋々な表情ながらも「……分かった」と頷いたのだった。
「また学園で会おう。君との決闘を楽しみにしているよ」
そう言い残して、ヘリアン王子は騎士団の団員たちに連れられていったのだった。
私はそれを見送る。
遠ざかっていく団員たち。対して肝心の団長といえば、
「あの王族のあしらい方の上手さ、やはり血筋……! ひぃっ!!」
何故か私を見て、戦慄しながら悲鳴を上げていた。
正直彼の反応が何だか鬱陶しく思えてきてしまったので、私もさっさと帰ることにする。
「あっ、アーロン先輩――お父君には、どうかよろしくとお伝えしておいて欲しい! あっ、やっぱり無し。どうかお伝えしないで欲しい! なんか後が怖いから」
いや、どっちなんだ。
はっきりさせて欲しいのだけれど。
何だか迷っている様子だったので、とりあえず父には彼のことを事細かに伝えておくことに決めた。
そして、馬を走らせながら、ふと思う。
――あれ、今ってかなりのチャンスでは? と。
そういえば、今は完全にフリーの状態である。
あのぴったりと張り付いていた従者がいないのだから。
それに周囲に人の目もない。
どうにかして弟とコンタクトをはかることが出来れば、後はマリーを引き離すだけでいい。
いや、でもマリーはよほどのことがない限り弟から離れることはしないだろう。
……駄目だ。それが一番難しい問題点である。
私は、他に何か策は無いかと思考を巡らせながら帰路に就いたのだった。




