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「はい、別に構いませんよ! あと、お兄ちゃんの命は別に惜しくはないですね。むしろ、要らないです」


 私の言葉に対して、コレットはそのように快く即答する。


 そして残念ながら、キースは実の妹から嫌われていたようだった。


 可哀想……。


 思わず私は、キースに同情してしまった。


 ま、まあ、とにかく今は場所を移そう。


 そう思い、私はコレットと今まで決闘を見学していたサイラスを連れて修練場を出る。


「「「きゃー!! レイン様ー!!」」」


 すると相も変わらず、女子学生たちが私の出待ちをしていて黄色い声を上げるのだった。


 二年生に上がった時には、どういうわけか私のファンクラブが出来てしまっていたらしい。

 なので、彼女たちは昔よりも見るからに統率が取れていた。

 あの様子だと、恐らく訓練を行なっているのだろう。日に日に威圧感が増してきている。


 しかしそう思っていると、私と歩くコレットの姿を見て、彼女たちは表情を曇らせた。


「誰ですの、あの娘!?」

「まさかレイン様にお相手が!?」


 いつもとは違った反応。


 ……ああ、そういえば今日はコレットを連れているから、そのせいか。


 基本的に、コレットが「インタビューさせて下さい!」と声をかけてきても冷たくあしらっているので、今日だけ彼女が普通に同行しているものだから、不審に思ったのだろう。


 だが、安心して欲しい。


 私は、コレットと同様にその性別は歴とした女子なのである。


 まあ、誰にも言えないけどね……。


 そのように私は心の中で呟く。


 ……あと、安心して欲しいって何だ。

 私は一体誰に弁明しているんだ……。


 女子学生たちがあまりにも騒ぐものだから、いつの間にかスターを気取ってしまっていた。


 危ない危ない。


 私は、悪役なのである。

 人気者になってどうするというのか。


 私はそう思いながら、女子学生たちの間を進む。


 女子学生たちは、一糸乱れぬ動きで私の前から素早く退いて、「さあ、どうぞ」と道を開けてくれたのだった。


 私はそれを見て、内心唸った。


 やはり、大分訓練されている……。海をぱかりと割ったなんか偉い人になった気分だ……。


 そしてコレットも私の後ろをぴたりとくっついて歩いている。


 同時に背後から紙と筆が擦れる音が聴こえてくるので、恐らく目の前の出来事を記事にしようとしているのだろう。


 ちょっとやめて欲しかった。


「やっぱりメアリクス先輩は凄いお一人なんですね!」


 そして、なぜかそのように称賛してくるのだった。


 いやいや、凄くないからね……。凄いのは、今現在周囲で質の高い連携を見せる彼女たちだからね……。


 私としては、そう思ってしまう。

 しかし、コレットは私の内心など知る由もなく、弾んだ声音で言葉を続けた。


「実は私が入学する前、あのお兄ちゃんが、メアリクス先輩に『何も出来ずにボコボコにされた……』って落ち込んだ様子で愚痴ってて、正直とても精々しました。『ざまあみろ!』って。なので、こうしてお話を聞かせて頂ける機会が出来てとても嬉しいんです、私! あの憎きお兄ちゃんをボコボコにしてくれたお礼を言いたくて――」


 ……ちょっとキース、さっきからめちゃくちゃ嫌われすぎじゃない???


 どうしたの……? 実の妹に一体何をしたら、こんなに嫌われるの? ヘリアン王子の次くらいに気になって仕方がないんだけど……。


 私は、そう思いながら彼女の話を聞きながら「そうか」とぞんざいに相槌を打つ。


 すると、コレットは嬉しそうに言った。


「はい! 私の大好きなプリンの仇を取って下さり、本当にありがとうございました!」


 あー、大好きなプリン食べちゃったかー。


 なるほど。それは嫌われるね、確実に……。


 もしも私がキースの妹だった場合、同じくキースを嫌いになると思う。絶対。


 最初はキースに同情していたけど、今は全然出来なくなってきていた。


 だって、この感じだと、絶対他にもやらかしている感じなのだ。

 だから残念ながら擁護出来ないよ、もう……。


 私は、そのように心の中で諦めた。


 ……しかし、彼女なかなかに肝が据わっていると思う。


 私のファンの女子学生たちから鋭い視線を向けられているのに、全く動じていない。

 流石だ。


 私がそのように感心していると、突然目の前に立ちはだかるようにして、一人の女子学生が現れた。


 ――サフィーア王女のお目付役のジェシカ・グランベルだ。


「ご機嫌よう、レイン様」


 そのように彼女は、私に声をかけてくる。


 彼女は、近頃よく私の周りで見かけるようになった。

 というか、二年生になる直前くらいからよく私の周りをうろつくようになったと後からサイラスに教えられた。

 何故、私の周囲をうろついているのか不思議に思っていたのだが、最近になってその理由に気付く。


 おそらく『夜会』が原因だ。


 あの時、私は問い詰めてくる彼女を追い払うために、強引な手段に出たのだった。

 どうやらそれを彼女は根に持っているらしい。

 そのために、私の周囲を嗅ぎ回って弱点になる事柄を探っているのだと私は結論付けたのだった。


 故に以前に私を見て、にやにやしていたのも、弱点と思えるようなことを見つけたぞ、とほくそ笑んでいたからに違いない。鼻血を流していたのは、単に偶然だろう。


 ……やはり、彼女は厄介な相手だ。

 私の中での彼女の評価は、『夜会』の時よりも数段上昇している。


「何の用だ」

「いいえ、特にはありません。ただ挨拶を、と思いまして」


 確かに彼女とは、今日初めて会った。

 なので、放課後とはいえ挨拶をしてくるのは別におかしなことではない。


 だか、しかし、


「ふん、それだけではないはずだろう?」


 彼女の瞳には剣呑な光が見て取れる。

 間違いない。敵意だ。


 おそらく、コレットの姿を見て「幼気な一年生を拐かすなんて……最低ですね」と思っているのだろう。


 と、予想したのだが、どういうわけかその敵意が私にではなくコレットの方に向いていた。


 あれ、どういうこと……? もしかして、あれか。「こいつは私の獲物だ。すっこんでいろ」という感じなのだろうか……?


 ちょっと分からなくてなってきた。ヘリアン王子に続いて、ジェシカの心も全く読めない。このところ、私の想像力がとにかく駄目駄目だった。冴える時はとにかく冴えるのに……。くっ、この落差は一体何なんだ。憎々しい……。


「――そうですね。前置きは無しにしましょう。率直にお聞きします。その一年生の彼女とは、一体どのようなご関係なのでしょうか?」


 そのように思っていると、私が予想していた言葉をジェシカはかけていた。

 あれ、やはり私の想像通りだ。普通に冴えている。冴えてるけど、あれ……?


 何だか混乱してきた。

 予想が半分的中して、半分外れたからだろう。


 まあ、いいか。

 とにかく、彼女の問いに答えることにする。


「こいつとは、先程初めてまともに言葉を交わした。それだけだ」

「後付け加えるなら、私の兄がメアリクス先輩にお世話になりました!」


 物怖じせずに、コレットが私の後ろから声を上げる。


 それを聞いて、ジェシカの目の色が変わった。


「彼女の兄が、レイン様と……?」


 何だか、見るからにジェシカの心拍数が上がっているように思える。


 え、何? そこ気になったの? 何で……?


 本当、彼女の心がよく分からない。思えば、以前もよく分からなかったまま、彼女は私の前から立ち去ったのだった。


「はい! プリンの仇を取ってくれました!」

「彼女の兄が、レイン様とプリン……?」


 いや、もう意味が分からない。

 落ち着いて欲しい。


 私は、彼女の目を覚ますため眼前でぱんと手を叩く。


 彼女は、驚きの表情を浮かべてびくりと体を震わせるのだった。


 そして、すぐさま申し訳ありませんでしたと謝ってくる。

 本当、終始おかしな人だ。前は、確かまともだったって弟から聞いたんだけどなあ……。


 そういえば、確かお目付役二人の雰囲気が変わったのは、『夜会』の後からだった。


 王族二人の様子がおかしくなったのも、『夜会』の後。


 ……ん、あれ?


 ――もしかしてこれって明確な共通点なのでは??? 


 そして、思い出す。

 以前も、このようなことを考えていたな、と。


「おい」

「はい、レイン様。何でしょうか?」

「今、暇か? 暇なら貴様もついてこい」

「……えっ、はい……!?」


 私はそのようにジェシカに対して、声をかけたのだった。

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