戦いを終えて 1
あの後、パフォーマンス対決を終えた私たちは、旅芸人たちと握手を交わして別れた。
彼らは、自分たちの負けを認めると、「もっと精進する」と言って笑っていた。
観客たちも、大満足だったらしい。
私たちの奮闘を拍手で称えてくれたのだった。
そして、その後行列が消えて少ししてから、私たちは店内で働いていた者たちと、仕事を交代するため言葉を交わし、とても驚くことになる。
なぜなら、
「もうこちらは、当初の目的を達したわ」
どうやら店内組は、私たちのパフォーマンス対決が終えた頃と同じくして、皇帝(仮)の正体を見破ることに成功していたらしかった。
本当凄い。どうやったんだろう?
そう思って、弟に聞くとどうやら、このままだと埒が明かなさそうなのでゴリ押ししたらしかった。
信じられないことに、弟は、自分の持つ技術を用いて真正面から皇帝(仮)の擬態を破ったのだ。
流石は、私の弟。
真っ向勝負で打ち勝ったとか、カッコ良すぎる……。
うちの弟は、ただカワイイだけではない。
非の打ち所のない完璧な存在。いわば、究極完全体なのだ。
サフィーア王女とマリーも同じ意見だったらしい。
自分のことのように、嬉しそうに頷いていた。
しかしテオバルト皇子は、複雑そうな顔をしていた。
「確かに凄いが……少しばかり脳筋すぎではないか?」
そんなことはない。
まあ確かに我が家は、正々堂々相手を叩き潰すのがモットーではあるが、今回は正々堂々とした方が効果があったというだけだと思う。
だから、場合によっては、搦手だって使うつもりだ。
「でも、やはり僕としてもその姿勢は好ましいと思うよ」
ヘリアン王子も褒めてくれた。
その反応を見て、テオバルト皇子が「脳筋の国……!」と呟いたが、ただの誤解である。まあ、訂正を求めるほどに、こちらとしては切羽詰まっているわけではないので、別にその認識で構わないけど。
そして、色々と話し合った結果、私とヘリアン王子は店内の仕事に変わった。
もうこちらとしては、目的を達したので別に交代する必要は無かったのだけれど、どうやらテオバルト皇子が兄弟子の青年を怒らせてしまったらしい。
そのため、グラントと共に客引きの仕事をすることになったのだった。
幸いクビは免れたらしい。
何度も真剣に謝ったらしかった。
「早とちりをして、父と間違えてしまってな……」
それは確かに……怒ると思う。
しかも、力任せに組みついたみたいだし、よくクビにならなかったなと思う。
まあ、それはどうやら、皇帝(仮)も一緒になって謝ったから大丈夫だったということらしいが。
そんなところで、父親らしいことをするのか……と、私としては呆れてしまった。
まあ、何にせよ今日はこのまま何事もなく終わるだろう。
騎士団の尽力のおかげで襲ってきた刺客は、無事に全員捕らえたっぽいし、また新たな刺客が現れる! みたいなことでも無い限り、私たちとしては、そのまま手伝いを行うだけだ。
そう思いながら、私は店の仕事をこなす。
しかし、どういうわけか客たちからの反応があまりよろしくない。
「ねえ店員さん、なんか凄いことしないの?」
皆、そのような期待の眼差しで見てくる。
しないよ、もう。
だって、散々外でしてきたし。
それとあれは、客引きの一環として行なっただけで、店内でしても仕方がないだろう。
「じゃあ、一度に十人から注文を聞くことって出来る?」
……いや、何それ。出来ないよ。出来るわけ無いじゃん。
どんな超人なんだ、それは……。
そう思っていると、客たちは「前の女性店員たちは出来た」と言ってくる。
どうやら弟とマリーが、やっていたらしい。
サフィーア王女も五人くらいまでなら大丈夫だったとか。
ここにいたよ、超人たちが……。
私とヘリアン王子は、戦慄したのだった。




