譲れぬ戦い 12
「――思った以上にやり辛い相手で驚きました、先生」
「君たちよりそれなりに多く歳を取っているからね。あっさりと負けてしまったら、立つ瀬が無いよ」
『青』の兵士筆頭である青髪の女と、『緑』の兵士筆頭である初老の男は向かい合っていた。
先ほどから、膠着状態に陥っていたのだ。
青髪の女が自分の部下と共に攻めても、初老の男と彼の部下たちは、回避に専念して何一つ損害が出ていなかった。
そして、次々と放たれる矢を回避しながら、罠を仕掛けるのだ。
青髪の女はそれを冷静な面持ちで看破し、解除または回避する。
互いに一歩も引かない。
故に、状況は自ずと変化しなくなってしまう。
「矢は、あとどれだけ残っているのかな?」
「さあ、どうでしょうね。そちらも、罠はどれだけ残っているのでしょうね?」
「さあ、どうだろうね?」
青髪の女は矢筒を指で弾く。
初老の男もリュックにおもむろな動作で触れる。
互いに使用可能な装備の残りの数を確認しながら、二人は言葉を交わす。
「それで、いい加減に通してはくれないのでしょうか?」
「まさか。通常の任務では無いけれど、これも仕事のうちだからね」
「まあ、そうでしょうね。いくら力尽くで押し通ろうとしても、あなた達は全力で抵抗するに決まっている。厄介ですね」
「少し買いかぶり過ぎだと思うよ。僕たちが、君たち相手に何とかやれているのは、単に僕が養成学校時代に君の担任になった経験があるからに過ぎないんだ」
「それが、厄介だと言っているんですよ先生。どれだけ虚を突こうとしても、手の内を読まれていては意味がない。本当に、やり辛いことこの上ない」
「恐縮だね。優等生だった君にそう言ってもらえるなんて」
初老の男は、落ち着いた様子で微笑を浮かべる。
対して青髪の女は、表情を変えずに新しく矢を弓につがえる。
「――分かりました、先生。では、もう少し遊んでいきたいと思います。お付き合いをお願い出来ますか?」
「元教え子の頼みだ。どんと胸を貸そう。任せて欲しい」
そして、両者は再度、攻防を繰り広げることになるのだった。
♢♢♢
列に並んでいる客ではない、後から自分達を見物にしに来た観客たちが口々に言葉を交わしている。
私は、耳にその内容が飛び込んでくる度、無性に気になってしまうのだった。
だって、どうやらパフォーマンス対決を行なっているのは私たちだけではないらしいのだ。
複数の場所で、何だか派手に手品とか大道芸のようなパフォーマンスを行なっているらしい。
ある場所では、地面にいくつも穴を開けるマジックを行なったのだとか。
それは、普通に凄い。
ラーメン屋の手伝いをしていなければ、皆で見に行っていたと思う。
しかし、何なんだろう。今日は、路上でゲリラパフォーマンスをするのが流行っている日なのか。
よく分からないが、今日はそういう雰囲気というか気運なのだろう。
そう思っていると、対面している旅芸人たちが息を切らせながら私たちに声をかけてきた。
「……ベイビーたち、やるじゃない」
「ああ、まさかここまでだとは思わなかったなあ。はあ、自信無くすぜ」
「これだけ本気を出しても、まだ食らいついてくるとは恐れていりましたよ、ええ」
私たちは、本職の方々相手に張り合っていた。
二周を終えたが、未だ決着がつかない。
そして、もうすぐで昼の時間帯が終わる。
だが、まだラーメン屋には大勢の人々が並んでいた。
これでは、中の人たちと交代出来そうに無い。
客足が落ち着いた時でないと。
それに、そもそもまだパフォーマンス対決は終わっていない。
少なくとも、旅芸人たちとの勝負に決着をつけなければならない。
私たちは、そう思っていた。
「それでは、三周目に入って欲しい。次こそ、決着がつけばいいのだがね?」
旅芸人の座長が、そう言った。
だが、その表情には「まだ、もっとこの光景を見ていたい」と正直に表れている。
けれど、私たちはそれだと都合が悪い。
――だって、私たち別にここにサーカスしに来たわけじゃないし……。
パフォーマンス中、ちょっと忘れかけていたが、そもそもここに来たのはラーメン屋を手伝うためだ。
それに加えて、皇帝(仮)の正体を暴くという目的もある。
なので、ずっと店外にいるべきではない。
私とサイラスはともかく、ヘリアン王子とグラントは――
今思うと、私たち全員が好戦的だからこうして、パフォーマンス対決を行なっているのではないか。
なら次の客引きの仕事は、弟とマリーに任せた方がいいかもしれない。
二人もなかなか好戦的だが、さすがに私たちみたいに突然、見ず知らずの者たちと路上でパフォーマンス対決を始めるようなことはしないだろうし……。
むしろ、この手の輩が現れても上手いこと言葉でいなしてくれると思っている。
よし、後でそう提言しよう。
そう決めた。
そう考えながら私たちは、座長の言葉に頷いて引き続き、今日で何度目になるのか分からないほどこなしたパフォーマンスを行うための準備をまた行う。
そして「次こそ決めるぞ」、と前回よりも本気を出すつもりで、意気込んだのだった。




