譲れぬ戦い 6
――『青』の兵士たちは、内心、煩わしいと舌打ちする。
この現状は、自分たちにとってなかなか面倒な状況であった。
本来ならば、『赤』の兵士に対して最低限の援護を行う予定であった。
しかし、事情が変わった。それどころではなくなったのだ。
「――『青』の兵士だと? お前たちが、何故ここにいる……?」
『青』の兵士二人の前に現れたのは、三人の男たち。
その肩書は、ロドウェール王国の騎士ではない。
『青』の兵士たちと同じく、正真正銘ハノアゼス帝国の者たちだった。
「……『緑』、か」
『青』の兵士の一人が、呟く。
そう、彼らと対峙しているのは『緑』の兵士と呼ばれる『色』の兵士の中でも特殊な立ち位置に存在する者たちだった。
彼らには、通称がある。
それは、
「……まさか、皇帝陛下捜索隊と遭遇するとは思わなかったな」
『青』の兵士は、そのように嘘を吐く。
ラーメン屋には、あの『怪物』の姿があったことを確認している。
ならば、『緑』の兵士がいてもおかしくはないとは思っていたのだった。無論、建物の屋根の上という限定的な場所で鉢合わせるとは、全く思っていなかったが……。
「それは、こちらの台詞だ。お前たちは、何をしている? それに下にいるのは、『赤』の兵士だろう? 何故、彼らが騎士たちと戦っているのを止めない。答えろ」
『緑』の兵士たちは、鋭い視線を向けて厳しい口調で問い質す。
だが、『青』の兵士は、その問いかけに答えることはなかった。
すでに『緑』の兵士は、こちらのことについて半ば確信していると分かっていた。
故に二人して、矢を慣れた手つきで弓につがえるだけだ。
「……なるほど、それが答えか」
「今なら、見逃す。邪魔をするな。消えろ」
「それは出来ない。これは、帝国の兵士として看過できない問題だ」
そして『緑』の兵士たちは、それぞれ身につけていた装備を『青』の兵士に向けるのだった。
「……何だ、それは?」
しかし、それはあまりにも、この場に相応しくない装備の数々であった。思わず、『青』の兵士のひとりが、そのように呟いてしまうほどに。
それは武器ではない。
――強いて言うならば、大型動物用の捕獲道具だ。
『緑』の兵士の一人は、やや大きめなたも網を構え、もう一人は先端にとりもちがついた刺股を構える。そして、最後の一人は投げ縄を頭上でぶんぶんと振り回し始めた。
「見れば分かるだろう? 皇帝陛下専用の捕獲道具だ」
「馬や猪を捕まえる気だったのか……?」
「不敬だぞ、言葉を慎め! 皇帝陛下は、馬や猪ではない!」
「いや、大型動物用の捕獲道具で陛下を捕らえているのは、十分不敬ではないのか……?」
それに対して、『緑』の兵士は皮肉げに笑う。
「熊と格闘して勝利出来る陛下だぞ? 故に不敬ではない。適切だ。それに、きちんとテオバルト第三皇子殿下からの了承も得ている。言いがかりはやめてもらおうか」
「適切なのか……」
困惑する『青』の兵士二人。
結局、自国の皇帝を人ではなく動物と同列に見なしているのは変わらないのでは? と思うも、それを口に出す余裕はない。
『緑』の兵士の一人が、表情を引き締めた後、自分たちに告げてきたからだ。
「悪いが、お前たちを拘束させてもらう。事情は、本国に戻ってからゆっくり聞かせてもらおうか」
「……つまりそれが、お前たちの出した最終的な答えか。いいだろう、その選択を選んだことを後悔することになるぞ」
「それもこちらの台詞だ。我々が兵士でありながら武器を扱わない特殊な存在であるからと舐めてかかるつもりなら、痛い目を見させてやるぞ――」
そして、その言葉が合図となる。
次の瞬間、互いに対峙する兵士たちはすぐさま行動する。
青と緑。
こうして二つの『色』が、激突することになるのだった。




