更なる波乱
誰か助けて。
うちの従者が、その日の気分で私の心をへし折りに来る……。
三人に敗北した私は、心の中でさめざめと泣いた。
だが、簡単に引き下がるつもりはない。
私は負けず嫌いだった。
私は三人に対して、もう一度パフォーマンス対決を行うよう要求する。
今はラーメン屋の仕事の手伝いをしている最中であるが、しかし私は勝ちたいのだ。
この三人に。
私の要求に対して、三人はあっさりと承諾した。
流石に大人げなかったと、私に対して謝罪をしてくる。
「では、二対二の勝負でいきましょうか。それなら、公平でしょう」
サイラスが、そう提案する。
どうやらジャンケンを行なって、ペアを決めるつもりらしい。
私は、最初渋ったが、少ししてそれで構わないと頷いた。私の要求通りには、いかなかったが、それはそれで面白そうだと思ったからだ。
他の者も続いて了承する。
そして私たちがそれぞれ握り拳を突き出して、ジャンケンを行おうとしたちょうどその時、
「――ちょっと待ってもらおうか!」
突然、私たちの前に乱入者たちが現れる。
視線を向けると、そこにいたのは奇抜な衣装を着た者たち。
そう、旅芸人の者たちだった。
「その勝負、我々も混ぜてもらおうか」
「ああ、これほど血が騒いだのは久しぶりだ。是非、君たちと競い合ってみたい」
私たちに向かって歩み寄ってきたのは四人の旅芸人たち。
彼らは、何故か私たちに対して競争心を抱いていたのだった。
「――君たちは、皆ダイヤの原石たちだ。是非、その才能を我々のところで開花させてみたいと思っている。だが、会ったばかりでいきなり勧誘されるというのも、君たちにとってはあまりにも不躾な話だろう。なので、一度段階を踏みたい。つまりは、今から君たちと打ち解け合いたいと思っている」
そう言ったのは、歩み寄ってきた旅芸人たちではない。座長だ。
旅芸人たちの後ろから座長の男が、私たちに対して冷めぬ興奮を抑えながら、至って冷静な口調で告げてくる。
「どうだろうか、ここは一つ我々のメンバーとパフォーマンス対決を行なってみてはくれないだろうか? もちろんタダでとは言わない。君たちが勝てば、我々の可能な範囲内で君たちからの要求を一つ応えたいと思う。そして、もしも我々が勝てば――」
座長は、にこやかな笑みを浮かべながらも鋭い視線を私たちに向けた。
「是非、君たちを勧誘させて欲しい。時間はそれほどとらせない」
座長は、どうやら本気だった。
おそらくは簡単に引き下がるつもりはないのだろう。
なので、私たちはそれぞれ視線を交わす。
――相手への返答はいかに?
そして、最初から決まっていると小さく頷いた。
幸か不幸か、この場にいる者たちは、基本皆負けず嫌いであり、闘争心の強い者たちの集まりであったため、答えは完全に一致していたのだった。
なので、私たちは答えを出すのに五秒とかからなかった。
私とヘリアン王子は、旅芸人たちに向かって看板を突き出す。
そこには「熱々のラーメンを喰らえ!」、「湯気と共にラーメンの神降臨!」と書かれてある。
そう、これが私たちからの要求だった。
「――なるほど、了解した。我々が、負けた場合、全メンバーで貴店に伺おう」
座長が、私たちに対して了承の言葉を告げる。
相手が私たちを勧誘したいというのなら、私たちもラーメン屋の店員として、彼らを勧誘したかった。
身なりや言動を見た感じ、それなりの規模の一座だろう。
私たちが勝てば、彼らが客となる。
ならば、断る手はない。
私たちは、予備の看板を旅芸人たちに渡す。
それを見た行列に並ぶ客たちが、狂ったように騒ぎ立てる。
「おい見ろ! 確か、今人気の旅芸人たちだ!」
「彼らのパフォーマンスを間近で見ることが出来るなんて、俺たちついてるぞ!」
「しかもタダよ!」
「凄い凄い! 来て良かったぁ!」
客たちの声を聞く限りでは、名の知れた旅芸人たちらしい。
だが、それがどうした。
私たちは、堂々と彼らと正対する。
こちらだって、名の知れたラーメン屋の臨時の店員である。
なら、王都内での知名度勝負的に多分どっこいどっこいだろう。
ならば、何も臆することはない。
それに、どれほどの強敵であろうと、私たちは打ち砕く。
今までも、これからも。そのあり方は、何があろうと未来永劫変わらない。
すでに、互いに準備は整っていた。
後は、勝負を始めるだけ。
行列に並ぶ客たちは、私たちの様子を固唾を呑んで見守る。
「――それでは、始め!」
座長が、開始の合図を下す。
ラーメン屋の店員と旅芸人。
――四対四のパフォーマンス対決が、今始まったのだった。
♢♢♢
「カイさん、やっぱりサーカスの人たち連れてきちゃったんだ……」
店の入り口から一部始終を覗き見ていたセリカは、そうひとりで納得するのだった。
 




