増援たち
「――というわけだ。明日、この料理店を襲撃する。話は分かったか?」
自身の部下から視線を外し、ジュディアスは近くにいた者たちに語りかける。
場所は、王都にある空き家の一つ。
そこには、ジュディアスとその部下以外にも、二人の人間がいた。
一人は、男。もう一人は女だ。
「……いやまあ、話は分かったが、何故ラーメン屋なんだ? 理由はあるのか。いや、お前たち『黒』を疑うわけじゃないが、皇帝陛下がこの場所にいるっていう根拠を知りたいね」
壁に貼られた地図を指差し、その片割れである赤髪の男が尋ねる。
「こちらも同意見だ。私たちが貴殿らと合流したのは、今日だからな。正直、何も知らないと言ってもいい」
次に、声を上げたのは青髪の女だ。
どちらも、ジュディアスに対して砕けた態度をとっていることから、友人としての付き合いがあるか、または同程度の階級があることを伺い知ることが出来る。
「二人とも、わざわざ来てくれて感謝している。だが、ある程度の情報は先に渡しているはずだが?」
「それを元に推測しろってか? 手間だ。お前から直接聞いた方が早い」
「いずれにせよ情報のすり合わせは必要だろう。貴殿の口から再度確認したい」
赤髪の男と青髪の男は、口々にそう告げる。
ジュディアスは、「まあ、いいだろう」と声を上げる。
「――二人には、今回よく働いてもらう必要がある。丁重にもてなすこととしよう」
「さらっとした感じでキレるなキレるな。お前、絶対俺たちが情報に目を通してないと思っているだろ」
赤髪の男が、首を竦める。
その言葉に対して、ジュディアスは「いいや、別に」と無表情で答えると、そのまま二人に説明するのだった。
「先に我々は、皇帝陛下と思わしき人物に対して、幾人か目星をつけていた。今回の動機は、色々と調べた結果『食文化』だったため、料理店に出入りする者たちを見張っていた」
「ほー、で、その候補のどれかが、皇帝陛下だったんだな?」
「いや、どれも違った」
ジュディアスは、首を横に振る。
「我々では、皇帝陛下を特定することが出来なかった」
「マジか。話には聞いていたが凄いな、陛下は。お前たちを欺くとか、もう人間技じゃねえな……。というか、全員違ったなら、どうやって分かったんだ?」
「前々から、この国の者たちの動向を探っていた。皇帝陛下は、彼らに見つけてもらったのだ。そして今日、皇帝陛下と思わしき者の周囲には騎士たちが秘密裏に警備を行なっていた。それが裏付けだ」
赤髪の男は、「ああ、なるほど」と納得する。
「そういえば確か、この国にはかなりやばい貴族がいるんだったな。手を出すと、即刻喉笛を噛みちぎられるとか何とか。そいつらなら、陛下を見つけられてもおかしくはないか」
「ああ、そうだ。そしてその噂話は、真実だった。事実、私が連れてきた部隊の一つがその者たちの手にかかって全滅したと思われる」
「おいおい、マジか……。お前が手塩にかけて育てた奴らだろう……? 六人全員やられたのか」
赤髪の男は「確かにやばいな、それは」と額に手を当てるが、その顔は好奇の色に染まっていた。
「どうやら、なかなか楽しめそうだぜ、この国は」
「それだけではない。この国の騎士団は総じて質が高い。それに、我々のもう一つの目標であるテオバルト第三皇子殿下の元には、『怪物』がいることも忘れないでもらたい」
「そうだったな、最高だ。来て良かったぜ」
赤髪の男は、体を震わせる。
それは歓喜によるものだ。
彼は、ジュディアスと同じく第一皇子ローランに才能を見出された者の一人だ。
しかし、現在彼は第二皇子クルトを信奉していた。
――それは、彼が『赤』の兵士であるからだ。
「俺たちは、あまりこう言ったちまちまとした仕事はしないが、たまには悪くないな。今回は少数で、しかも敵地のど真ん中だ。基本は有利な状況で、勝った数で敵を押し潰すような機会しかなかったが、劣勢での戦いというのもいつか経験してみたいと思っていた」
戦いが起きれば、真っ先に動員されるのが彼ら『赤』の兵士であった。
彼らは、ハノアゼス帝国にとって主力の存在なのだ。
そして、皇子の中で『赤』の兵士たちに対して最も影響力を持つのが、第二皇子クルトであった。
「俺たちは、クルト様に使われるのが性に合っている。だから、クルト様を皇帝にしたい。だが、ローラン様への恩を忘れたわけでもない」
赤髪の男は、ジュディアスを見る。
「だから、今のところは見逃してやるよ、ジュディアス。本当なら、俺たちはお前たちを今すぐとっ捕まえて帝国に連れ帰らないといけない」
赤髪の男――『赤』の兵士筆頭であり、『赤狼』と呼ばれている彼の任務は、ジュディアス・ラグハイルとその部下たちを連れ戻すことだった。
一部の『黒』の兵士たちが、理由不明の独断行動をとっている以上、放置は出来ない。それに、ロドウェール王国から「そちらの兵士たちが、何か良からぬことをしている」と苦情が来ている。
なので、早急に彼らは発見次第連行されて然るべきであった。
だが、ジュディアスは、そうなることを予期していたため、先に二人に情報を渡したのだ。
それは取り引きの情報であった。
――皇位継承争いにおいて障害となる者たちを先に消す協力をして欲しい。
そして、それを承諾した二人は、部下を率いて今日ジュディアスと合流したのだった。
「もちろん感謝している。今回のことは全て我々の責任にして構わない」
「まあ、お前がそれでいいならいいさ。お前たちが後でどうなろうと、俺は知らない。――まあ、今回お前たちだけが無事生き延びて、俺たちだけ全滅する、ということになる可能性も十分あるだろうが」
あくまで、一時休戦だが、その取り決めが本当に果たされるのか分からない。
赤髪の男は、そう疑っていた。
それに対して、ジュディアスは、彼からの視線を気にしない様子で受け流して言う。
「それは明日になってみれば、分かることだ」
「確かにな。まあ、いいだろう。明日は、お前の注文通りたくさん暴れてやるよ。な、お前もそうだろう?」
赤髪の男は、近くにいた青髪の女に声をかける。
「与えられた仕事は必ずこなそう。それが、私たちの主のためになるのなら」
青髪の女性は頷いた。
彼女は、『青』の兵士と呼ばれる狙撃や遠距離攻撃に長けた者たちの筆頭であり、『青鷹』と呼ばれる凄腕の狙撃手であった。
彼女とその部下たちは、赤髪の男とジュディアスの監視として派遣されたのだった。
そして、彼女たちはどの皇子を信奉しているのか、現在不明であった。
「頼むから、背中を撃たないでくれよ? 俺たちとしては、お前たちが一番怖い」
「そのようなヘマはしない。言っただろう。仕事はこなす、と」
「いや、ヘマじゃなくて、故意にやられるかと冷や冷やしてるんだが……まあ、それを今言っても仕方が無いか」
「彼女たちは、我々に協力してくれると言った。なら、それを信じるだけだ」
胡乱な目付をする赤髪の男に対して、ジュディアスは、そう言う。
しかし、赤髪の男としては、彼女を最も警戒しているのは自分ではなくジュディアスだろうと、心の中で予想していた。
――まあ、突然裏切らない根拠または策があるのか。それとも、端から信用してないかの二択だな。
赤髪の男は、そう判断する。
ともかく、こちらに顔を出してくれたことは大きい。
一応は、協力する姿勢を見せているということであるからだ。
――それに、そもそもこちらとしては『黒』の兵士たちも信用ならない。
だから、基本的な方針としては両方警戒する、ということが正しいだろう。
そう考えながら、赤髪の男は、明るい声で「まあ、とにかく明日はよろしくな」と二人に握手を求めるのだった。




