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お誘いという名のアプローチ

 翌日。


 昼休み、私たちは大食堂でランチを食べていた。

 四人用のテーブル席に着くのは、私と弟、それとヘリアン王子とサフィーア王女だ。


「レイン・メアリクス、ハノアゼス帝国の皇帝陛下と思わしき人物を見つけたと聞いた。君は本当に凄いな」


 皆でランチを楽しんでいると、私の真向かいに座ったヘリアン王子は、そのようにして称賛の声をかけてくる。


「私もそのことをお父様から聞きました。本当に凄いと思います」


 いやあ、それほどでもないけどね……えへへへ。


 二人から褒められて、私は内心「やった!」と喜ぶ。

 もちろん、外面は「はっ、当然だ」というような顔をしているけれど。


「それにカティ……レイン・メアリクスの姉君も騎士団の力になってくれたと聞く。君の協力に心から感謝しよう」

「カティアさんも、とにかく凄かったと騎士団の方々から聞いています。でも皆さん、一斉に口を噤まれてしまったので、どう凄かったのかは聞いていませんが……」


 そのようにして二人は、弟も褒めるのだった。

 それに対して、クールな表情で「それほどでもないわ」と紅茶の入ったカップを口に運ぶ弟だったが、横から見ると口角がほんのわずかに吊り上がっていた。どうやらめちゃくちゃ嬉しかったらしい。


 私たちは、心の中で「もっと褒めて!」と思いながら冷静な雰囲気で彼らと言葉を交わす。


「ところで、貴様らはハノアゼス帝国の皇帝陛下と面識があるのか?」

「ああ、皇帝陛下には何度かお会いしたことがあるよ」

「はい、私もお兄様ほどではありませんが、二、三度ほどは」


 なるほど、なら二人でも私があった人物が皇帝かどうかを見分けることが出来るということか。


 なら、言うべきか……?

 いや、言わない方が良いのか……?


 悩んでしまう。


「その、お二人とも、どうかされたのですか?」


 その時、サフィーア王女が、私たちの顔を見て、疑問の声をかける。


「私たちの顔に何かついていたかしら?」

「いえ、そういうわけではありませんが……何だかお二人が思い悩んでいるように見えましたので……」


 す、鋭い、サフィーア王女……。

 私たちは、何も表情を変えてはいなかったというのに、よく分かったと思う。


「ああ、僕もそう思った。君たちが良ければで結構なのだが、話してくれないだろうか?」


 そして、サフィーア王女だけでなくヘリアン王子も、私たちの心情を看破していたらしい。


 どうしたの、この二人……?

 もしかして、エスパー……?


 私は「やばくない?」と弟を見ると「まじやばいよ」と弟もこちらを見てくる。


 私たち双子の見分けがつくばかりではなく(実はからくりがあったけど)、心まで察することが出来るとは。


 二人と関わるようになって早一年が経った。

 だから、これは気心が知れてきた、というような状況なのだろうか。


 そして、ヘリアン王子とサフィーア王女――二人が現状の有力株ではないか?

 私たちは、そうも思うのだった。


 ……これは、もしかして期待して良いのだろうか?


 私と弟は、同時にごくりと喉を鳴らす。


 今まで、私たちは自分たちが入れ替わった状態から、元に戻るため様々な策を講じてきた。


 そして、そのどれもが尽く失敗に終わっていた。


 私たちは、基本自分たちだけの力でこの状況から脱却しようとしていた。


 だって、誰も私たちのことについて気が付いてくれなかったから――


 それに、他者に対して過度なアプローチを行なうのは、ルール違反に接触する可能性が高まってしまうことにも繋がる。ゆえに、私たちは第三者に対してこれまでアプローチをかけるのを意識的に避けてきた。


 だが、もしやこれは――


「ど、どうしたんだ、二人ともそんなにこちらを見つめて……」

「え、えっと……その、あまり見つめないで頂けると……はい、助かります……」


 私たちが向けた真剣な視線に対して、目の前の二人が恥ずかしそうに顔を逸らした。


 ……ん? ああ、ごめんなさい、二人とも。確かにまじまじと見つめすぎてしまった。


 私たちは、心の中で謝ると視線をずらす。


 そして、次に私たちは双子同士で視線を交わした。


『これは……言うしかなさそうだよね』

『うん、私もそう思う。二人に言おう』


 ここに来て希望の星が現れた。

 ならば、私たちに迷う暇などない。


「実は、お願いがあるの。聞いてくれるかしら?」


 その言葉に、目の前の二人は嬉しそうな表情を浮かべる。


「もちろんです。どのようなことでも言って下さい!」

「ああ、僕らでも可能なことならば、いくらでも言ってくれ構わない」


 二人は、すぐさま即答する。

 やはり、良い人たちだなあ。


 そう思いながら、「そう、ありがとう。嬉しいわ」と言う弟の次に、私は二人に対して問いかけた。


「貴様ら、ラーメンを食べたことはあるか?」


 それに対して、二人は首を傾げる。

 そのまま不思議そうに思っている表情で、首を横に振った。


「いや、まだ無いが、今王都でそのような料理が流行っていると聞いたことはある」

「そうですね、私もお兄様と同じです。聞いたことはありますが……」


 そして、ヘリアン王子が「その料理がどうかしたのか?」と尋ねてくる。


 ああ、そこら辺の話はまだ聞いていなかったのか。

 なら、どうするか後で相談してもらうことにしよう。


 そう思いながら、私は二人に話をこう切り出した。内心、恥ずかしいという気持ちを抑えながら――


「二日後の休日に、ラーメン屋の手伝いをする。可能ならば、食べに来い」


 その瞬間、二人の顔が、ぽかんとした表情に変わった。

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