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経緯

『なるほど、そういうことか……』


 私は、弟から今日入手した情報を全て聞き終える。

 弟の話は襲撃者たちから、そしてテオバルト皇子から聞き出したものだった。

 尋問した襲撃者たちに加えてテオバルト皇子も協力的で、かなり事細かく聞くことが出来たらしい。


 そして、状況を自分の頭の中で再度整理するため思考を巡らせた。


 まず、今回テオバルト皇子を襲撃した首謀者の名前は、ジュディアス・ラグハイルという名前のハノアゼス帝国の貴族らしい。

 そして同時に、『黒』の兵士筆頭の立場に位置する人物でもあるらしかった。


 彼は、今から十年前――十代半ばの頃に、第一皇子から言われた一言によって、才能を開花させた。


 それまで彼は、『落ちこぼれ』と称されてきた。

 彼には、何一つ才能と呼ばれる物が無かったからだ。


 本人も、それをよく自覚していた。

 だから、幼少の頃からずっと努力を続けてきた。

 様々なことに彼は関心を見せて、得意になれることを探した。

 何でもいい。一つだけでいい。自分にも、他者より優れた才能が欲しい。

 だが、いくら様々なことに取り組んでも、彼は人並みの才能しか得られなかった。


 しかし、彼にも転機が訪れる。


 偶然、会った第一皇子ローランの何気ない一言によるものだ。


 ――自分には才能が無い? そうか、でも才能が無いのも才能だと私は思うよ。とにかく、下を向いていないで胸を張ればいい。わざわざ輝く必要なんて無いと思うし、何なら『影』になってしまえばいい。そうは思わないかな?


 ――自分らしくあれればそれで良いではないか。


 まだ幼い少年であった第一皇子は、そう言ってジュディアスに語りかけた。


 それがきっかけだった。


 その後、彼は『黒』の兵士となり、第一皇子の言葉の通り『影』となった。


 もちろん『黒』の兵士となった後も、依然として彼には才能と呼べるものが何一つ無かった。


 けれど、彼には躊躇いの心が無かった。

 故に、瞬時に物事を見極め、身を竦めるほどの冷酷な判断さえも下すことが出来た。

 彼には、強い忠誠心があった。

 それ故に、どのようなことであろうと臆さず実行することが出来た。


 彼には才能が無い。

 しかし、その意志は強固で強靭。折れることを知らなかった。


 そして、第一皇子からしてみれば、それこそが彼の才能であったのだ。


 彼は瞬く間に、出世した。

 彼に失敗は無い。全てにおいて人並みの才能しか有していないが、裏を返せば全てにおいて人並みの力を発揮出来るということでもある。


 誰にだって苦手なものがある。弱点と呼ばれるようなものも。


 だが、彼にはそれが無かった。

 他者と競い合うことになった場合、彼は相手の得意とすることをせずに、相手が不得意とすることを行なう。

 正々堂々勝負をすることは決してない。

 自分が、人並みの才能しか無いことをよく理解しているからだ。


 得意となることも、不得意となることも自分にはない。

 だからこそ、どのようなことであっても、どのような相手であっても自分ならば対応出来る。

 最終的に、勝てばいい。成功すればいい。自分の才能など知ったことか。


 それが、ありのままの彼の本心であり、唯一無二の持ち味となったのだった。


 第一皇子と出会い、十年後となった今では、彼は『黒』の兵士筆頭の立ち位置にまで登り詰めた。


 ――そして、今回の出来事が起きた。


 彼は、己の才能を見出した第一皇子を信奉していた。


 故に、今回が又とない好機だと思ったのだ。


 ――第一皇子を次期皇帝にするための。


 彼は自分の部下に命令を下して、この国に足を運んだ。


 彼の目的は、第一皇子を皇帝にすること。

 今この地にはそれを邪魔する存在が二人もいる。


 皇帝と第三皇子の二人だ。


 彼はこの機会に、その二人をまとめて消してしまおうと考えたのだ。

 幸い、皇帝に限っては、この地にいることを知る者はごく僅か。

 そして、責任はロドウェール王国に押し付けることが出来る。

 そう考えて。


 第二皇子の始末は、後で行なう予定とし、まずは最も厄介な皇帝、そしてついでにテオバルト皇子を狙うことにする。


 しかし、それを私たちに邪魔されてしまった。


 それが、今までの経緯である。


 私は、内心笑った。


 まさか、相手がそのような目的の元動いていたとは。

 テオバルト皇子だけでなく、皇帝も狙っていたとは思わなかったが、確かに皇帝が帰国したら全てが台無しとなる以上、そうなるかと納得する。


 そして、ロドウェール王国に罪を被せるつもりだったとは……。


 なるほどねぇ……。


 そして私は、こう思う。


 いいね、上等だ。


 ――やれるものなら、やってみろ。


 相手としてはただ、狙っていた大物を釣り上げようとしているだけだろうが、その最中に私たちを巻き込んだ。

 なら、引き摺り込んでやろう。水中は思った以上に冷たく暗いことを今回の相手に教えてやる。


 そう、心に決める。

 そのためには、策を練ればならない。


 現状、最も有利なのはこちらだ。

 何故なら私たちは、皇帝の居場所を知っている。


 ……まあ、まだ暫定だけれど。


 だから、その切り札を軸として作戦を立てることが出来る。そこが大きい。


 そして、相手の目的も判明している。

 なら、こちらに負けはない。


 そう考え、私たちは意見を出し合い、今後のことに備えることにしたのだった。

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