襲撃者たち
次に弟は、騎士団員と共に『黒』の兵士と呼ばれる者たちを尋問した結果を私に話す。
『結論から言うと、テオバルト皇子を襲撃した首謀者は、第二皇子ではなかったよ』
『へえ、じゃあ第一皇子?』
『ううん、それも違う』
え、じゃあ誰だったの?
そう疑問に思う。
だって、二人以外にテオバルト皇子の命を狙う必要がある人物はいないのだから。
『といっても、あれだよ。違うけど、その首謀者は、第一皇子の関係者といえば関係者かなって感じの立ち位置の人物だった。ちょっと面倒な感じ』
そう、弟は私に伝えてくる。
弟の話を簡単に要約すると、とある貴族が、自らが信奉する第一皇子のために襲撃を行なった、ということであった。
以前にテオバルト皇子が言っていたけれど、第一皇子は人を育てることに長けている、らしい。そして、育てられたことで、恩義を感じた一人の貴族が勝手に先走ってしまった。そのため、今回の襲撃が起きたということであるようだ。
第一皇子のそのたぐいまれな才能は、幼い頃からすでに発揮されていた。彼の何気ない一言で、周囲の者が突然才覚に目覚めることも少なくなかったのだという。
そしてその対象となる者は、老若男女お構いなしであったのだとか。
無論、今回の首謀者も第一皇子によってその才覚を目覚めさせた者の一人だ。
『そして、これは朗報だね。なんと、その首謀者の彼――』
弟は、嬉しそうに私に告げた。
『この国にいるらしいよ』
♢♢♢
ジュディアス・ラグハイルは、自他共に認める『落ちこぼれ』であった。
だが、それはかつての話に過ぎない――
「なるほど、どうやら我々はこの国の者を甘く見ていたようだ」
彼は、冷静に部下の者たちが齎した情報を分析する。
彼がいたのは、王都の中央通りにある公園。
そこで、露店を開き果汁を凍らせた氷菓を売っていた。
「はい、今朝に見えたあの少年二人が、我々最大の敵であると認識しています」
「ああ、身のこなしを見ていれば、分かる。どちらも『怪物』並みだ。何も策を講じずにぶつかれば、我々は多大な犠牲を払うことになるだろうな」
ジュディアスは、隣で共に氷菓を売っている部下の言葉に対して、そう頷いた。
彼が、この国に足を運んだのには訳がある。
そもそも『黒』の兵士、その最高峰の一人である『黒影』の異名を持つ彼が他国に赴くなど本来ならば有り得ない話であった。
ハノアゼス帝国は、直轄の兵士の兵科を『色』で分類する。
兵士たちは、自身が与えられた『色』の役割を果たすことになるのだ。
そして『黒』を課せられた兵士は、隠密の役割を果たすことになる。
密偵として、あるいは暗殺者として――
闇夜に紛れることになる『黒』の兵士たちに、名前はない。
何故なら『黒』色によって、尽く塗り潰されてしまうからだ。
だが、ジュディアスは違った。
彼は、『黒影』の異名を持ったことで、その名前を取り戻すことになったのだった。
「私は、ローラン様にこの身の忠誠全てを捧げると誓った。本来ならばあるはずのないこの名前さえも捧げることで、私は自分自身を誓約で縛ったのだ」
「もちろん存じております、ジュディアス少佐」
部下の男は、そう応える。
よく理解していた。名前を持つ『黒』の兵士など、欠陥品もいいところだ。
考えてみるといい。ジュディアス・ラグハイルという名前、そして『黒影』という異名。目立つなどもってのほかである。
闇夜に紛れ込み、潜むことの出来ない密偵または暗殺者など、どれだけ腕が立とうと二流もいいところだ。
――そう、だからこそ、人は彼を恐れることになる。
そして、いつしか闇に溶け込めず、闇を背負う彼を、人は闇そのものだと思うようになるのだ。
「今回、実行に移したのは悪手だったのでは?」
「いいや、やるならば、今しかなかった」
ジュディアスは、そう断言する。
確固たる意志の元、彼は動いていた。
「この国には今、皇帝陛下とテオバルト第三皇子殿下が共に居られるのだ。そして、そのことを把握した上で、こうして動き、最も有利な状況にことを運ぶことが出来ているのは我々だ。ならば、今しかない。違うか?」
「いいえ、確かにその通りでした」
「君の言う通り、予想外のアクシデントが起きていることは、よく理解している。だが、必ず成し遂げてみせよう」
部下を前にして、ジュディアスは、そう口にする。
――ハノアゼス帝国が唯一存在を認め、世間に名を公表している『黒』の兵士。『黒』を課せられた者、
その筆頭『黒影』ジュディアス・ラグハイル。
第三皇子テオバルトを襲撃した首謀者でもある彼の目的は、こうだった。
「何があろうと当初の予定は変わらない。皇帝陛下とテオバルト第三皇子殿下には、この地で斃れてもらう」
――そして、いずれ第一皇子を次代皇帝としよう。
それが彼の望みだった。




