接触 1
私は、ハノアゼス帝国の皇帝の思考を予想する。
私が皇帝で他国を漫遊するとしたら、まずはその国の中心部に辿り着くことを目標とする。
通常ならば、最も賑わっている場所こそが、文化の中心であるだろうと考えるからだ。
ロドウェール王国という小国であるなら、尚更。
その後、地方を巡る形にすればいい。
なので、私は皇帝が王都にいると予想した。
そして、テオバルト皇子の口振りから、どうやら皇帝は衝動的に行動を起こしているらしい。
ならば、計画など特に立ててはいないだろう。
つまり、「とりあえずはまあ、ロドウェール王国の王都に行くか」となるはずだ。
だが、そこである問題が起きる。
変装を行なって王都に辿り着いたは良いが、どこの料理店に行けばいいか迷うことになるのだ。
もちろん、王都に辿り着く前にある程度は道中で「この料理がおすすめ! この店がおすすめ!」的な話は聞いているだろう。
しかし、実際王都を訪れると、まずはその店がどこにあるのか探さなければならない。
つまり、皇帝は何度か話しかけることになるのだ。
すなわち、王都の地理に詳しく、道案内も出来るような親切な人へ――
「あ? おすすめの料理屋はどこかって?」
「ある程度この国の料理を食べ慣れてきた外国の方に薦めるとしたら、ですか?」
なので、早速私は王都の中央通りに行くと、以前会ったことのある彼ら――チンピラたちに話しかけていた。
そう、彼らだ。
私が思う一番道案内してくれそうな親切な人と言えば、彼らしか思いつかなかった。
そもそも、彼らチンピラたちは外見に似合わず道で困っていそうな人を進んで助けるようなとても良い人たちの集まりなのだ。
なので、王都内でどこの料理店に入ろうか迷っていたら、高確率で彼らと接触することになるに違いないと私は思っていた。
何しろ彼らは、王都の彼方此方に見かけるのだから。
正直言って、そこら辺を歩いているガラが悪そうな見た目をした人がいたら、とりあえず彼らだと思えばいいと思う。
現に、目の前を歩いていたガラの悪い青年に声をかけたら、チンピラのリーダーとその弟である副リーダーの二人の元に快く案内してくれたのだった。
しかも二人は、久しぶりに会った私のことを覚えていてくれたらしく「おう、元気だったか!」、「これはご無沙汰ですね、お元気そうで何よりです」と嬉しそうに歓迎してくれた。
――そういえば、この二人、弟とサフィーア王女の文通友達だったなあ。
確か、二人が私とヘリアン王子を経由して彼女たちへ手紙を渡してからというもの、二人は彼女たちの文通友達となって交流を続けていると聞いていた。
まあ、それなら私のことも覚えているか。
あと、ヘリアン王子はよく彼らと会うみたいだし。
そのように独りで納得すると、私は彼らに尋ねる。
「そうだ。心当たりはあるか?」
「そりゃあ、あるぜ」
「もちろんです。そういった方とも、よくお会いしますので」
――ああ、良かった。なら、彼らに案内してもらおう。
皇帝の思考を予想しながらめぼしい料理店を一件ずつ回っていては時間が足りない。
なので、皇帝が最近訪れた可能性のある料理店を探そうと思っていた。
私は、「ちょうど朝から暇してたし、来いよ。連れて行ってやる」と意気揚々と先導する二人の後をサイラスと共についていく。
そして――
「ついたぜ、ここだ」
しばらく歩いた私は、チンピラのリーダーの声に反応して店を見る。
そして首を傾げることになった。
「ラーメン屋、だと……?」
――そもそもラーメンって何???
予想外のことに、完全に初見の料理だった。




