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タイムリミット

「何だこれは! 一体どういうことなのだ!?」


 中年男が、悲鳴のような声を上げる。


 その声を聞いて、中年男がヘリアンと会話をしている間、周囲を見張っていた騎士崩れの傭兵の男が不思議そうに彼に問いかける。


「あん? どうした、旦那? 依頼に関しては最善を尽くしたつもりなんだが、何か問題でもあったのか?」

「大馬鹿者! 最善を尽くし過ぎだ!!」


 中年男はヒステリック気味になりながら、騎士崩れの男を怒鳴りつける。


「は? いや、どういうことだよ。意味が分からん」


 やや混乱した風の騎士崩れの男。


「貴様たちに依頼したのは第一王子もしくは第二王女の誘拐だが、これを見ろ! この者は正しく第一王子ではないか!!」

「……ん? いや、それは当たり前だろ。何言ってんだ」

「ああ確かに当然のことだが、そうではない! そうではないのだ!!」

「落ち着け、オッサン。とにかく一回深呼吸しようぜ、な? 喉乾いてない? 葡萄酒ならあるけど。あ、干し肉とかいる……?」


 騎士崩れの男は、興奮する中年男を宥めようと努力を始めた。


 その様子を見ていたヘリアンは、察することとなる。


 ――ああ、なるほど。中年男は、傭兵たちに対して、影武者を誘拐するということを予め伝えていなかったのだと。


 大方、自分の策が完璧だと考えていたのだろう。

 そのため、傭兵たちに依頼について詳細な説明をしなかったに違いない。


 つまり自分の策に絶対の自信があったからこそ、馬車に乗っているのは、どちらも影武者であると信じきってしまったが故に起きた失敗なのだ。


 怒鳴り散らす中年男の言葉で、騎士崩れの男が徐々に現状を理解していく。


「はーん、なるほどな。本当は、影武者の方を拐いたかったのか。なら、王女様の方にしとけば良かったぜ。王女様の方は、明らかに影武者っぽかったからな。だから、王子様の方だけを拐ったわけなんだが」

「今更遅いわ! 馬鹿者!!」


 顔を真っ赤にしながら、中年男は叫んだ。


 それを聞いて、ヘリアンは呆れを通り越して感心する。


 つまり、この騎士崩れの男たちは、一国の王子を拐えと言う命令(本当は違う)を何の躊躇無くこなしてみせたと言うことなのだ。

 普通は尻込みするだろうに。


 その胆力は驚嘆に値するとヘリアンは思うのだった。


「まあ、失敗したものは仕方ないわな。それと、今回はちょいとマナー違反だぜ、オッサン?」

「分かっている。後で倍払う。それで文句は無いな?」

「ああ、それでいい。で、だ。どうする? この本物の王子様は」

「待て、今考える。しかし、それにしても何故影武者ではなく本物の第一王子が……」


 それは彼らにとって当然の疑問だった。


 だが、ヘリアンはそれに答えることはしない。


 正直、その理由が答え辛いものだったからだ。


 実は今日がレインとの決闘の日であるため、興奮のあまり前日つい夜更かししてしまったのだ。


 そして、翌朝寝惚けた状態のまま乗る馬車を間違えてしまった。


 それが真相だった。


 実に下らない理由である。


 そういえば、サフィーアから「はりきってますね。今日はいつもよりヘリアン殿下らしいです」と言われたのはそう言うことだったのか……とヘリアンはふと今朝のことを思い出す。


 彼は寝惚けていたため、サフィーアと彼女の影武者を見間違えてしまったのだった。

 そして、サフィーアの影武者も寝不足で酷い顔だったヘリアンを、影武者だと思い込んでしまうことになる。

 護衛の指揮たちも、サフィーアの影武者の「揃いました。出してください」の声により、「あ、やっぱりあの酷い顔は影武者だったんだ」と納得してしまい、そのまま出発してしまったのだった。


 ちなみに、本来のヘリアンの影武者は、先にヘリアンに馬車に乗られてしまったため、遠ざかっていく馬車を全力疾走で追いかける羽目になったのだった。


 結局、追い付けず、息を切らした彼が見たのはちょうど拐われていくヘリアンの姿である。


 神の悪戯のような一連の流れによって、この現状となったのだった。


「まあ、いい。とにかく、一刻と早くにここから離れるぞ。こうなってしまってはぐずぐずしては居られん。後のことは後で考えることにする」

「別に構わんが、急にどうしたんだ? そんな慌てて。オッサンの偽装工作がバレるには、まだ早い頃合いじゃねえのか?」

「そんなことは私がよく分かっている。だが、ここに本物の王族がいると言うことは、近いうちに必ず奴らが追ってくるということだ」

「奴ら? 騎士団のことか?」

「違う、まさか知らんのか……?」


 中年男は、神妙な顔でこう続けた。


「ロドウェール王国には、飼い殺された『絶対悪』が存在する。ロドウェール国内でアレに狙われたなら最後、逃げ切ることは出来んぞ――」


 そう中年男が、告げた時だった。


「――ちっ、もうかよ! 早過ぎんだろ!?」


 何かに気付いた騎士崩れの男が、素早く抜剣し、中年男を庇う態勢を取る。


 その瞬間、ギィン、と鉄同士が激しくぶつかり合う音と短い悲鳴が周囲に響く。


「なっ!?」


 中年男は、驚愕する。

 騎士崩れの男は苦虫を噛み潰したような顔で、毒突いた。


「くそっ、一人やられた! 散るな! 固まれ!」


 そう指示を飛ばすが、その時にはすでにもう一人が地面に倒れ伏すところであった。


 突然、瞬く間に現れて、一瞬の内に傭兵を二人も倒した相手。


 それは――


「レイン・メアリクス!? なぜ君がここにいるんだ!!」


 傲岸不遜な態度の黒髪の少年が、両手に剣を持った状態で立っていたのだった。

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