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想いを秘める者たち

 最後まで足掻いてみたけれど、結局駄目だった――


 私たちがどれだけ必死になろうと『夜会』は滞りなく進行し、そして夜が開け、朝日が昇ると共に幕を閉じた。


 結局、私たちは何一つ身動きが取れず、表面的にはただ普通に『夜会』を楽しんでそのまま帰路に着いた、という結果だけが残ったのだった。


 今回、最も私たちの障害となったのは、二人の王族であった。


 ヘリアン王子は、ずっと私の側にいるし、サフィーア王女も弟が会場に戻ってからずっと彼の側に付きっきりでいたし、それでその状況からどうやって作戦を実行すればいいと言うのか。


 学園に入学して、もう少しで一年。

 その一年間の中で、もっともチャンスがあったこの『夜会』という大イベント。


 けれど、結果は見事なまでの失敗。


 故に私たちは、馬車の中で燃え尽きていた。


 ――ああ、もう駄目だ。疲れた……。今日はゆっくり休みたい……。


 でも、ずっとごろごろしているわけにはいかない。


 しかし、帰ったら、少し仮眠を取ろうとは思う。

『夜会』では、色々と問題が起きて、ずっとそれらの対処ばかりしていたから。


 私たちの隣に座る従者たちも少しくらいの休憩を許してくれるだろう。


 本当、『夜会』では色々あったなあ……。


 でも、結果的に自分たちには何も残らなかった。それについてはとても悔しい。


 私たちの個人的な事情については上手くいかなかった。けれど、それ以外のことについては驚くほど上手くことが運んでいたので、より一層無念な気持ちが湧いてくる。


 会場に戻ってきた父は、物凄く上機嫌だった。


 どうやら無事、監獄に忍び込んだ盗賊たちを捕らえたらしい。


 父は、警備の打ち合わせが終わった後、すぐに第一騎士団の団長を無理やり引っ張って急いで監獄に向かったようだった。そして何とか間に合ったみたいで、良かったと思う。


「よくやった二人とも。王族に一切の危険が及ばずに敵を捕らえることが出来たのは、実に数年ぶりだ。私たちは、再び王族の呪いに打ち勝つことが出来たのだよ……」


 そのように、父は感慨に浸っていたのだった。


 ああ、父は今まで物凄く苦労してきたんだろうなあ……と、その様子を見て同情の目を向けてしまう。


 そして願わくば、私たちにその苦労が降りかからないことを祈ろう――そう、心から思わずにはいられなかった。


 そして、そんな考えを抱いていると、だんだんと眠くなってきてしまう。


 目の前で弟が小さくあくびをする。

 私も、つられてあくびをして、より一層眠気が強くなる。


 ――ああ、屋敷に帰ったらと思っていたけれど、今だけ……少し……。次、こそ……、がんば、るから……。


 そして私たちは、朝日に照らされながらゆっくりと目を閉じたのだった。




 ♢




 ――自分たちの主が眠りについた。


 従者たちは、その寝顔を見守った。

 二人の表情は、常に無表情で有り、そこには何の感情も抱いていないように見える。


 けれど、彼らは物を考えぬ人形では決してない。

 忠犬のように仕え、そして人並みに人の心を持っている。


 故にサイラスとマリーは、自分たちが仕えている主をずっと見守るのだった。


 彼らのまとう雰囲気は、親愛のそれ。

 いつものような、絶対の忠誠を誓う従者としてではない。


 ――例えるなら、それは自分たちの最愛の妹と弟を見守る姉として、そして兄として。


 そのような雰囲気で二人は、愛おしそうにカティアとレインを見つめる。


 彼らには、主たちの前では決して口にはしないことがあった。

 自分たちは、あくまでただの従者であるから、と。


 今までずっと胸に秘め続けたそれは、二人に向けたただ一つの願いである。


『――カティアお嬢様、レイン坊ちゃん。どうか、この国で一番の幸せ者になってください』


 自分たちの主には決して明かすことのない、とてもささやかで、けれどとても大きな願いだ。


 だから、今まで二人の頑張りを見てきたサイラスとマリーは心に決めているのである。


 たとえ、どのようなことがあろうと自分たちは二人の『悪役』として、立ちはだかってみせようと――




 ♢♢♢




 ――何故、あの時本当のことが言えなかったのだろう。


 ヘリアンとサフィーアは、自身の言葉について思い悩むことになる。


 あの時自分でも何故そうしたのか、その理由が分からないのである。


 気がつけば、自分たちは彼女たちに事実とは異なることを告げていた。


 いつも自分たちは、彼女たちに対して何一つ隠すことなく正直に物を告げていたと言うのに。その時だけは、何故か本当のことを言えなかったのだ。


 本当に、自分たちはどうしてしまったのだろう――


 そのように悩むことになる。


 あの時、彼女たちは、自分たちに尋ねた。



 ――何故、自分たちの見分けがついたのか?



 それについて、自分たちは彼女たちと手紙でやりとりをしていたから、その内容を覚えていたために分かったのだと告げた。


 けれど、それは違う。


 実を言うと、そうではないのだ。


 ヘリアンとサフィーアは、『夜会』に現れた二人の姿を見た瞬間、彼らを見分けることが出来た。


 その理由は、そのような根拠のあるものではない。

 告げた理由は、単なる後付けに過ぎなかった。


 そう、自分たちが、彼女たちを見分けた理由。


 それは、



 ――二人を見た瞬間、直感的にそうなのだと分かった。



 文字通り、そのままの意味なのである。


 そして、ヘリアンとサフィーアが何故そのように事実を言えなかったのか。

 彼女たちを見て思うこの気持ちは、一体何なのか。


 若き王族二人が、その感情の正体を知るのは、彼らが学園の二年生となってしばらくした頃となるのであった。

これで第三章は終わりです。

ここまでお読み頂きありがとうございました。

次話から第四章に移る予定です。

時系列としては、ようやく短編と本編第一話の後半部分の内容に到達した形となります。

よろしくお願いします。

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