盗賊たち 3
「ボス! 目を覚まして下さい!!」
仲間と共にセオドアは、必死になって盗賊団の頭領であった彼に呼びかける。
彼はすっかり変わってしまっていた。
――しかし、彼のような男が、このような終わり方をしていいはずがない。
しかし、目の前の彼は、目を伏せて首を横に振るだけだった。
「セオドア、もう終わったんだ。俺たちは、前を向いて生きていかなければならない。そうだろう?」
「まだだ、ボス! 俺たちはまだ終わっていない! 俺たちには、まだあんたが必要なんです!!」
「それは出来ないよ。俺の野望は満たされたんだ。絶対に満たされるとは思っていなかった。でも、ここではそれが実現してしまった。それで俺はもう満足なんだよ。前に何度も言っただろ? ――『二度と飢える日々なんて送るもんか。俺はそのためなら、何だってやってやる』って」
それがようやく叶ったのだと、彼は言う。
一方セオドアは、鉄格子を掴み、口調を荒げて彼に訴えかけるのだった。
「ああ、分かってる! 分かってるよ、そんなことは!! 覚えているさ! あんたはいつも言っていた! でもよっ、俺たちはどうなるんだ!? 俺たちはまだ満たされていない! 空っぽのままなんだ!!」
衝動に突き動かされるまま、セオドアは叫ぶ。
「誓っただろ!? あの時、この場にいる俺たち全員と! ――『いつか国を盗る』、忘れたなんて言わせねえ!!」
怒りに任せてセオドアは勢いよく鉄格子を殴りつける。
そして、泣き叫ぶかのようにしてセオドアは、懇願するのだった。
どうか戻ってきて欲しい、と。一からやり直したい。
もう一度昔のように、一緒に夢を追いかけたいのだと。
けれど、それでも目の前の彼の意思は変わらない。
――変えられない。
「……ごめんよ、セオドア。俺は裏切り者だ。君たちを裏切って、毎日美味しいご飯をもりもり食べている真人間の卑怯者なんだ。だから……俺のことは忘れてくれ」
頭領である男は、少し悲しそうに言うのだった。
セオドアは、悔しさに歯を食いしばる。
そして、呟く。
「くそっ、見捨ててたまるか……俺はあんたを絶対に見捨てねえぞ……!」
セオドアは、覚悟を決めた。
「……たとえあんたが、ここにいることを心の底から望んでいたとしても関係ない。俺たちはあんたのためにここまで来ちまったんだ。後戻りはしない。いや、出来ない。だからな、悪いが、無理矢理にでもあんたを連れていくぞ」
「なっ、何を言ってるんだ、セオドア! 人の話をちゃんと聞いていなかったのか!?」
その言葉に、頭領であった男は狼狽る。
「おい、馬鹿な真似はよせ! 俺はこのまま、ご飯もりもり真人間ライフを続けて居たいんだ!」
「知るか、そんなもん! 恨みたいのなら、好きなだけ恨んでくれ! 俺はもう決めたんだっ!!」
そして、セオドアは仲間に指示を出して牢屋の鍵を開け始める。
「おい! こら、やめろ! 牢屋の鍵を開けるな! ちょ、やめろって!! おい! おい!! おいって!!!」
激しく焦り始める元頭領の男。
どれだけ彼が声を荒げようと、目の前の盗賊たちは鍵を開けようとするのを止めない。
そして、あまりにも焦り過ぎてパニックになった元頭領の男は、大声で助けを求め始めたのだった。
「おい! 誰か!? 誰かいないのか! 早く来てくれ!! ええい、看守っ! 看守ぅ!!」
「おいボス何で看守に助け求めてんだよ! 俺らが助けるって言ってんだろうが!!」
「うるさい黙れ! やめろ! 誰か助けてくれ! 仲間に助け出されるぅ!!」
元頭領の男は、牢屋の中で悲鳴に近い叫び声を上げ続ける。
「助けてくれ看守! カティア様!! ナタリーお姉さんっ!!」
「いや看守はともかく、後の二人はどこの誰だよ……」
元頭領の男のあまりの必死さに、思わずドン引きしながら突っ込んでしまうセオドア。
彼は途中から、見境なく助けを求めるようになってしまっていた。
――元の生活に戻るのが、そこまで嫌なのか……。
セオドアは、内心傷つきながら、独り言のように言葉を発する。
「というか、あのボスが五年でここまで変わるものなのか……? もしかして本当はこの国の奴らに何かされて――」
そう思った瞬間、背筋が一瞬にして怖気立った。
「――っ!?」
有り得ないほどの凄まじい危機感を覚え、即座にセオドアは視線をある方向に向ける。
それは、自分たちが先程通ってきた廊下の方角だ。
少し離れた場所には、見張りとして残した仲間が二人待機している。
そして、その二人は、微動だにせずに立ち尽くしていた。
まるで、蛇に睨まれたカエルのように。
彼らは、目の前の圧倒的な存在感を放つ者たちを見て、凍りついていたのだ。
「――良かろう。妻と娘の代わりに、手を貸してやる。当然、対価は後で支払ってもらうから覚悟しておくといい。それで、お前はどうする、ミハイル?」
底冷えするような低く落ち着いた声が、静まり返った廊下をわずかに反響する。
そこには黒一色のスーツで身を包んだ三十代半ばの黒髪の男性が立っていた。
加えてその隣に立つのは――
「まあ、もちろん俺も助けますよ、アーロン先輩。この光景をこの国の騎士団長として黙って見過ごすわけにはいきませんからね。当然の判断です」
――現在、第一騎士団の頂点を預かる男性。
その二名が盗賊団の前に立ちはだかるのだった。




