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盗賊たち 1

 盗賊団の副団長であるセオドアは、ロドウェール王国の王都にある監獄に忍び込んでいた。


 今は、『夜会』の真っ最中。

 そして、そこでは協力者である彼らによって彼らの計画が実行されている頃だろう。


 だからセオドアは、そのタイミングを好機とみて、七人の仲間を伴って監獄に侵入を試みたのだった。騎士団の注意は、おそらく『夜会』へと向いているだろうから。


 細心の注意を払って彼らは、内部に足を踏み入れる。


 盗賊団である彼らにとって、建物の侵入など造作もないこと。

 闇夜に隠れて、驚くべき速さで侵入を果たす。


 そして、ここからは時間との勝負だ。


「三十分が限界だ。それまでに脱出するぞ」


 それ以上時間をかければ、内部で見回りを行なっている警備の者たちに見つかる恐れがある。


 そのため迅速に目標の人物たちを見つけ、解放し、脱出しなければならなかった。


 五年振りの仕事だ。不安では無いと言えば嘘になる。


 だが、当時はいつもこなしていた仕事だ。

 失敗など、最後の一度きりしか無い。


 あの時は、この国の騎士団がこちらを警戒しており、幾重にも罠を張り巡らせていた。

 彼らの執拗な追跡によって、自分たちは瓦解したのだ。


 だが、今回はあの騎士団の姿は見えない。


 ならば、自分たちに失敗などあるものか。


 セオドアは息を整えた。


 そしてその後、仲間共に監獄内を素早く駆ける。


 かなりの速さだ。全力疾走に近い。

 だが、全員何一つ足音がしなかった。


 鍵の付いた重い扉も、彼らの前には何の枷にはならない。

 目に止まらぬ手際で道具を用いて解錠し、幾つもの扉を突破していく。


 たとえ巡回している警備の者と鉢合わせても、彼らは焦ることなくその死角を縫って颯爽とすり抜けていく。


 その動きはまるで、ネズミのような軽やかさであった。


 だが、彼らが象徴としているのはあくまで『蟻』だ。


 それは全ての団員が、一人の男に絶対の忠誠を誓っているという意思表示であった。


 セオドアもまた彼――頭領である男に、忠誠を誓っていた。それは今も変わらない。


 彼は、自分たちの救世主だ。

 彼がいたからこそ、自分たちは救われた。


 セオドアは心の底から、そう思っていた。


 頭領である男は、カリスマ的才能を持っていた。


 他者を従える才能。他者の才能を扱う才能。他者を欺く才能――


 故に、彼は盗賊たちの救世主になり得たのである。


 彼の力によって、かつて十人にも満たなかったごろつきの集まりを、わずか二年で百人以上の盗賊団へと発展させた。


 弱者であった自分たちが、短期間で強者へと昇り詰めることが出来たのだ。


 ――彼には、本当に感謝している。だから、助けたい。


 セオドア含め、この場にいる仲間たちもそのように思っていた。


 セオドアと彼らは、盗賊団を結成する際の初期のメンバーだった。


 この場にいる全員が、頭領である男を絶対者と崇め、そして自分たちの友として親しんできた。


 故に彼らにとって、頭領である男は、かけがえのない存在であった。


 だから、彼らは頭領である男が捕らえられた後、何とか騎士団の追跡をかわして国内にて潜伏し、そして今までずっと助け出す機会をうかがっていたのだった。


 そこへ丁度ある話を持ちかけてきた者がいた。


『――是非あなた方に協力したいと思います。なので、どうか私たちと手を組みませんか?』


 相手は、一人の少女だ。

 明らかに怪しい存在だったが、その少女は自分たちの手助けをしてくれると言う。


 そして、その言葉の通り自分たちに対して有益な情報を幾つも持ってきたのだった。


 おそらく自分たちでは、それらの情報をたとえ十年かけても集められなかっただろう。


 何者だろうか。

 そう思いながらも、自分たちはその者と手を結ぶほかなかった。


 たとえ相手が悪魔だろうと、自分たちは彼を助けるためならば、契約を交わしてみせよう。


 セオドアたちは、最初からそう覚悟していたのだった。


 そして、その後セオドアたちは彼女たちの正体を知り、もう後戻りは出来ないということをより一層心に刻んだ。


 自分たちは、悪魔と一蓮托生の関係となった。


 だから、セオドアは思うのだ。


 もう怖いものなど何もない、と。




 ――だが、この後彼らは、本当の悪魔を目にすることになるのだった。


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