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事件ファイル♯13 暮れなずみの空。夏の終と謎の匣。(2/10)

 箱。


 古来から怪談に登場してきたであろうキーアイテムだ。

 箱をピックアップした怪談といえば、比較的新しいものにも有名なものがある。

 二〇〇五年ごろにインターネット掲示板にて語られた“コトリバコ”は、ご存知のかたも多いのではないだろうか。


 インターネットは怪談の宝庫だ。

 全国各地から話が集まってくるし、作り話にしてもネットを使った検索で設定を深めることも容易だし、さらには掲示板にてリアルタイム進行で語られるケースなどもあり、当事者に詳細を訊ねることも可能で、百物語などの怪談会を上回る臨場感がある。


 インターネットは、既存の怪談の世界を大きく広げたといえるだろう。


 ひとつ語られれば類似の話も噴出してくるのが怪談のつねで、箱にまつわるストーリーはそれなりの数が存在する。


 その多くには共通点があり、箱がパズルになっており、施錠か封印がなされているものなのだ。


 そして、箱や中身が忌まわしい出自を持つのはお決まりである。

 呪いの媒体を封じたもので、所有者や関係者に不幸をもたらすパターン。

 パズルを解くことで地獄に落ちるパターン。

 古いものでは、とある宗教に伝わり、中に封じられた悪霊が箱を開けたものに憑依するものなどがある。


 そう、ウリュウさんが手に入れた箱は、これらのエピソードに類似するものの可能性がある。


「ウエエ。編集長! 呪われてしまいマスヨ! 燃やしてしまいマショー!」

 話を聞いたミラカは身をめいっぱい引き、腕でガードをする。


「お前は極端だな」

「怪談話をしてこういう反応が貰えると楽しいね」

 ウリュウさんが笑う。


「そういうワケで、この箱が“ちゃんとした形見”かどうかは分からないんだ。もしも先祖代々管理してきた呪いの箱だとしても、ああいうのは女性が引き継ぐもんだし、僕じゃ役に立たないし……」


 万が一そうだった場合は実家に返すべきだろうな。

 こういうのは神社やお寺でも「手に負えない」って言われる案件だ。

 俺は、目の前にあるミステリーに気分をよくして、再び箱をいじり始める。


「開けちゃダメデス! ヘンシューチョーが呪われて死んでしまったら、ミラカはどうやって暮らして行けばいいのデスカ!?」


 どこまで本気にしているのやら。

 彼女の血のほうが、よっぽどツラい呪いを受けてるだろうに。


「分かった分かった。でも、呪いがあるとしても。このパズルよりも、中身が原因だろうな。多分箱は、二重になっている」

「大事なモノが入っているのは間違いなさそうだけど、呪いのパターンじゃないとして、何が入ってると思う?」

「財宝の(はこ)の場所にまつわるメモか、開けるためのカギとかですかね」


 匣の隠し場所は不明とされている。村のどこかに埋められたのだとか。


「カギだとロマンがあるなあ。でも、そんな音はしないよね?」

「音がしないように綿が詰まってるとか?」


 カギ説は確かにロマンがある。

 俺もプッシュしたい。


「気になるなあ。やっぱり壊しちゃおうか?」

「オジサン! ダメデスって!」

 ミラカが止める。


「オジサンときたか」

 ウリュウさんが言った。もしかして、思ったより若いのだろうか?


「ちゃんと名前で呼べよ。自己紹介しただろ」

「いいのいいの。実際オジサンだし。それに、その呼びかた、好きなんだ」

「どういうことですか?」

「それについてはおいおいね」


 俺は、「好きなんだ」と言いつつもミラーに映った表情が曇っていたのを見逃さなかった。


「ミラカ、思ったんデスケド……」

「なんだい?」

「この箱自体が“カギのヒント”ということはないデショーカ?」

「どういうことだ?」

「だって、隠されている財宝も匣なのデショウ? この箱と同じ開けかたをする可能性もあるのデハ?」

「あー、確かに」

「どうかなあ。週刊誌情報だけど、財宝の匣も大きなものらしいからねえ。それこそ匣も壊しちゃえば中身が手に入るワケだし」

「エー! オジサンすぐに壊したがり過ぎデス! 夢がアリマセン!」

「おっと。叱られちゃった。ミラカちゃんの言う通りだね。中身も気になるけど、これはオカルト案件だから。僕らにとっては、ワクワクしてるんだし、もうすでにお宝みたいなものだ!」


「そうですね」

 俺はオカルト仲間に同意する。


 それからしばらく、中身や財宝についてあれこれ議論をした。

 そのうちに車窓から見える景色が開け、緑の谷間に点々と家の建つ風景が現れた。

 家屋は木造ばかりでなく、土壁やモルタルなども混じっている。


「着いたよ。ここが鈴沢村だ」

「オオウ……ニシクロヤマ村よりもコーハイシテマス……」


 車はいつの間にか舗装されていない道を走っていた。

 草の伸び放題になった田んぼ跡や、窓ガラスが割れたままになっている家などを通り過ぎる。


「人口はもう二十人もいないよ。それも、ほとんどがお年寄りだ」

「限界集落ってヤツですね」


 ちょっと待てよ?


「あの、宿とかってどうしたらいいんですか?」

 二十人も居ないのなら、まともな旅館など無いだろう。


「ふふん。それについては僕がしっかりお世話するよ。……といっても、僕もお世話になっている立場なんだけどね」

 自信満々で疑問に答えるウリュウさん。


 車は大きな屋敷の敷地に入り、停車した。


「ラブリー! デントー的なお家デス!」

 車から降りたミラカが声をあげる。


 土壁と茅葺(かやぶき)の屋根。

 作りは古いが、所有する土地の面積は半端じゃない。

 視界に収まらないくらいに塀が続き、井戸や離れ、さらには蔵までがあった。

 刀を差したサムライや着物姿の女中が歩いていても不思議じゃない。


「時代劇みたいだ」

「一部は本当に江戸時代から残っているものらしいよ。さ、荷物を持ってあがろう」


 俺たちはウリュウさんの勧めに従って屋敷に上がる。


「おばーちゃーん! 言ってたお客さん連れてきたよ!」


 いい歳をこいたオジサンが屋敷の奥に向かって叫んだ。

 すると、奥からひとりの老婆が現れた。


「ヒサユキ! お前、ガキじゃないんだから」

 おばあさんはウリュウさんを下の名前で叱る。


 彼女は俺たちの前まで早足で現れると、俺とミラカを舐め回すように見た。


「冴えない男と……なんだい外国人!? アンタ、志知丹の系譜にゃ、こんな濃い外国人も居るって言うのかい?」

 おばあさんはウリュウさんを睨む。


「違うよお。説明したでしょ。村の件を記事にしてくれる人だよ。どうしてそんな勘違いするんだい? ボケちゃったのかい?」


「あたしゃボケてないよ! ……ほれ、アレを見てみな」

 おばあさんが顎でしゃくる。

 その先は車を停めた庭だ。俺たちが乗せてもらった白いバンの他にも数台の車が停車している。


「アレ? お客さん?」

「お客さんなんてイイモンじゃないよ。アンタだけでも面倒だってのに、まったく。まあ、何人来ても同じことだよもう。泊まりたきゃ勝手に泊まりな」


「あ、ありがとうございます」

 俺はよく分からず礼を言う。


「とりあえず、今日はもう客はないと踏んで、全員を座敷に集めるとするかね」

 そう言うとおばあさんは、鼻から短く息を吐いた。


********


 俺たちはおばあさんに連れられて、屋敷の広間へとやってきた。

 カビ臭いニオイのするタタミ、古ぼけた障子の戸、その先は縁側で広々とした庭が見えている。

 庭には松の木や岩が鎮座しており、水底に沈むより水墨画になるのがお似合いだ。

 座敷には長テーブルがあり、いくつもの座布団が並ぶ。


 そして、そこには俺たち以外にも、ふたりの男性とひとりの女性が座っていた。


「よし。面倒だからね。ひとまとめに自己紹介を済ませようじゃないか。それから、“証拠の品”を見せてもらう。いいね?」

 おばあさんは上座に座り、俺たち客人の顔をぐるっと見回した。


 一体、何が始まるんだ?


「まずは、あたしからだ。あたしはこの屋敷を管理している“奈良俣(ナラマタ)”だよ。アンタたちの知っての通り、志知丹一族の本家はすでに絶えちまってる。ここを管理するあたしも分家のうちのひとつさ。そのナラマタもあたしが末代だ。くたばるまでもそう遠くないだろう。志知丹の財宝とやらにも興味がない。だが、どうせくれてやるならちゃんと血筋の通ったものでないとね。さあ、まずはアンタだヒサユキ。アンタから自己紹介するんだよ」


 そう言うとナラマタのバアさんは、ウリュウさんの肉付きの良い背中を叩いた。

 パチンと小気味のいい音が響く。


「僕は、雨竜ヒサユキ。当然、志知丹家との遠戚に当たる。母方がその血を引いているようだ」


 そう言うとウリュウさんは細長い桐の箱を取り出し、慎重にふたを開けた。

 中からは巻き物。それを頭上に掲げながら広げ、テーブルの上に乗せた。

 一同が覗き込む。俺もそれに混じる。

 長ーい家系図だ。いちいち読んでいられない。


「あたしは見るまでもないね。その巻き物に刻印されている家紋は間違いなく志知丹家のモノだ。この家の至る所に家紋は刻印されている。蔵にもあるし、古い調度品にもね」


「……と、いうワケで、僕はおばあちゃんや、あなたたちと遠い親戚に当たる男です。どうも、よろしく」

 ウリュウさんが頭をぺこりと下げる。


「コイツはやけにアンタと親しいが、この村の出身なのか?」

 男のひとりが口を開いた。歳は五十程度だろうか。

 貫禄のある肉付きにヒゲ。ハゲ散らかしたアタマは清涼感がイマイチだ。


「違うよ。ヒサユキは昨晩ここに来たばかりさ。馴れ馴れしいヤツだが、便利だから色々とこき使ってやってるのさ」

 バアさんがシワだらけの口元を持ち上げた。

「安心しな。たった一日の縁の違いでコイツに財宝をくれてやるなんてことは言わないから。どうせ、他のモンも財宝が目当てなんだろう? ついでだ、そこのハゲも名乗りな」


「ハゲってなんだ、ババア! 気にしてんのに! ……ったく。俺は徳山(トクヤマ)キンジロウだ。コイツと違って父方(・・)の遺品にコレがあった」


 トクヤマも同じ桐の箱を持ち出す。

 中にはウリュウさんのモノと同様の巻き物。


「トクヤマのキンさん!」

 コイツ呼ばわりされたはずのウリュウさんは、ニコニコして手を差しだした。

 だが、握手は交わされなかった。

「あらら。仲間なんだけどなあ」

 ウリュウさんは自身の頭のてっぺんをいじって言った。


「ハッ! トクヤマなんて遠戚もいいトコロでしょう? アタシはアンタたちより、もっと上のほうに書かれてる家の人間よ」


 それまで静かに座っていた女が声をあげた。

 それから同じ巻き物を出すと、家系図の中の“奥只見(オクタダミ)”を指さす。


「奥只見さん。よろしくね」

 ウリュウさんはもう一度ニコニコ。

 やはり手を差しだす。が、今度はその手をひっぱたかれてしまう。


「フン、触んないでよオッサン。アタシも父方の系譜だよ。もっとも、ある意味アタシが一番遠いかもしれないケドネ」

 女はちょっと舌足らずな口調で言った。


「どういうことだい?」

 ナラマタのバアさんが訊ねる。


「ママがイギリス人なのよ。だから、日本のお武家からみればある意味一番遠いかもね」

 そう言うと女はでっかい胸を張って「下の名前はメリーよ」と付け足した。


 はは、メリーさんだってよ。


 メリーは茶色いソバージュのロングに濃い目の化粧。

 服装は派手でよく分からん柄のシャツに、あせた色のデニムのショートパンツで足のほとんどを丸出しにしている。

 立ち上がった際もブランド物のハンドバッグを手放さずぶら下げていた。

 山奥じゃなくて、バブル期の東京がお似合いの女だ。


「アンタたち、血の濃さがどうとか言ってるけど、結局は全員、分家には変わらないんだからね。くだらないことで張り合うんじゃないよ」

 バアさんがため息をつき、言った。


「なんだよ? 先着じゃねえなら、血の濃い奴が宝を取るべきじゃねえのか?」

 トクヤマが言った。


「誰が宝があるなんて言った? 週刊誌だろう? 悪いがね。あたしゃ、その財宝とやらは見たことがない。ご先祖が封印した匣とやらが、どこか地下にあるそうだが、場所は知らないね」

 鼻で笑うバアさん。


「マジかよ。てっきりとっとと分配して終わりかと思ったぜ。まさか、宝は無いなんて言うのかよ? こんな大げさに俺たちを並べておきながら!」

 トクヤマが机を叩いた。俺の横でミラカが首を縮める。


「フン、意地汚いタヌキだね。財宝は約束しないが、匣はあるって言ったろう。言い伝えではね。この村のどこかに埋めたとか、封印したとか。探すのは自由だ。まだ住んでるヤツがいる家以外は、どこでも好きに探すがいい。見つけたヤツでも、匣を開けたヤツでも、誰でも好きにするがいいさ」


「じゃ、早いモン勝ちにしましょ」

 メリーが言った。


「僕は、みんなで探して山分けでよかったんだけど」

 ウリュウさんはちょっと考えてから「でも、金額は多いほうがいいか」と言った。


「ところで、ボクのことを忘れてないかい?」

 残るもう一人の男がようやく声をあげた。

 よれたワイシャツにジーパン。

 黒縁メガネに黒いロン毛。顔は縦長でちょっとウマっぽい。シャツからは痩せた胸周りが見えている。


「忘れてたよ。アンタは幽霊みたいだからね。名前はなんだい? 幽霊らしく、志知丹本家でも名乗るかい?」

 バアさんは面倒くさそうに言う。


高瀬(タカセ)。ボクの名前はタカセだ」


「ハッ、タカセなんてどこにでもいる苗字だろうが」

 トクヤマが言った。


 タカセはハゲオヤジの挑発を無視して、テーブルの上に桐の箱を置いた。


「そもそも、これを持って家系図にある名字を名乗りさえすればオーケーなんだろう? 血筋にも苗字にも大した意味はありはしないよ」

 痩せた男は箱の中身を見せながら言った。


「アンタの言う通りだ。骨と皮ばかりだが、他の連中より脳みそは多いみたいだね。次、アンタたちだよ若いの。ヒサユキのツレのふたりだ」


 俺は下座に座っていた。一同の視線が集まり、背中に冷たいものが流れる。

 横に座るミラカも珍しく緊張しているらしく、座布団の上できっちりと正座したまま一切口を開いていない。


「俺は梅寺アシオです」


「ウメデラ? ウメデラなんて家系図にあったか?」「無かったわよ」

 トクヤマとメリーが身を乗り出して家系図を追う。


「俺は部外者ですから。ウリュウさんに依頼されて、この村のことを記事にしにきたんです」


「なんだ、ブンヤか。若造が驚かせやがって」

 トクヤマは座り直す。


「フーン。カワイイ顔してるじゃない。新聞? 雑誌? アタシをグラビアモデルに使わない?」

 メリーはこちらに向かって乗り出し、耳元でささやいた。

 キツイ香水のニオイが鼻につく。


「ソイツにそんな力はないと思うよ」

 口を開いたのはタカセだ。


「知り合い?」

 メリーが訊ねる。


「いいや。でも、梅寺アシオといったら、何度かクズ雑誌で名前を見たことがある。飛ばし記事を書いて干されたってネットでウワサされてたろ?」

 タカセは口を歪めながら言った。


 俺は顎の奥を噛み締める。忘れかかっていた事実だ。

 ふと、俺のヒザに何かが置かれる。ミラカの手だ。


「そんな昔のことなんていいでしょ? アシオ君は今は……」

 ウリュウさんも慌てて俺のフォローに入ってくれようとした。


「なあんだ。ね、それよりその横の子供は何?」

 軽く流すメリー、俺の横のミラカをつけ爪の先で示した。


「……」

 珍しいことに、ミラカは押し黙ってしまった。


「この子も部外者よね? まさか、アタシ以外に外国の血が入った子なんて居ないわよね?」


「てめえはハーフだろうが。しかも苗字の割に安っぽい名前で、顔はひらべってえブサイクだ。化粧も濃いし、スベタ(・・・)もいいトコロだよ」

 トクヤマが憎まれ口をたたく。

 メリーは彼のほうを振り向くと胸に手を当て「アタシにはコレがあるから」と、豊満な胸を揺らしてみせた。


「お、おう……そうだな」

 鼻の下を伸ばすハゲオヤジ。


「フン、エロオヤジが」

 吐き捨てるように言うメリー。


「なんだとこの野郎! ぶっ殺すぞ!」

 トクヤマは叫ぶと再びテーブルを強く叩き、ヒザを立ててこぶしを振り上げた。


「やめな! そのちっこいのが怖がってるじゃないか」

 ナラマタのバアさんがさらに大きい声で言った。

 俺の横ではミラカが固く口を結んで瞳を潤ませていた。

 俺のヒザに置かれたままの手は冷たい。黙ってその上に手を重ねてやった。


「コイツはウチの助手のミラカ・レ・ファニュです。こんなナリですが、いちおう成人してます」

 ミラカは黙ってうなずいた。


「そうそう! アシオ君とミラカちゃんはね。ネット上じゃちょっと名の通ったサイトの編集者たちなんだ。今回は、僕がお願いしてこの鈴沢村の財宝についての記事を書いてもらうお願いをしたんだよ。だから、あんまりイジメると困るんじゃないかなー?」


 ウリュウさんはそう言ってバアさんにされたように俺の背中をパチンと叩いた。


「何をそんな勝手な! 部外者のクセに」

 トクヤマに睨まれる。


「ヒサユキだけじゃない。あたしも許可を出したよ。この屋敷の管理人がいいって言うんだからいいのさ。どうせ消えちまう村だ。好きにやればいい」


「そっかあ。じゃあ、アタシもよく書いてもらってネットデビューしたいな」

 メリーがウインクを飛ばしてくる。


「あたしの見立てじゃ、この調子じゃ志知丹の末裔は恥しか残さない気がするがねえ。ま、なんでもいいさ。村を調査するも、取材するのも勝手だ。宿は屋敷の部屋を好きに使いな。風呂は貸すし、便所はたくさんあるからね。どれでも好きなのを使うといい。汲み取り式だから、ハマっても知らないよ。メシはあたしが支度してやる。その代わり、最初に約束した通り、この村の引っ越し作業を手伝ってもらう。いいね? 残った連中は今はもう役所に荷物を集めてるから、そこに挨拶に行くといいだろう。おいぼればかりだが、まだ生きてる人間どもだ。失礼を働いたら叩きだすからね」


 バアさんはそう言うとテーブルを両手でトンと叩いた。


「都合よく使うだけだったら承知しねーぞ」

 トクヤマがぼやく。


「ま、アタシなら男の人たちはみんな喜ぶでしょ。情報収集ならアタシが有利ね」

 メリーは楽しげに乳を揺らしている。



「あのー……。ここ、志知丹さんのお屋敷でしょうか?」



 若い女性の声がした。

 声が聞こえてきたほうを見ると、白いワンピースをまとった長い黒髪の若い女性が座敷を覗き込んでいた。


********


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