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事件ファイル♯12 空を見上げて! 空飛ぶ円盤のロマン!(3/6)

 市内のデパートにやってきた俺たち。大都市にあるような大型なものではないが、この近辺では一番立派なヤツだ。


 一階にはおみやげによさそうなお菓子屋、スーパー、フードコートがあり、二階から先には複数フロアにまたがって服売り場、おもちゃやゲーム、メディア類の売り場、最上階にもいくつもの飯屋が入ってる。

 お盆シーズンだからか、平日であるにも関わらず店内は賑わっていた。


 俺自身は何を買うワケでもないが、ガキの頃からの癖だろうか、久々のデパートに少しだけテンションが上がっていた。


 多分、“計画”への期待感も相まっているだろう。


 引きこもってオカルト記事と向き合ってるだけよりは、よっぽど「人間をしている」気分だ。

 ところで、UFO目撃情報に関してはハルナが「んーっと、アッチっすね」と北西の空を指さしてそれで仕舞い。


 現場に行っても徒労に終わるのだろうが、ちょっと物足りない幕切れだ。

 あとで画像だけ送ってもらって、ソフトで弄って正体をつかめないか試してみる予定ではある。

 ヒロシ君とカシマさんはフードコートエリアで待っているらしく、俺たちはそちらのほうに足を向けた。


「編集長、これはなんデスカ? 何かいいニオイがシマス!」

 フードコートに向かう途中、ミラカが“とある機械”の前で足を止めた。


 子ども向けキャラクター“海パンマン”をかたどった筐体。

 そこからは香ばしい香りが漂ってきている。


「海パンマンのポップコーンマシーンだ。まだあったのか。懐かしいなあ」

「懐かしいって、センパイの子供のころにもあったんすか?」

「あったあった。デパートに来るたびにせがんだもんだ」


 筐体には「海パンマンのポップコーンパンパンパンツ3」と書いてある。

 ポップコーンマシーンも進化や代替わりをしているのだろう。


「ポップコーン! ミラカ、久しくポップコーンを食べてマセン!」

「別に食わなくても死なないぞ。それに、今から昼飯にするんだろ?」

「ソーデスネ。じゃあ、一個だけにシマショー」


「じゃあってなんだよ」

 ミラカが筐体の前に立ち、ガマ口サイフを開ける。


『マイネームイズ、カイパンマン、アイムシーパンツ!』

 やけにイイ声で放たれる英語のメッセージ。これも俺がガキの頃からと変わらない。


「ほぇ!? しゃべりマシタ。なかなか凝ってマスネ~」

 ミラカが感心する。

「オウ! 思いのほか、色々なフレーバーがアリマス! しお、バター醤油、チーズ、キャラメル、いちごミルクデス!」


 ミラカが指さす味案内のパネルには『(おとこ)のしお』、『漢のチーズ』などと、それぞれアタマに漢の文字が振ってあった。


「俺のころはニ、三種類しかなかった気がしたが。なんかオススメってのがあるぞ」

 ひとつサイズの違う、大きなボタンがある。


「ミルクサワー味って書いてマス」

 もちろん、表記は“漢の”ミルクサワー味だ。


「うわ、なんか食いたくねえなあ……」

「それ、甘じょっぱくてオススメだよ」

 ハルナが言う。


「食べたことない味ダナ……? じゃあ、これにしてみマショー」

 ミラカがミルクサワー味のボタンを押す。


『オー! イエース! 男のモロコシ祭り! 始めるゾ~~!』


 威勢よくメッセージを発する機械。

 音声を耳にした付近の客が噴き出す。


『ワ~ッショイ! ワ~ッショイ!』

 液晶に海パンのマッチョが砂浜でポップコーンをまく映像が映し出される。

 ちなみに、アニメキャラクターではなく実写映像だ。


「えっ、なんだこれ? 俺のときは中でポップコーンが作られるのが見れたんだが」

「あたしが小さい時もそうだったんだけどなあ。アレ、好きだったのに」

 ハルナがため息をつく。


『皮を剥けぇ! コーンをほとばしらせろぉ!』

 うるさい。


「ハンドルを回すと美味しくなるって書いてアリマス!」

 ミラカが筐体につけられたハンドルを指さす。


「あはは。ミラカちゃん、それ、でたらめだよ。騙されて子供はみんな回すんだよ」

 ハルナが笑う。


「ソーデスかね? 自動販売機とはいえ、苦労したほうが味が勝るかもしれマセン。ハンドル自体に意味はなくとも、労働のあとの食事は美味しいものデス」


 そう言うとミラカは筐体の……海パンマンの左乳首の位置についたハンドルを回し始めた。


『回る! 回る! 回る! 俺の乳首がっ! 回るっ! アァ~~ッ!』

 回転させるたびにうめき声をあげる筐体。


「うわ、キッショ……」

 ハルナがドン引く。


「編集長! 右の乳首がガラ空きです! 早く回してクダサイ!」


「え? ええ……」「早く早く!」

 まくしたてるミラカ。俺もしぶしぶもう一方のハンドルを回してみる。


『もっとぉ! もっともっとだぁ! 俺を見てくれぇ! カモンカモンイエース!』

 うめき声がダブルになる。

 他の利用客が足を止めて、ぎょっとした顔でこちらを見ている。もうやめたい。


 しばらく回すと、プシューという蒸気音のあとに『……やるじゃねえか』のメッセージ。


「デキマシタ」

 ポップコーンを取り出すミラカ。

 どうでもいいが、取り出し口は海パンマンの股間にある。


「あー、キモかった。まさか音声アリだとは思わなかったよ。ほんっとイケボの無駄遣い」

 ハルナが腕をさすりながら言う。


「お前、オススメとかいう割に、これやったことなかったのか?」

「フツーはこの“男は黙ってポップコーン”ボタンをして、音声とか切るもんだから……」


 ハルナが指さす先には音声とアニメーション無しでポップコーンを作るためのボタンがあった。


「もっと早く言えよ!」

「ジョーシキっすよ? てっきり、ミラカちゃんが初めてだから音が聴きたいものかと思った」


「んなワケあるか!」

 無駄に恥ずかしい思いをしたぞ。


「まあまあ、ヘンシューチョー。ポップコーンのほうは美味しいデスヨ」

 ミラカはニコニコしながらカップを差し出す。

 おでこには汗。どんだけ必死に回したんだ。


 勧められてポップコーンを口にすると、あんがいイケる味付けだった。

 乳酸菌飲料的な甘酸っぱさに、ほんのりと塩味だ。


 さて、屈辱的なポップコーンマシーンをあとにして、フードコートに到着する。


 壁際には飲食店のカウンターの数々。

 定番のラーメン、うどん、たこ焼き、焼きそば、もちろんB・Tも。

 デザートではクレープやアイスの専門店が並んでいる。


 昼前ということでフードコートは混雑している。家族連れが多い。

 誰しもが、思い思いの食事をしている。

 フードコートでメシを食うのは久しぶりだ。

 独りではどうも居辛いもんで、デパートに用事があっても、大人になってからは利用することはなかった。

 小学生の頃は家族とよく利用したが、中高と歳を経るにつれて、家族とフードコートってのがなんとなく気恥ずかしくなった覚えがある。


「あっ、ヒロシ君デス!」

 ミラカの指さす先にはメガネの小学五年生男子。

 ラーメンをすすっている。背を向けているが、向かいに座っている長髪の女性はカシマさんだろう。


「おまたせ~。ちょっと遅くなっちゃった!」

 ハルナがテーブルに駆け寄る。


「やっほ、ハルナちゃん。待ってないよ。むしろふたりでも全然イケちゃうくらい」

 カシマさんは振り向き、黒髪ロングを揺らし、メガネの下の表情をほころばせる。


「おやおや? ユイコ先輩ゴキゲンですねー」

「うん。ショタ成分補給できたからね! ハルナちゃん、この子貰っていい?」


 カシマさんがヒロシ君を指さす。


「そんなにすっか!? ヒロシのどこにそんな……」

「姉さん。僕はユイコ姉さんの弟になるよ」


 ヒロシ君が言った。「ユイコ姉さん」だってさ。


「えええ!? どぼじで!?」

「ユイコ姉さんは優しいし、アタマがいいし、話が合うし、メガネを掛けているからだよ」

 ヒロシ君はそう言うとメガネを中指と人差し指を使ってクイッとした。


「そうだよ。メガネは大事だよ」

 カシマさんもメガネをクイッ。


「そんな、あたしがメガネさえ掛けていれば、弟を失うことなんて無かったのに……」

 愕然とするハルナ。


「他のみっつも足りてないよ」

 ラーメンのスープをすするヒロシ君。


「そんなバナナ!?」

 弟を失ったハルナは両手を後頭部にやり、驚愕の表情をした。

 遠くで子供がハルナを指さし、親がそれをやめさせた。


「ところで、ウメデラさん、ミラカちゃん。こんにちは」

 カシマさんがこちらに向き直り、小さく手を振った。


「こんにちは」「コンニチハ!」

 挨拶を返す俺たち。


 挨拶のさいに「カシマさん」と呼んだら、下の名前で呼んでくれと言われた。

 自分より年下とはいえ、ちゃんとした大人の女性をそう呼ぶのは照れくさい。

 彼女なりに打ち解けようとしているのだろうし、従っておくか。


「ウメデラさんはケガ、大丈夫ですか?」

 ケガ。数日前に事件の犯人ともみ合った際に出来たヤツだ。

 傷の原因が刃の厚いナタだった為、皮は大きくめくれはしたが、肉は深く切らないで済んでいた。


「ええ、かすり傷みたいなモンだったんで、もう治りましたよ」

「治ったのは昨日デス」

 ミラカが付け加える。


 コイツはなぜかケガが治るまでバイキン扱いするかのごとく俺から遠ざかっていた。

 昨日になって態度を一変させて、前のようにじゃれついてくるようになったが、数日とはいえ避けられていたのはちょっと傷ついた。


「よかったよかった。じゃあ、海水浴も行けるね!」

「へ? 海なんて行きませんよ」


 俺はもちろん面倒だからだが、ミラカがよろしくない。

 肌を露出するのはもちろん、海の照り返しは紫外線の影響を受けるはずだ。

 普段から日焼け止めクリームは手放せない。

 恐らく似た理由で晴天時の雪景色も苦手なんじゃないだろうか。


 ミラカは特に気にしたふうではなかったが、コイツ自身は海に行きたがっていた。

 短時間の観光くらいならともかく、海水浴は難しいだろう。


「今日は水着買いに来たんじゃ? ミラカちゃんはいいの?」

 彼女は付き合いができて日が浅い。まだミラカのことをよく知っていないのだ。


「それはハルナの話ですよ。彼女、誕生日なんで」

「そうなんだ。おめでとう、ハルナちゃん!」


 屈託なく祝福するユイコさん。


「ありがとうございます! っていうか、ゆってませんでしたっけ?」

「全然聞いてないよ。単に水着買いに行くってだけで」


 相変わらずハルナは適当だ。


「私も水着買おうかなあ……。年齢的にラストになりそうな気もするし」

「ユイコ先輩、まだまだイケますって! コスだってしてるんでしょ? 今度あたしも混ぜてくださいよ。髪いじるのはあたしがやりますんで!」

「ハルナちゃん、美容師目指してるんだもんね」

「ついでにオトナのお姉さんにメイクの伝授を! メイクもできると仕事の幅が広がるので……」

 手を揉むハルナ。


「いいよ~。その代わり、私の水着がイマドキの子から見てアリかナシか教えてね!」

「まっかせてください!」

 女子っぽいトークを続けるふたり。


 ちらとミラカを見下ろすと、カップの底に残ったポップコーンのなりそこないを転がして遊んでいる。

 こういう微笑ましいシーンでは、ニコニコ見守っているのが定番なのだが……。


「よし、とりあえずメシにするか」

「あたしもお昼食べなくっちゃ。っていうかヒロシはなんでもう食べちゃったの? みんなと一緒に食べたらいいのに」

「席取りのためだよ。食べもしないのにフードコートの席を占領するのはよくない」


「こういう背伸びしてるところも可愛いよねー」

 カシマさんがヒロシ君のアタマを撫でた。


「や、やめてくださぃ……」

 頬を染めるヒロシ君。語尾が弱々しい。初めて見るリアクションだ。


「私もいっしょにヒロシ君と待ってるから、みんな先に買っておいで」


 ユイコさんの勧めに従い、俺たちは昼食を決めに出かける。

 あれやこれやと悩む小娘ふたりを置いて、俺はこっそり抜け出してATMに向かった。


「先生、出番です」

 独りごとをつぶやきながら、お札の取り出し口から福沢諭吉大先生を五人召喚する。小型エアコンが買えるレベルの大出費だ。

 俺の命の残高が大幅に持っていかれてしまうが、女子高生への捧げものと、それともうひとつ“計画”を遂行しなければならない。

 使うべきところで使ってこその金だ。


 現金を引き出してフードコートに戻る。

 それからメシを決めて並んでいたふたりに金を出してやり、俺はうどん屋のカウンターでそうめんを買った。四八〇円なり。

 そうめんでこんなに払うのは正直シャクだが、“そうめん欲”はいちおう満たされるので我慢しよう。

 どうせ今日の出費からしたら、誤差みたいなもんだ。


「ミラカちゃんマジで食べ過ぎじゃない? お洋服がバクハツシサンしちゃうよ?」

 ハルナが心配そうに言った。


 ミラカはラーメンとおにぎりのセットに加えてハンバーガーを食べている。

 毎度毎度のことだが、それでも物理的にお腹が膨れているのを見たことがない。

 四次元胃袋に違いない。ヴァンパイアよりもこっちがオカルトだ。


「ダイジョーブデス! あとはパフェをいただきマス」

「ひええ。あたしはもう限界かな。水着選ぶのにお腹出てるなんてありえんてぃ。っていうか、サイフのほうもバクハツシサンしちゃったら、まともなの買えなくなっちゃうよ……」

「なんだ。水着は俺が買ってやるぞ? 誕生日だろ?」


「“マ”!? アレは冗談で言ったつもりだったのに。センパイなんか、やらしーこと考えてません?」


 “マ”は“それマジ”ってことらしい。

 ネットでもたまに見かける言葉だが、略す意味はあるのか。


「冗談じゃないし、やらしーことも考えてないぞ」

 先週のハルナの落ち込みようは半端じゃなかった。元気づけたくもなる。


「考えてないって、ハッキリゆわれるのも失礼な気がするっす!」

「ワガママなヤツだなあ」


「でも、ゴチになります! 神様仏様アシオ様」

 ハルナが俺を拝む。


「トレー返してきマス」

 ミラカが席を立った。


「俺も。ハルナの分も返して来てやろう。誕生日だからな」

「それはなんかケチ臭いっすね」

 苦笑いをするハルナを置いて、俺はミラカのあとを追う。


「ハルナちゃん、喜んでマシタネ」

「そうだな。ちょっとやかましいが、元気になってよかった」

「ソーデスネ。ハルナちゃん、水着、楽しみなんデスネ」


「そうだなあ。お前も要るか?」

 あえて訊ねる。


「編集長、ミラカは、水着は、要りマセン」

 分かってるくせに。ミラカはそう言いたげな顔をこちらに向ける。


「俺も水着は別に要らんな。詐欺みたいなもんだろ? 生地の量に反比例して高くなる気がするからな。サイフにつらい」


「ミラカ、水着のことはよく分かりマセン」

 彼女はちょっと乱暴にトレーを返却した。


「……なので、俺はお前に生地が多い服を買ってやろうと思うのだが、どうだろうか」


 俺を置いてそそくさと戻ろうとしていたミラカがピタリと足を止めた。

 それから、何も言わずに俺の胸に軽く頭突きをかましてから、跳ねるように座席へと駆けて行った。


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