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事件ファイル♯12 空を見上げて! 空飛ぶ円盤のロマン!(2/6)

「ところで、この部屋、クサくて汚いだけじゃなくって、気になるポイントがあるんすけど……」

 ハルナは繰り返し部屋をけなしつつ、視線をいっそう陰気なものにしている。まぶたが半閉じだ。


「ふたりとも、同じ部屋で寝てるんすか?」


 凍り付く部屋の空気。

 ベッドがあるのに、床には敷きっぱなしの布団。隠しようがない。


「そ、それはエアコンがこの部屋にしかなくてだな……」

 つい俺はしどろもどろになってしまった。

「ミラカちゃん、このまえウチでバイトしたとき、もうひとつエアコン買うってゆってなかった?」


「ち、小さいクーラーを買ってもらったんだが、アレを使うと排熱でかえって部屋が暑くなるみたいでな。それで結局、こっちの部屋に入り浸ってる次第で……」

 事実だ。やましいことは無い。


「編集長が寂しいからいっしょに寝ようって言いマシタ」

 ミラカが俺を指さす。


「おいぃ! ミラカさーん!? そんなこと言ってないでしょ!? むしろ逆じゃないのか!?」

 ミラカを揺さぶる。俺はコイツの強い勧めでこの部屋で寝てるんだ。


「アハハハハ! 冗談デス!」

 ケラケラと笑うミラカ。


「弁明に加勢をしてくれよ! 大体、これを認めてる時点でお前も同罪だろうが!」

「ハイハイ、しょーがないデスネー」

 露骨に面倒臭そうに言うミラカ。そもそも、コイツが部屋を片付け忘れたのがいけない。


「ハルナちゃん!」

 ミラカがいぶかしむ女子高生と向き合う。


「なあに、ミラカちゃん」

「この人は毎晩、毎晩! ミラカがイヤだって言うのに……」

 そう言って、ひしとハルナに抱き着いた。裏切り者め。予想はついていたが。


「センパイ、ひょっとして……」

 ハルナの顔から表情が消える。


「お夜食を食べ過ぎるなっていうんデス!」


「……あっそう。まあ、何も無いって分かってますケド。あたしはウメデラ先輩は、そーいうことはしないって信じてますし」

 ハルナはため息をついて俺を見た。


 それから、

「でも、こんな冗談を言う悪い子は、こうだーー!」

 抱き着いたミラカを抱き返して揉みくちゃにした。ベッドに倒れ込むふたり。


「ぐえー! 助けてー!」

 悲鳴をあげるミラカ。


 金髪美少女と女子高生のくんずほぐれつだ。俺はスマホで撮影した。


「コラ! 撮るなし!」

 ハルナが抗議する。その隙に脱出するミラカ。


「まあ、なんだ。散らかっててスマンな」

 俺は笑いながら謝った。


「ほんっとにしょうがないっすねー。センパイは。……って、このパジャマはミラカちゃんの? ミラカちゃんも、ちゃんとしなきゃダメだよー」

 ハルナはミラカの脱ぎ捨てたパジャマを拾い上げると丁寧にたたんだ。


「ホント汚い部屋だなあ。うわ、なにこれマジでクサい!」

 お次は部屋の隅の段ボールを発見するハルナ。


「それはテリヤキの小屋だ」


「ええ!? テリヤキちゃんは小学校にあげたんでしょ? まだ片づけてないの?」

「ミラカさん担当なので」

 俺はそっぽを向いた。ハルナがミラカを見る。

「メンドクサイので」

 ミラカもそっぽを向く。


「えー! 信じらんない。ハウスダストのアレルギーになるよ! アトピーとか喘息になっても知らないよー!」

 そう言いながら、ハルナは段ボールを勝手に片づけ始めた。

「ヴァンパイアウイルスは無敵なのでヘーキデス!」

 バカ面で笑うミラカ。日光やニンニクでダメになる程度の無敵だが。


「だとしても、センパイの身体によくない。ああ、ポテチのゴミも放置してる! ゴキブリが出るかもよ。あー、ダメだ。センパイ、ゴミ袋無いっすか? 段ボールの中に羽根やらフンやら……」

 ハルナはぶつくさ言いながら部屋のゴミを集め始めた。


「ミラカ、ゴキブリもヘーキデス!」

 初日に事務所を掃除したとき、カワイイと言ってのけた上に、素手でつかんで缶に封印していたくらいだ。


「あたしがヘーキじゃない! ホント、ふたりともだらしないんだから!」

 俺はゴミ袋をハルナに渡してやる。

 なんか分からんが掃除してくれている。便利だ。


「どっちかというと、散らかしてるのはミラカのほうだからなあ。その辺のゴミはだいたいミラカのだ」

 ミラカは炊事洗濯が得意だが、掃除や片づけに関しては徐々に適当になりつつある。

 俺が食器を洗ったり後片付けを積極的にやるのがいけないのか、最近は元・汚部屋住人の俺のほうがマシなレベルだ。


 彼女の最初の仕事が事務所の掃除だったあの日が懐かしいな。


「エヘヘ。スミマセン」

 彼女が言うには「ニッポン人が潔癖すぎるだけ」なのだそうだが。まあ、土足とそうでない文化の差なのかもしれない。


「どっちのとかじゃなくて、ふたりで使ってるならふたりで掃除してくださいよー。もう、布団もちゃんと畳んでください。万年床やるとカビが生えますよー!」

 ハルナは俺の布団を整えて畳む。

「念のため言っとくが、布団は別だからな。そっちの高そうなのがミラカのだ」

 ベッドを指さす。


「はー! 夜はミラカちゃんが上なんすねー!」

「コラ!」

 俺はハルナのアタマをひっぱたいた。


「いたあ! へへへ、冗談っすよ。そうだった、忘れてた。あたし、掃除しに来たんじゃなかった。あー、そのまえに、もういっこ確認しないと。センパイ、ちょっと口開けてもらってもよきっすか?」

 ハルナはごちゃごちゃ言うと、俺の口を指さした。


「なんだ? 口の中は綺麗だぞ? 歯磨きは好きだからな。ワサビを入れるとかはカンベンしてくれよ?」

 俺は素直に従い口を開けた。

 ハルナは覗き込むと、俺の口の中を指さし「ヨシ!」と言った。


「何がヨシなんだ?」

「いや、センパイにキバが生えてたら、ぶん殴ってやろうと思って……」


「やっぱ、信用してないじゃん!」


「あはは。まあ、センパイも男ですし? ミラカちゃんも女っすから。万が一ということもありますし。何か間違いがあるといけないので」

 笑って言うハルナ。


「そりゃそうだが……っていうか、あってもお前にゃ関係ないだろ。俺たちはオトナだぞ」

 といっても見かけと実年齢がちぐはぐで、三〇〇近い歳の差だが。


「ソーデス。ミラカはヘンシューチョーさえよろしければいつでも……」

 ミラカが俺に流し目を送る。


「ミラカちゃん、マジでゆってるの!?」

 赤くなるハルナ。


「……じゅるり」

 ミラカは短い舌をちらりと見せた。同時に長いキバがコンニチワ。


「怖いわ! 寝込みに血を吸うとか絶対やめてくれよ!?」

 どちらかといえばとそっちが心配だ。


「ウッ……!」

 吸血娘は急に顔をしかめると、服の胸のあたりを強く握りしめた。

「編集長! 早く……今のうちに逃げるんデス! ハルナちゃんも! 私が、私でいるうちに……!」


「中学生かよ」

 俺は鼻で笑った。

「ミラカ子供じゃないデスー!」

 自分でやっておきながら頬をふくらますミラカ。


「まあまあ! ……ところで、そんなオトナなふたりは何してたんすか?」

「『宇宙人解体ゲーム』デス! 編集長が股間の爆弾を炸裂させマシタ!」

 ミラカが散らかったままのオモチャを指さす。


「うわ、ふたりとも子どもっぽい……。なんすか、これ? いかがわしいオモチャ?」

 ハルナが宇宙人のオモチャを覗き込む。

 まあ、いかがわしいシロモノなのは間違いない。


「あっ、これ知ってる! ウチにも似たようなのが昔あったなー。家族みんなで遊んだっけ」

 そう言うとハルナはピンセットを拾い上げ、宇宙人の股間に差し入れた。


「アッ! ハルナちゃん、それ危ないデス!」

 ミラカが制止するが、宇宙人は目を光らせサイケデリックな宇宙人音(ブザー)を発した。


「あべしっ!」

 指先を痺れさせてひっくり返るハルナ。


「本当に電気が流れるんだ」

 俺が遅ればせながら解説する。


「は、早くゆってくださいよう……ほぼイキかけましたっすよ……」

 女子高生がうめく。


「宇宙人の光線銃は強烈だからなあ」

「センパイ……下ネタ禁止でお願いします」

「お前が言うな」


「ヘヘ……。それにしても、エグいオモチャっすね……。これでヒロシをヒーヒー言わせたいっすねえ……」

 起き上がり、宇宙人を見てニヤニヤするハルナ。

「酷い姉だな。でも、ヒロシ君はこういうの上手そうだからなー。最終的にコテンパンにやられそうだ」


「違いないっすね」

 俺の意見にハルナが笑う。


「ところでハルナちゃん。何か用事があったのデハ?」

 ミラカが訊ねる。ようやく本題だ。


「そーそー。忘れてた! 一服したらすぐに行きましょう!」


「行っても、もう何も無いかも知れんぞー」

 というか、そもそもが何かの見間違いかもしれんしな。

 こんな午前中にUFOがフラフラしてたり着陸なんてしてたら、とんでもない騒ぎだ。


「へ? 何がっすか? 全部売り切れるってことっすか? ナイナイ」

 ハルナは首をかしげて手をひらひらと振った。


「UFOの話じゃないのか?」

 俺は首をかしげる。横でミラカが「UFO!」と声を上げた。


「あー。UFOとかあったっすねー」

「自分で見たとか騒いでおきながらそれはないだろ」

「ワケ分かんないモンはワケ分かんないで……ナゾのままでいんじゃないっすか?」

 超適当だ。


「そのほうがロマンがアリマスネー」

「まあ、そんなのどうでもいいよ! それより、ミラカちゃん、忘れっちゃったの? 今日、約束の日だよ?」

 あれだけ騒いで登場したクセに、もうどうでもいいとか……。

 俺はハルナがオカルト関係で興奮していたので、ちょっとだけ嬉しかったんだがな。


「約束の日? お買い物は次の土曜日デハ?」

 ミラカがスマホをチェックする。


「何ゆってるの? 今日だよ! 今日!」

 まくしたてるハルナ。


「エー? 違いマスヨー? ほら、ハルナちゃん『土曜日に行こう』ってメッセージ送ってますよ」

 ミラカはスマホを見せて反論した。

「あれれー? おっかしーなー?」

 首をかしげるハルナ。


「お前、買い物にはカシマさんも呼んでたんじゃなかったっけか? そっちのほうは大丈夫なのか?」

「大丈夫、ユイコさんはヒロシと先にデパートに行ってるから……おっと」

 口に手を当てるハルナ。


「なんかアヤシーデス」

 ミラカはスマホをスワイプさせている。

「アヤシクナイヨ」

 ハルナが顔を背ける。


「ムッ! 編集長、これを見てクダサイ」

 ミラカがハルナとのメッセージのやり取りを見せてくれた。

 買い物の予定を立てる際に、ハルナは何故か“今日”の予定まで聞いている。


「お前、ひょっとして俺たちを油断させて、いかがわしいことをしてないか探りに来たな……? UFO事件まででっち上げて!」

 俺はそっぽを向いたままの女子高生を睨む。

「ちっ、違いますって! UFOはホンモノ! ホントに見たんですって! ゆうてセンパイがヘンなことしてる可能性なんて、“微レ存”くらいにしか疑って……」

「やっぱりな。ヘンだと思ったんだ。いくらハルナとはいえ、ウチに来る前には連絡くらい入れるからな」

「確かに。ハルナちゃんならやりかねマセンネ……」


「なんすかその、『いくらハルナとはいえ』って! ミラカちゃんも酷い!」

 ハルナは俺とミラカに交互にすがった。


「じゃあ、ミラカたちを試そうとしたのは間違いデスカ?」

「いやあ、間違いじゃないんだけどね~」

 申し訳なさそうに笑うハルナ。


「アーア。ミラカ、ガッカリだな~。ハルナちゃんがそんなことするなんて~。キライになっちゃおっかな~。シクシク……」

 ミラカは露骨な嘘泣きを始めた。


「そんな! センパイはともかく、ミラカちゃんに嫌われたら生きていけない! お昼ご飯おごるからカンベンしちくり!」

 ちょっと失礼な発言が聞こえたが、ミラカに「飯をおごる」と約束するのは悪手だ。


「ヨシ。ではカンベンしてやりマス!」

 大食い娘が破顔した。いっぽうで破産しそうなヤツもいるが。


「やった! じゃあ、さっそく出かけましょう! 善は急げです!」

「全然、善じゃないが。まあ、待たせてるなら行くしかないか」

 俺はため息をつく。

 今日の昼はそうめんの予定だったんだがなあ。

 加えて、先月の稼ぎが十五日に振り込まれる予定だから、それまでは銀行断ちをして節約しようと思っていた。

 どの道する出費だから、いつ行っても同じなんだが……。


「なんすか。もっとテンアゲしてきましょうよ! 川口ハルナちゃんの誕生日祝いっすよ? もう十八にはなってますケド!」

「はいはい。それじゃ、オトナになった川口ハルナさんとおデートにでも行きますか」


 ということで、予定をズラして買い物に行くことになった。

 それと俺は、かねてから考えていた“計画”を実行に移すことにした。


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