事件ファイル♯10 納涼! 祭りと花火と肝試し!(5/6)
我ら脅かし妖怪部隊は次なる犠牲者を求めて森を進む。
ヴァンパイア娘にネコ娘、そして妖怪ATM男だ。
「この先、ちょっとした広場になってるんすよ。そこに万……万葉箱」
「百葉箱な」
「百葉箱があるっす。こっちからみて反対側におふだを貼ってあるので、ヒロシは裏側に待機する手ハズになってるっす」
「なるほど。じゃあ、広場には出ないで回り込んで驚かすか」
木々が他よりも茂って動きづらそうな右側は通れそうもない。左側を選んで迂回だ。
「ちょっ、ちょっとまってクダサイ」
ミラカが制止する。
「そっちに行くのやめマショー?」
左のルートを指さし言うミラカ。
「なんでだ? あっちは茂みが濃くて浴衣じゃ無理だろ」
「お勧めシマセン」
ミラカは何やら先ほどから鼻をしきりに鳴らしている。
「あー、分かった。ヴァンパイア的に苦手な植物が生えてるとか?」
ハルナが言った。
「イエ、そんなものは知りマセンケド……」
「じゃあ、こっちから行こうよ。あっち通ったら、センパイの言う通り浴衣やぶいちゃうよ」
従わず左側のルートを進もうとすると、ミラカが腕をつかんで引き留めてきた。
「ダメデス。そっちは行かないほうがいいデス」
「どうして? オバケが居るとか?」
ハルナが笑う。
「違いマス。そっちから血のニオイがするんデス。行かないほうがいいデス」
「またまたぁ。そうやって驚かそうとして。さてはミラカちゃん、怖くなったな? 大丈夫だぞー。お姉さんがついてるから!」
ハルナがミラカを抱きすくめた。いつもと違いミラカは抵抗しない。
「……」
彼女の表情には不安が浮いている。
マジっぽいが、さっきのこともある。
コイツの場合は、ヒロシ君と結託して二重三重にワナを張っている可能性がある。
と、すれば。
「分かった。じゃあ、ミラカは普通に正面から百葉箱に近づいてくれ。俺は右、ハルナは左からで」
「うっす。先についた人が驚かす方向で……」
「ダメデス!」
ミラカが声を荒げる。
「そんな必死になることないだろ。なんかアヤシイぞ」
「あっ、分かった! ミラカちゃんはひとりだと怖いんだよ。しょうがないな、あたしはいっしょに広場に行く。ヒロシを脅かす役は諦めよう。それでセンパイはあっち側の道を通ってヒロシを驚かせばいいでしょ?」
ハルナの提案に、ミラカは唸りながらも承諾した。
まず、俺が右側から回ってヒロシ君を見つける。
それからミラカにスマホでメッセージを送り、ふたりが百葉箱に近づく。
ヒロシ君が出てきて脅かしたところを、俺が驚かすという手筈だ。
草木をかき分けヒロシ君が潜んでいると思われるポイントを目指す。
腕に擦り傷やひっかき傷をいくつか貰ったが、そんなことは気にしない。
オトナは全力なのだ。
しばらく進むとヒロシ君を発見。
スマホを見ているらしく、メガネに光が反射している。
メガネを掛けていても所詮は小学五年生。居場所がバレバレだ。
ミラカに『ヒロシ君発見』とメッセージを送り、作戦開始だ。
「へへへ、悪いな小学生。ちびらないように気を付けるんだな……」
息を潜めて動き出すのを待つ。
ヒロシ君はちょいと腰を上げて広場を覗き込んだ。ミラカたちが出てきたようだ。
それから彼は大きくため息をついた。
「ウメデラさん。バレバレですよ」
川口少年はくるりとこちらを向き、メガネをクイッとさせた。それから俺はスマホのライトで照らされる。
「うおっ、バレてた」
「そりゃそうでしょう。さっき姉さんがあんな大きな悲鳴をだして、広場には姉さんが出てきてるし、ウメデラさんは居ない上に茂みでガサガサ音を立てたら……」
「だよなあ……」
言われてみればそうだ。すっかり夢中になって失念していた。
「どうすっかな」
「このままふたりで脅かしましょう」
ヒロシ君が提案する。
「そうするしかないか」
「あったあった、おふだ、これだよ」
「オウ! なんて書いてあるか分かりマセン、本格的デスネー」
「なんかこれ、元々貼ってあったんだって」
「ヘエ。剥がしてもヘーキナンデスカ?」
「へーきへーき。どうせオバケなんて居ないし」
ハルナとミラカの会話が聞こえてくる。
「よし、じゃあ行きますよ」
横でつぶやくヒロシ君。
「お、ひょえ!?」
俺は彼を見て仰天した。
彼は腹を上に向けて、手足を地につけている。ブリッジだ。
そして、そのまま手足を器用に動かして茂みから飛び出して行った。
「アアアアアア! バケモノデス!」
「ぎゃああああああ!」
ミラカとハルナが悲鳴をあげた。
「アー! ヒロシ君デシタ!」
「もー! マジビックリした!」
出てくるのを知っていたはずのふたりが、すっかり驚いてしまっている。
俺も驚かすタイミングを逃してしまい、仕方なく普通に登場する。
「俺もビックリしたわ。そんな特技があるなんて」
「ふふふ、これは映画を見て覚えたんだ」
身体を捻り、体勢を戻す川口少年。
「僕の勝ちですね」
手の土を払い、大きくずれたメガネをクイッと戻す少年。
「まったくだ。完敗」
ブリッジしたまま歩行にはさすがに敵わん。
「マジキモい、ありえないんですけど」
ハルナは弟のアタマをひっぱたいた。
「いてっ! 姉さんには無理だろうね。身体堅そうだし」
「は!? あたし超柔らかいし! 触ってみろし!」
ハルナがヒロシ君をがっちりホールドする。
「痛たたたた! やめろよねーちゃん!」
「イヤー、すっかり驚かされてしまいマシタ。これは一本取られマシタネ~」
ミラカは姉に絞殺されそうになっている少年を見てニコニコしている。
「ホントにな。お、ミラカ、可愛いの着けてるじゃないか」
いつの間にか、ハルナのアタマにあったハズのネコミミのカチューシャが、ミラカのアタマに移動している。
「なんかハルナちゃんに着けられました。ミラカ自分じゃ分かりマセン」
「それじゃあ撮ってやろう」
首をかしげて見上げる金髪ネコミミ娘をスマホに収める。これはアクセス数爆上げ間違いナシだ。
「よしよし、可愛いぞ」
撮れた写真を見せてやる。
「エッ、ヘヘ……。可愛いデスカ?」
いっしょにスマホを覗き込みながらはにかむネコミミ娘。
「うん、超カワイイよ! きゅんきゅんしちゃう!」
ハルナも撮影を始める。
肝試しはうやむやになり、すっかり撮影会に切り替わってしまう。
ところが、ミラカがまた何やら不穏なことを言い出した。
「アノ……、音が聞こえマセンカ?」
表情を消し、本物のほうの耳を澄ませるミラカ。
「またまたー、えっ、本当だ」
ハルナも固まった。
俺も耳を澄ましてみる。
シャン。シャン。
かすかだが、どこからか涼しげな金属音。
シャン。
鈴の音だ。
音はどんどん近づいてきている。俺たちが来た方角からだ。
森から人影。
「センパイ! なんか出てきた! 撮影撮影!」
ハルナに言われて俺はスマホを動画モードにして構えた。
淡く照らされた広場。
月光が人影の正体を暴き出す。
長く黒い髪。白衣に緋袴。手には神楽鈴。
それからソイツの顔には、白狐の面。
体格からして女らしいソイツは、一旦静止すると鈴を強く鳴らし、それから広場を滑るようにこちらに向かって来た。
徐々に早く。そして俺たちの前でピタリと停止。鈴の音ひとつ。
「……うわっ!」
横でヒロシ君が尻もちをついた。
それから女はかがみ込み、ヒロシ君の顔を覗き込んだ。
気温がぐっと下がった気がする。
何だコイツは? 何者だ?
「……フフフ」
仮面の下から女の笑い声。
女は面に手を掛け素顔をさらす。
「じゃーん! 私でしたーー!」
面を取ると若い女の顔が現れた。彼女は笑顔でこちらを見ている。
「どちら様ですか?」
あいにく俺は若い女性の知り合いがほぼゼロだ。
「えっ、そんな!? ほら、私ですよ、私!」
巫女装束の女は自身の顔を指さしながらアピールする。
「エエト、ゴメンナサイ。オレオレ詐欺デスカ?」
ミラカも知らないようだ。
「そんなあ!」
女性は不満げに声をあげた。
「僕も知りません……」
ヒロシ君がつぶやく。彼はまだ地面に尻をつけたままだ。
「弟クンは初めましてかな。ねー、ハルナちゃん? 話が違うんだけど!」
「いやー、すっかり忘れられてますねー、ユイコさん」
ハルナが「あはは」と笑った。
ユイコさん。あれ、誰だっけ……?
「その顔はやっぱり百パー忘れている顔! 夜中に私をとっ捕まえて説教したクセに!」
ユイコさんと呼ばれた女性は、手にした鈴をうるさくならして抗議した。
夜中? とっ捕まえて説教?
「ああ、鹿島ユイコさんか! あの丑の刻参りの!」
俺はようやく思い出した。「カシマさん」だ。
いつぞや、神社の木にわら人形を打ち付ける呪いの儀式をしていたねーちゃんだ。
「そうですよ! 鹿島ユイコです!」
カシマさんは肩に掛かった長い黒髪を払い、メガネを掛けながら言った。
「いや、全然分からんかった。というか、メガネ掛けてましたっけ?」
「ええと、OLしてたときはコンタクトだったから。ホントはバリバリのメガネっ娘なのです。賢そうでしょう?」
分からなくても当たり前だ。何せ俺はあの暗い夜道で一度顔を合わせただけなのだから。
「あの時のユーレイさん」
ミラカもようやく思い出したようだ。
「ミラカちゃんにも忘れられてるし! 毎日、サイトもブログも見てるのに!」
「こりゃドウモデス」
ミラカが頭を掻く。
「あたしが呼んだの。第三者が出てきたら絶対驚くだろうなって。センパイもミラカちゃんも手ごわいの分かってたからね」
ハルナが得意げに言った。
「俺にくらい教えてくれてもいいじゃん……」
ヒロシ君がこぼした。
「ヒロシはついで。どう? 驚いたでしょ?」
ふふん、と鼻を鳴らすハルナ。驚いたでしょ? と、続くカシマさん。
「真に迫ってたな。ユーレイを演じていただけのことはある」
「別にアレは演じてたワケじゃないんですけど。でも成功したんならよかった」
カシマさんはほほえんだ。
「そーいえば、ユイコさんは田舎に帰ったんじゃなかったんデスカ?」
ミラカが首をかしげる。
「会社はやめたんですけどねー。すぐに帰るのももったいないから、貯金を崩しながらなんとなくだらだらとこっちで生活してます。お金は稼ぐばかりで使うヒマなかったから」
「そこで、あたしが呼んだってワケ!」
いつの間にか仲良くなっていたんだな。
「普段から連絡とってるんですよ~。ハルナちゃん女子高生だから、けっこう流行に敏感で。美味しいお店とか教えてもらってます」
「あたしはおごってもらってます! ユイコ先輩、ゴチです!」
敬礼するハルナ。
「苦しゅうないぞ。……というワケで、鹿島ユイコのドッキリでした~」
カシマさんが鈴をシャンと鳴らした。
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