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事件ファイル♯08 荒ぶる空と大地! 陰謀は事実か?!(5/6)

「なんでもいいぞ。食い物でもエロ動画でも」

 俺はミラカの横に腰かける。


「ンモー。編集長じゃないんですから、そんなのは検索シマセン! でも、用事もないのに検索するのは難しくないデスカ?」

 ミラカの質問に俺は首をかしげる。

 そういうもんか。俺はヒマがあるとテキトーにネットサーフィンしている人種だから、その意見は新鮮だ。


「じゃー……“ミラカ”で検索してみます」

「やめとけ。そういうのはイヤな気持ちになるのがオチだぞ」

 俺は初手エゴサーチに心臓をつかまれる思いをしながらもミラカを止めた。


「どうしてデス? みんなカワイイって褒めてるに違いアリマセン!」

 鼻息を鳴らすミラカ。すごい自信だ。

 俺も彼女の悪口は見ていないが、例の掲示板のサルたちの書き込みでも見つけられたら、気分を害するに違いない。


「ひとつでもイヤなことが書かれてたら気分が悪いだろう? それに、そういうのを気にしだすと、頻繁に調べて確認したくなるもんだ」

「確かに。編集長の言う通りデスネ。違うコト調べマス」

 ミラカは素直に頷くと“アイルランド”で検索した。


「編集長もお勉強シマショー。ミラカの故郷を知って欲しいデス」


 ミラカは観光名所や文化の説明を始めた。

 検索で情報を調べているというよりは、サイトの観光や留学の体験談をきっかけに、自身の思い出を引き出しながら話しているような感じだ。


「いちばん見るところが多いのは、やはり首都のダブリンデス。ミラカたちヴァンパイアはずっと隠れて住んでいたので、最近になるまで避けてマシタガ。何年か前にパパやママと旅行をシマシタ。古い聖堂やお城が残ってマス。田舎で長生きしてたミラカたちにとっては新しい建物のほうが面白かったデスガ、新しい建物を建てるのを反対してる人たちがたくさんいマシタ」


 景観を崩さないようにということだろうか。日本でもちょくちょく聞く話だ。


「キレイなところなのか?」

「ン~。そうでもナイカモ。地味な街デス。パブはオススメデスケド」

「パブ? バーとかと違うんだっけか?」


「ハイ。パブといえば、ニッポンじゃスケベなお店が多いみたいデスガ……。アイルランドのパブは“家”のようで、子供やお年寄りも集まりマス。おはなしのお披露目をしたりするトコロもアリマスネー」


「ふーん。日本じゃ見ない光景だな」

「ママもミラカも大人なのにお酒を出してもらえませんデシタ。パブはアホデス」

「さりげなくディスるな。っていうか、当たり前の対応だ」


 ミラカが言うには彼女の母親は彼女よりも若く見えるらしい。

 とすれば小中学生にしか見えないのだから当然だ。


「キレイなのはやっぱり自然デス。ニッポンと違って、森や草原もめっちゃ多いデス」

「日本だって自然もあるところにはあるぞ。この前、田舎に行っただろ」

「ミラカの家にはヒツジやウシ、ヤギが遊びに来マス。キジやウサギが歩いてたり!」

「さすがにそれはないな。ウシって、近所に農場でもあるのか」


「野生のも居マスヨ。でも、みんな油断してマス……フフッ」

 なんだその笑いは。


「このジャイアント・コーズウェイってのは面白いな」

 俺はモニタに映った奇妙な景色を指さす。

 無数の石柱で構成された海岸だ。

 石柱にはキレイに六角形になっているものもあるが、自然の構造物だそうだ。


「そこもアイルランドといえばアイルランドデスガ、今では“北”デスネー」

「北部はイギリス領なんだっけか?」

「そうデス。みんながみんなではアリマセンガ、考えかたが違うので、こういうデリケートな問題はうっかりするとケンカにナリマス。少し前まではテロもアリマシタ」

「意外と血気盛んなんだな」


 ヨーロッパというと、無関心な日本人からすりゃお洒落で優雅なイメージが先行するが、実際はそうでもない。

 テロもあれば、ことあるごとにデモ行進をするような国もあるし、経済や就労、移民などで取り返しのつかないくらい問題を抱えてしまっている国もある。

 旧ソ連に関連した国では、いまだに軍事行動でドンパチなんてのもあるそうだ。

 俺もニュースでそういう話を聞くくらいで、いまいちピンとこないんだが。


「マー、ミラカは慣れっこデス。長く生きてると国の様相は変わるものデス。ニッポンはずっとニッポンなのでスゴいデス」

「外から見ればそうなんだろうがなあ。江戸時代の前なんて、あっちこっちの国……今でいう県に当たるもの同士が戦争してたからな。実質、国が分裂してたようなもんじゃないかな」

「どこも色々あるんデスネー」

「多分、戦国時代がいちばん日本国内が激しく揺れ……」


 ……と、その時!


 ミシリという音のあとに部屋全体が揺れ始めた!

 風じゃない。もちろん俺のイタズラでも。

 ミラカは俺を疑ってか、一瞬こちらを見たが、初動の音が部屋そのものから発せられたものだということに気付くと、血相を変えて抱き着いてきた。


「ホアアアアア!? 編集長、ホンモノの地震デス! 大地の怒りデス!」


 縦揺れ。ガタガタ跳ねるような地震だ。恐らく震源が近いのではないだろうか?

 強い揺れだが、数秒経ってもスマホは緊急速報を知らせないし、大したことはないだろう。

 俺は過去最高にビビってるミラカが面白くてスマホを使って撮影してやった。

 両まぶたを力いっぱい閉じて、ひしと俺にしがみ付いている。


「おい、揺れはもう収まったぞ」

「Cabhair liom...Cabhair liom...」


 流ちょうな外国語を唱えている。

 無理やり引き離すワケにもいかず、しばらく好きにさせておく。

 地震もそうだが、案外こういうシーンになっても冷静でいられるもんだな。


 エアコンの音と、ときおり段ボールから「キョッキョッ」と中途半端な声が聞こえてくる。

 テリヤキも驚いたのだろう。

 しばらく、そのままでいると、スマホが振動した。

 俺のじゃない、ミラカのだ。


「スマホなっとるぞ」

 放り出されたスマホをつかんで持ち主をつつく。

「ハッ!? 揺れが収まってマス。めっちゃビビりました。鼻から指を突っ込まれて奥歯ガタガタ言わされた気分デス……」

「どんなだよ」

 ミラカは俺のツッコミを無視してスマホをチェックする。相変わらずくっついたままでだ。

「ハルナちゃんからデス。『地震びっくりしたねー』って言ってマス」

「震源が近いな。震度4だそうだ。速報は出なかったなあ」

 俺もスマホを見る。地震の体験後は小さなものでも欠かさずチェックする。


「『めっちゃ揺らされて、思わず編集長に抱き着いてしまいました』……っと」


「おい、それは送るな」

 俺はミラカを制止したが、もう遅かった。

 速攻で俺のスマホに『死ね』のメッセージ。


「年上に向かってなってないな」

 俺はハルナへのお仕置きに、先ほどのミラカとのツーショットを送信する。

 羨ましがるがいい。

 お返しには『青いウサギがピンクのウサギに包丁で刺し殺されているイラスト』を貰った。


「しかし、驚きマシタ」

「アイルランドには地震はないのか?」

「滅多にアリマセン。チビりそうになりマシタヨ。こんなに大きいのがあったら国中パニックデス。……街がめちゃくちゃになったのデハ?」


 ミラカは俺の服をつかんだまま窓のほうに首を伸ばす。

 エアコンと隣のビルの壁しか見えないが。


「今のじゃブロック塀も崩れないだろうな。ちょっと台所だけ見てこよう」

 ベッドから出ようとすると腕が引っ張られた。

「もう揺れは収まった。サービス期間は終了だ」


「テリヤキ取ってクダサイ」

 ミラカはようやく腕を離すと段ボールに向かって手を伸ばした。


「不安なのは分かるが、ベッドの上にニワトリを持ってきちゃダメだ」

「ウー……」

「建物や家具は平気だと思うが、棚に入ってる食器だけ心配なんだ。ちょっと見に行く」


 俺は怖がるミラカを放って、台所をざっと確認した。

 食器類は無事だ。安物ばかりだが、多少なりとも出費は少ないほうがありがたい。

 戻り際に事務室の窓から外を眺める。

 吹き荒れる風雨。地震よりもこっちが問題だ。

 すっかり忘れていたが、現在、この街は台風の中心近くにあるのだ。


 部屋に戻り扉を開けると、ベッドの上でミラカが肩を跳ねさせた。


「ウー……ビックリした」

「ビビりすぎだ。地震よりも台風のほうで酷いことになってたぞ」


 こっち部屋は通りに面していないうえに、エアコンの音のせいで外の状況が分からない。

 窓から外を見たときには、どこから来たのか葉の付いた大きな木の枝や、粉々に砕けたプラスチックの看板が道路に散乱していたのが見えた。


「ニッポンは地震に台風に大変デスネ。それに、想像以上に暑いデス」

 ため息をつくミラカ。


「もっと言えば、地方によっては雪に頭の上まで埋まるし、台風でなくとも豪雨はあるぞ。雷も落ちまくりだ。火山もあるし、島国だから大きな地震があると津波にも気をつけなきゃならん」


 自然災害欲張りセットだ。

 巨大な地震や津波もまだ記憶に新しい。


「ニッポンは何か罰当たりなことでもしたのデハ?」

「そうかもなあ。さっきの地震は、ミラカが食い過ぎだからジャガイモの神様が怒ったんだよ」


「そんなに食べてマセン!」

 食べてます。


「これ以上食べ過ぎると日本が沈没するかもな」

 俺は笑う。


「ウー! 何者かがニッポンを陥れようとしているのデス! ソウデス。それに違いアリマセン!」

「そういや、地震も人工的に作られたなんて説もあるな。地震兵器だなんだって」

「誰がそんな恐ろしいことを? 今すぐやめるべきデス!」

「アメリカとか、ロシアとか? 陰謀論や超兵器の話になると、この二国は基本的に疑われる。あと、日本が損して嬉しいのは隣の国かなあ」

「ウー。許すまじ敵国」

「ないない。実際にそんなもんあってたまるか。みんないい迷惑だよ」


 熱心なビリーバーも居るが、俺はカケラほども信じちゃいない。


「ホントに無いデス?」

 疑り深く俺を見るミラカ。


「俺を睨んでもしょうがないだろ。地震関係はまっとうな研究でさえも難しいんだ。なんせ見えない地中深くが相手だ。地球規模じゃ、十年も百年も誤差みたいなもんだしな。予知とか予兆の観測も研究されてるが、いまいち成果が上がっていない。スマホに速報が来るようになったのも、近年になってからだしな」


 ミラカは唸りながらノートパソコンに向かって何やら打ち込む。


「ム、動物が地震を予知するって書いてアリマス」


 難しい顔をしながら記事を読むミラカ。

 しばらく読み進めると、段ボールのテリヤキに向かって指を出して「ダメ!」と叫んだ。


「無茶言うなよ。そういう宏観現象も大抵は地震が起こったあとに、そういえばってなっての事後報告が多いもんだ」

「じゃあ、デタラメデス?」

「デタラメとは言わないけどな。鳥は磁気を感知して場所を覚えてるような話もあるし。ま、ニワトリにゃ無理だと思うが……」

「イルカやクジラがたくさん死んじゃうと地震が起こるってかいてアリマス。井戸水が濁るとか、変な雲が出るとか」


「関連性は否定はしないが、動物にしろ雲や井戸水にしろ、地震以外でもそういう現象が起こりうる時点で百パーセントにゃならんだろう? むやみやたらと心配するよりは、備えだけしてどっしり構えてりゃいいんだよ」


「ソーデスネ。ミラカのお腹が鳴ってないからといって、お腹が空いてないとも限りマセン。さっき食べたばかりでも、お腹が空いているかもシレマセンネ?」

 ちらとこちらを見る大食い娘。


「食べ過ぎだ」

「それも食べ過ぎじゃない可能性も……」

「はいはい」


「ちょっとお手洗い行ってきマス」

 ミラカが立ち上がる。

「とか言って、食い物を持ってくる気だろ」

 俺がそう言うと、アカンベーをされてしまった。


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