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事件ファイル♯05 深夜に徘徊する白い影! 幽霊の正体を追え!(3/6)

 翌日の昼下がり、いい天気(・・・・)だったので俺はミラカとテリヤキを連れて公園へ散歩に訪れた。

 今日のミラカは白い長袖に黒スカートにスパッツ、それと麦わら帽子というコーディネートだ。

 日光を避けたがる彼女の持つ衣装の全ては長袖らしい。


「テリヤキはチョ~ットブサイクになってきマシタネー」

 ミラカは土の上をウロチョロするヒヨコを眺めて言った。

 テリヤキは頭部を残して茶色い羽に換羽が進んでいる。


「頭だけ黄色いとかミラカみたいだな」

「エー」

 不満そうな声だ。


「ピョーピョー!」

 テリヤキが抗議するように少し変な鳴き声を立てた。

 声もヒヨコからニワトリへ変わる途中なのだろう。


「テリヤキが怒ってるな」

「もう少ししたら、オスかメスか分かりそうデスネ。トサカがおっきければオスデス」

 スマホでニワトリの生態を調べるミラカ。


「ウッ……」

 何やら急にうめき声をあげる。


「どうした? ウンコでも漏れそうなのか? 残念だが、この公園にはトイレが無いのだ」

「下品デスヨ編集長。なんか、ハルナさんが今から来るらしいデス」


 ミラカはアンニュイな感じで返信を打っている。

 ミハルナに対する印象は「嫌いではないがちょっと苦手」だそうだ。

 まあ、あれだけペットのように可愛がられれば無理もない。


「今日は月曜日だろ? 高校生が学校から解放されるにゃ、まだ早いだろ」

 俺は首を捻った。公園にはまだ小学生も居ない。

 低学年と思しき子供がランドセルを背負って帰路についているのには出くわしたが。


「今週から試験だから、早く終わるソーデス」

「もうそんなシーズンか。いや、だったら遊んでないで勉強しろよ」

 ミラカのスマホ越しにツッコミを入れる。

「何しに来るんデスカネ?」

「さあ……。スマホじゃダメな用事なんて、昨日みたいな……」


「ミラカちゃ~~~~~ん!」

 公園の外から声。


「ヒイ!?」「来るの早っ!」

 駆けてきたショートボブの娘は、今日も制服姿での登場だ。

「川口ハルナ。呼ばれて飛び出て参上!」

 右目にVサインを横に構えるハルナ。

「別に呼んでないデス……」

 ミラカはハルナに向かって裏返しのVサインをした。

「メッセージのやりとりをしてから来るの早くないか?」

「もう家出てましたし。試験終わって帰ってご飯食べてチョクっすよ」

「そうか。勉強はちゃんとしろよ」


 ハルナは「うっす」と後輩らしく返事をしながら、すでに手を持ち上げミラカににじり寄っている。


「オ、オオウ。ハルナさん、ミラカと一戦交えようってんデスカ……」

 ミラカもベンチから立ち上がり、構えを取った。

 人差し指二本。あれは伝説の宇宙人の触覚の構えだ。


「テリヤキは避難してような~」

 俺はヒヨコを抱き上げて指で撫でてやる。


「エイリアンブラスター!」

 ミラカが謎の不可視の光線を発射した。


「ぐわあああ。マジカワイスギマジヤバたん」

 ハルナは光線を受けるとくるりとスカートを翻し、そのまま回りながらミラカを捕獲して頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「グワアア!」

 勝負は相打ちに終わった。


「何やってんだお前ら」

「スキンシップですよ。ナマミラカちゃんですよ、ナマミちゃん!」

「あ、暑いので放して欲しいデス」

 女子高生に埋もれながらジタバタするミラカ。

「そうだねー、暑いねー。おや、ウメデラ先輩! それ、“テリヤキ”ですか?」


 ハルナはミラカを解放してやると、俺の抱いてるヒヨコに興味を示した。


「おう、そうだ。ナマテリヤキだぞ」

「ナマテリヤキってなんですか。草」

 ハルナが言った。

「今時の女子高生は草なんて言うのか」

 俺は聞きなれているような聞きなれていないようなワードに反応した。

「あ、すみません。イミフでした?」

「なんで草デスカ?」

 ミラカが俺に訊ねる。


「元々は日本のネット用語でな。笑いを意味する(笑)(かっこわらい)が省略されて“ワラ”になり、さらに省略されて“w”だけになり、wを並べると芝生のように見えることから派生して“草”になったんだ。植物の藁も掛かっているだろうな。しかし、まさか女子高生も使ってるとは」


「フツーっすよ。みんなネットしますし。ちな、最近のマイブームは『テリヤキ成長日記』」

 自身のスマホを振るハルナ。『オカルト寺子屋』が映っている。

 テリヤキの成長日記はブログでミラカが更新している。

 せっかく女子高生にブームと言われたのが助手の更新の分であるのが妬ましい気もしないでもないが、ネット語を連発する人間のマイブームが汚い男のまぐわいの動画とかでないなら、まあ上出来だ。


「ほら、今日の更新もバッチリチェックしましたよ」

 ヒヨコの画像が映し出される。


 ちなみに、ブログに関し、俺は完全にノータッチだ。

 写真も記事もミラカに任せている。

 そして悲しいかな、ここだけの話だが俺の古いオカルト記事よりもアクセス数が多い。

 まったくオカルトと関係がないが、サイト本体もこれを更新するようになってから定期的に見に来てくれる人がウナギ上りになっているのだ。


 オカルトサイトはマジメにやると検証やデータ収集で相当の時間が掛かる。

 調べればキリがないし、取材や実地検証にも限界がある。

 かといって、適当にまとめれば早くにネタ切れを起こすし、サジ加減が難しい。

 よって、大御所でもそう頻繁には更新できないものだ。


 一方で、『テリヤキ成長日記』はほぼ毎日更新。

 ミラカが日記を更新するようになってから、俺たちの『オカルト寺子屋』はオカルトサイトの紹介サイトの上位に食い込み始めている。


「ところでセンパイ。事件は解決しました?」

 ハルナが訊ねる。

「いや、解決も何も、行動すら起こしてないが」

「えー!? あたしせっかく地図送ったのに。ちゃっちゃと調べて来てくださいよ」


「正式な依頼には料金が発生致しマス」

 ミラカがピシャリと言った。なかなか助手然としてきたじゃないか。


「えー! 貧乏女子高生的にそれはツラたん」

「バイトとかはしてないのか?」

 俺はいっぱいしてるぞ。

ウチ(・・)も学校もバイト禁止なんで」


「厳しいのか?」

 俺の時代はどうだったかな。テキトーだった気がするが。

 やはり、ハルナは首を振った。


「そーでもないっす。バイト禁止の校則なんて誰も守ってないし。あたしもソーイウのに真面目なキャラじゃないし。えっと、ウチ、焼き鳥屋やってるんですよ。ヒロシから聞いてません? だから、バイトしなくてもそっちの手伝いしたら、親からマネー出るんすよ」


 女子高生は指で丸を作った。

 ハルナの家は焼き鳥屋だ。そういえば弟君が言っていた。


「ほー。自宅でバイトはいいな。しょうもない軋轢や人の入れ替わりが無いのは楽だ」

「そーでもないっす。それはそれで都合のいい時だけ使われるんで。フツーのバイトよりも稼ぎも悪いですし。女子高生は……いくらお金があっても足りんでゴワス」

 力士が懸賞袋を受け取るときの手真似をするハルナ。

「なんで急に力士になった? ま、焼き鳥屋なら今度食いに行ってみるかな」


「おー、是非是非。テリヤキ成長日記の最終回にどうっすか?」

 ちらと俺の手の中のテリヤキを見るハルナ。


「いいデスネー。ラストは解体から動画にシマショー」

 同意する飼い主。


「よくない! 寿命まで世話するの!」

 俺はヒヨコちゃんを撫でる。

「あっはっは。冗談っすよ。ところで、ミラカちゃんはいつまでここに居るんすか?」

「ここって、公園か? 望むならキミを残して今すぐに帰ってもいいが」

「センパイ、冷たっ! そういう事じゃなくて、いつまで日本に居るかってことですよ。ホームステイなんですよね?」


「……」

 俺は言葉に詰まった。

 そういわれてみれば、考えたことがない。

 最初にミラカのことで頭を悩ませていたが、いつの間にか、「いつまで」なんて気にしなくなっていた。


 ミラカはなんらかの事情で「家出」をしてきていると言っていた。

 これまで、いろいろと彼女の私的な思い出を聞いたり、ヴァンパイアの話を聞いたりもしてきたが、「家出の理由」については特に触れられることは無かった。

 彼女は最初に言いたがらなかった通り、これについては意図的に避けていたのだろう。

 そして俺のほうは暮らしを安定させることに精いっぱいで、いつ帰国するかなんてことに考えが及ばなかったのだ。

 もはや、彼女が居ることは当たり前だ。


 だが、「子供の家出」というものには終わりがあるものだ。

 

 俺は何も言わずにミラカの顔を見つめた。


 無言でにへら、と笑う小娘。

 どういう意味だ。考えてないということか、ずっと居るつもりなのか、帰る予定があるのか……。


「あー……。今の質問はスルーの方向で」

 ハルナが申し訳なさそうに言う。KY(・・)ではないようだ。

「そーいえば、ミラカちゃんって年齢いくつなんですか? ウメデラ先輩の事務所にひとつ屋根の下っしょ? マジヤバくないっすか?」

 今の流れで物怖じせずにこの質問を投げてくるか。やはりこの女子高生は強い。


「年齢? そりゃ、プロフィール通りだろ。だから全部問題ない」

 俺はテキトーに答えた。

 サイトには俺とミラカ、それに準構成員の川口少年のプロフィールが書いてある。

 全部“真実”でだ。俺はペンネームもハンドルネームも実名だし、ミラカのものだってパスポートに記載されている情報と合致する。


「アレは設定でしょ。実年齢のこと聞いてるんですよー」

 ハルナはもったいぶるなと不満を見せる。

「ミラカ、三百十六歳デスヨ。だから、ハルナちゃん(・・・)よりめっちゃ年上デス!」

 ミラカはニヤリと笑って答える。

 年齢でマウントを取ったつもりらしい。さりげなく呼び方も変化させている。


「あはは。お姉さんぶってカワイイ~」

「グエエ」

 またカワイイ攻撃の犠牲になるミラカ。


「言っとくが、法律や警察の問題はクリアーしているぞ。なんなら大使館に問い合わせてもらってもいい。ちゃんと助手として雇ってるから、給料も出してる。社会人だ、社会人」

 半人前社会人の俺は公的機関に丸投げする。

 多分、公的機関もテキトーに答えると思うが。


「え、マジ? ってことはミラカちゃんってハタチとか以上なの!? あたしてっきり、センパイがどっかから拉致って来た小学生だと思ってた! ロリコン! タイーホ!」

 わめき散らすハルナ。

「編集長はそんな事シマセン! お風呂は覗かれましたケド!」

「あれは事故だ!」

「もしもし、ケーサツですか? ラーメンとチャーハンお願いします!」

「通報するな! ラーメン屋じゃない!」

 ツッコミが追い付かない。


「冗談っすよ。だったら、あたし、ミラカちゃ……ミラカさんより年下だし、媚びへつらったほうがいい系?」

 ハルナはミラカを解放すると、敬礼をして首をかしげる。


「イエ、フツーに……もう少しだけ、ひかえめにしていただければ、それでいいデス」

「そーぉ?」

 早速ミラカを抱きすくめるハルナ。

「モー!」

「じゃ、ミラカちゃんもオトナってことならー。今度、みんなでユーレイ捕まえに行こーよ」

「深夜に出歩きか? 警察にお説教されるのはカンベンだ」

 ワケの分からん理由で深夜の住宅街をうろついているのを見つかれば、立派な大人でも「ちょっと来てもらおう」になる。


「ウメデラ先輩、そんなの気にするキャラじゃないっしょ? オカルト屋さんって、廃虚とか勝手に入るし。あたしも、真面目系キャラじゃないんで。パリピなんで。オールとか余裕っすよ! 記事にしてあたしもサイトデビューさせてくださいよ~」


「アホか不良少女。まあ、弟のヒロシ君並みにいい働きをしたら考えてやらんこともないが」

 コイツはアホそうなので無理だろう。メガネも掛けてないし。


 それよりも、サラッと痛いところを突かれた。

 個人的には不法侵入などは避けてきてはいるが、仕事としてやったことがあとから無許可だったなんてケースはちらほらあったりする。


「いやあ、言ってみるもんだな~。じゃ、あたし聞き込みしてきます! フッ軽なんで!」

 ハルナはパッと笑顔の花を咲かせると、周囲を見回し、ちょうどゲームをしに集まってきた小学生たちへと突っ込んで行った。


「いいんデスカ? 編集長。私は反対デス」

 ミラカはいつになく真面目に言う。

「そのうち飽きるだろ。高校生ってのは忙しいモンだし」

「あのユーレイ話だって、本当かどうか分かりマセン」

 ミラカはちょっと冷たく言った。

「そうだなあ。まあ、カワグチ君の姉だからな。邪険にも扱えまい」

「ソーデスケド……」

「不満そうだな。ミラカはやっぱり、ハルナのことが嫌いか?」

「ちょっと苦手デスケド。なんと言いますか、引っかかりマス。もうすぐ受験生デスヨネ? 今も試験中デスシ……」


 俺たちは大人の意見を交わし合いながら、小学生に混じって元気におしゃべりをしている娘を眺めた。


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