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事件ファイル♯05 深夜に徘徊する白い影! 幽霊の正体を追え!(2/6)

 ハルナとの邂逅を終えたのち、夕食を終え、風呂も済まし、あとは寝るだけの時分となった。


「あづいデスー」

 ミラカが扇風機にかじりついている。


「スマンな。ここにエアコンはないのだ」

 俺がフクシマからこのスペースを借りたとき、前の入居者の設置したエアコンが放置されていた。

 しかし、それは業務用の大型で、やたらと古く、動かすと不健康なニオイと共に、サイフから諭吉を次々と誘拐していく代物であった。

 実家から奪ってきた古きよき扇風機が俺の夏季の相棒だ。

 日中、どうしても耐えられない時は『ロンリー』にお世話になればいい。


「ワ・レ・ワ・レ・ハ、ウ・チュー・ジン・ダー」

 ミラカは扇風機に向かって声を張る。

「どこで覚えたんだ。そんなネタ」


 宇宙人娘にツッコミを入れるとスマホがメッセージの着信を知らせた。ハルナからだ。

 地図の座標が送られてきた。友達と遊んでいてすっかり忘れていたそうだ。


「意外と近所だな」

「ヒロシ君の家との、ちょうど駅のあいだですね」

 俺のスマホを覗き込むミラカが、くぐもった声で言った。

 彼女はアイスの棒を咥えている。

 風呂上がりに冷凍庫から取り出されたそれは、かれこれ一時間は口の中で弄ばれている。


「いい加減アイスの棒を捨てろ。卑しいぞ」

 俺に注意されてミラカは口からアイスの棒を取り出す。

 歯形だらけで先の方は割れて繊維状になっていた。


「棒まで食うな」

「デハ、新しいのを……」

 台所へと向かおうとするミラカ。俺は彼女を引っ張ってソファに戻す。

「アイスは一日一本と約束しただろう。我慢だ」


「ウー」

 ミラカは唸るとアイスの棒を再び口に咥えて噛み始めた。


「棒を食うなと言っとろう」

 俺はミラカの頭にチョップをお見舞いする。


「ベッ! アイスが食べたいんじゃないんデス……。最近どうも、歯がムズ痒くて……」

「お前は乳児かハムスターか」


「なんだかキバがカユイ……」

 ミラカは犬歯の部分でアイスの棒を噛んでいる。


「生え変わったりするのか?」

「イエ、そんなことは無いのデスガ。……ウェー。口の中が木のクズでいっぱいデス」

「当り前だ。捨てなさい」

 するとミラカは口に棒を咥えたまま顔を突き出してきた。

「捨てろってか?」

 ミラカがうなずくので、棒を引き抜こうと掴んだ。

「ウー」抵抗するミラカ。

「どっちだ。歯が抜けるぞ」アイスの棒を引っ張る。


「引っぱられるとほどよい刺激が。反対のキバもお願いできマスカ?」

 そう言うとミラカは口を開けて待機した。反対側に棒を突っ込めということか。

「アホか」と言いながらも俺はアイスの棒を差し込んでやる。

「アウ」口を閉じたので棒を引っ張ってやる。


「ウフフ……」

 妙な笑い漏らすミラカ。口の端から唾液が垂れた。


「……終わり。さっさと捨てなさい」

 俺は何やら背徳的な気分になり、アイスの棒から手を離す。

 ミラカは「ハァイ」と返事をしてゴミ箱にアイスの棒を放り投げた。ナイスシュート。


「ところで、ユーレイの調査はするんデスカ?」

「どうかな。頼まれたワケじゃないし。アレだけじゃ、よくあるウワサだ。都市伝説にも届かなきゃ記事にもできない」

「デスヨネー。夜中ならミラカも自由に動けますから、調査のお手伝いは出来マスガ」

「用もなく夜中に出歩くべきじゃないな。こっちから現場の住宅街に行くまでに繁華街を跨がなきゃならんし。お前を歩かせたくない」


「心配してマスネ~?」

 ミラカはイヤらしい笑みを浮かべる。


「そりゃそうだ。それに、夜中の住宅街でお前の姿が見られたら、お前のほうがユーレイに思われるかもしれんぞ」

 俺は笑いながら流した。

「エー! 確かに私はヴァンパイアウイルスがなければ、とっくに死んでいる身デスケド……」

「そうじゃなくてな。日本で深夜に背の低い西洋の女の子が歩いててみろ。幽霊にしか見えんだろ」

「タシカニ?」


 出歩かさせない言い訳だ。

 危ないし、いくら認められた存在だとはいえ、警官に見つかれば職質は免れないし。

 加えて、今日のことでミラカがそこそこ有名だということもハッキリした。

 今のところ日常生活に支障は出ていないが、今後は状況をよく見ておかなければ、よそ様に迷惑をかけることになるだろう。

 ナカムラさんの喫茶店だって、他に客が居なかったからよかったものの……。


「いや、逆か?」

 ミラカが広告塔になったら『ロンリー』もロンリーでなくなるのではないだろうか?

 でも、ナカムラさんは店に閑古鳥が鳴いていることを気にしているのを表に出したことはないような……。

 彼はどう考えているのだろう?


「何がデス?」

「あ、いや、ちょっと考え事してた」

「ソーデスカ。マー、私ひとりで夜中に出歩いたりはシマセン。それより、ハルナさんはいいんデスカネー? 何とかって条例が……」

 ミラカが疑問を呈した。青少年何とか条例。十八歳未満は二十二時以降の外出禁止というヤツだ。

「ダメだな。高校生三年生だと十八歳を超えているかもしれないが、ああいう十八歳未満禁止っていうのは、十八歳でも高校生は一律アウトとされることが多いし」


 とはいえ、俺も高校時代に夜中にコンビニへ行ったことがないとは言わない。

 それに、夜の出歩きは不健全だなんだと言われるが、近所の二十四時間スーパー『レイデルマート』だって、二十二時以降に行くと、塾帰りと思しき子供を見かけることもある。

 学歴が大切なご時世だとはいえ、お勉強御苦労様の上に条例違反だなんてあんまりだ。

 みんなそれぞれ事情がある、ハルナにだって彼女なりに「深夜にコンビニに行きたいだけのワケ」があったのだろう。


「ま、あまりうるさく言ってもな」

 俺はいんじゃないのと肩を竦めた。

「エー、私のときと違う!」

 不満を漏らすミラカ。

「そうだっけか?」

「ソーデス!」

「じゃあ、一貫して扱わないとな。もう二十三時だし寝ような」

 俺は事務所の灯りを落としてソファに寝転がった。

「ノー! まだ眠くないデス!」

 灯りを付け直すミラカ。

「ええ……俺は寝るよ。起きてるんだったら部屋に行けよ」

「扇風機ちゃんはこっちの部屋固定じゃないデスカー」


 扇風機のある事務室は玄関から繋がっており、土足になっている。

 汚れた床で使われた扇風機は他所の部屋への持ち込みは禁止だ。


「イヤだ! この子といっしょにイマス!」

 首を振る扇風機に抱き着くミラカ。

 すると、何の操作もナシに扇風機が止まってしまった。

「アレレ? 扇風機ちゃん? どうしたんデスカ!?」

 ミラカが扇風機を揺する。

「オーバーヒートだな。最近、連続稼働させてると止まるようになったんだ。扇風機ちゃんも今日はもう寝るんだとよ」

 まあ、明日になっても目を醒まさない可能性もあるが。

 扇風機くらいなら数千円で買えるし、次のバイト代が入ったらコイツの部屋にも扇風機を置いてやろう。


「オリャッ!」

 唐突にミラカが扇風機にチョップをかました。

「何してんだ」

「ロシア式修理法です。パパの得意技デシタ!」

 すると扇風機が回転を再開した。自慢げに鼻を鳴らすミラカ。

「おお、直った。ミラカのお父さんってどんな人なんだ?」

 ヴァンパイアのお父さんなんて、ヨーロッパ貴族のナイスミドルなイメージだ。

 物理で殴って修理が十八番なのはちょっと似合わない。


「ウーン? 普通のおじさん? 背は高いデス。中肉中背で……」

「コレといって特徴ナシか」

「そうカモ? ママはいつもパパのことをハンサムって言いますケド」

「そういう夫婦関係は羨ましい限りだな。お母さんはどんな?」

 夫婦仲が良好なら不老不死も苦痛じゃないかもしれない。

「ママは妹みたいな人デスネ。ア~~~~」

 扇風機に向かって口を開けるミラカ。

「言ってる意味が分からんのだが」


「ママは十五のときにヴァンパイアになりマシタ。ヴァンパイアは成長はしますが、老化はシマセン。成長が止まるポイントは個人個人で差がありマス。ママはミラカより背が低いし、声も高いし、めっちゃラブリーデス。知らない人から見ると姉妹に見えマス」


「それって、お母さんのほうが妹に見えるってことだよな」

 ミラカは贔屓目に見ても中学生くらいにしか見えない。

 母親は十五でヴァンパイアになって成長が止まったというなら、見かけの計算が合わなくないか?

 俺はちんちくりんの娘にツッコミを入れたい気持ちを堪える。


「編集長、何か失礼なこと考えてマセン?」

「ノー。アシオそんな事考えてマセーン」

 俺は声色を変えてミラカを真似てやった。


「……」

 ミラカは俺をジト目で見る。

 それから風で乱れて肩に掛かった金髪を払い「ハッ!」と鼻で笑った。


「ところでミラカ、髪伸びたよな」

「ン、ソーデスネ」

 彼女が俺の前に姿を現した時は、髪は肩に掛かる程度だった。

 今は背中にまで垂れている。


「女子ってやたらに美容室に行くが、そんなに髪が伸びるのが早いもんなのか?」

 美容院代もバカにならんな。

「ミラカは二ヶ月で十センチくらい伸びマスヨ」

「それは早いのか遅いのか」

「サア? デモ、そろそろ切らないと暑いデスネ」

「美容院代もけっこう掛かるよなあ。自腹じゃキツイか? 行くなとは言わんが……」

 女子にこれを制限するのはマナー違反どころの話じゃない。だが、カネの話は切実だ。


「そうなんデスカ? ミラカ美容院行ったことがないノデ」

 ミラカは伸びた髪を手で梳かしまとめ、ポニーテールを作って見せる。

「いつもはどうしてたんだ?」

「ママに切ってもらってマシタ」

「なるほどなあ」

 俺もガキンチョの頃は母親にバリカンでバリバリやられていた。


「ママの髪はミラカが切ってあげてマシタヨ」

「はー、お前けっこうなんでもできるよな」

 俺は感嘆の声を上げる。素直に凄い。だてに三百十六年も生きてはいない。


「自分の髪は上手には切れマセンネ。前髪くらいならどうにかなりマスガ」

「そういうもんか」

 俺は人生を通してヘアスタイルというものにあまり頓着がない。


 小学生では坊主で、中高では伸ばすだけ伸ばして近所の散髪屋でおっちゃんに「もっと早く来てよ」と愚痴られる感じで、それ以降もひと月半から二ヶ月くらいのスパンで適当に理髪店に足を運んでいる。

 スタイルがテキトーなら、カラーもずっとナチュラルブラックだ。

 大学の同窓には「自分で切ってみた」だの「ブリーチしてから染めるとどうだ」とか、「前の色のせいで見本と違う」だの年がら年中言ってるヤツが居たが、当時の俺は「女かよ」くらいにしか思っていなかった。


 しかし、この歳になって、もっと髪で遊んでおけばよかったと思うことがある。

 三十過ぎた今さらになってカラフルな髪色にしても、何かをこじらせたヤツにしか見えないだろうが。

 「そういうの」が映えるのは何か一芸以上のものを持ったアーティストとかタレントとか「そういう人種」なんだろうな。


「……チョンマゲ!」

 ミラカは手でまとめた髪を持ち上げて遊んでいる。

「ン~。やっぱり暑いデスネ。髪切った方がいいカナ~。メンドッチーから伸ばそうカナ~」

 チョンマゲから手を離し頭を振るミラカ。石鹸の香りが流れてくる。

「そうだな。もう少し短かいほうが可愛かったな」

 自然に口をついて出た言葉だったが、俺は言ってすぐ後悔する。


「エ? カワイイ? じゃあ、美容院行ってみようカナ~」

 身をくねらせるミラカ。

 コイツは単純な特定ワードに反応する。

 「長いほうがいい」と言えば、美容院代をケチらせることができたのではないだろうか?


「ま、まあ、それはまたおいおい考えればいいじゃないか。さ、今日はもう寝るぞ」

「ンフフ。ハーイ」

 ミラカは上機嫌に返事をした。


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