事件ファイル♯04 今度こそUMAか!? 近所の河原に巨大生物!?(6/6)
数日して雨も落ち着き、いよいよ川さらいを決行することになった。
「よし、雨も降ってないし、今日決行だ」
俺はブラインドから差し込む朝日を見て言った。
ここ最近のグズついた天気がまるでウソのような晴天。
「そうデスカ。サンドウィッチ作るので、持って行ってクダサイ」
ミラカが元気なく言った。とはいえ、これはこれで都合がいい。
「ミラカもいっしょに来るんだよ」
「でも、この天気デハ……」
困惑気味のミラカを放って、俺はなかば倉庫になっている空き部屋から「秘密兵器」を引っ張りだした。
「それはなんデスカ?」
「これは……ピクニック用の日よけパラソルだ。パラソルタープってヤツだな。ここじゃちょっと広げられないが、裏にはきっちり紫外線や日光をカットする加工も施してある。それから、こっちがピクニックシート。ついでに日傘もあるぞ」
総額二万五千円ナリ。このためにわざわざ買ったのだ。
それなりの記事が書ければ元が取れるかもしれない。寝床の“かわりばんこ”も延長だが、もう慣れた。
ピクニック道具を見たミラカは何も言わず、台所へと軽快に駆けて行った。
俺は背伸びをして、腰を叩きながらスマホを手にする。イベントにおあつらえ向きの土曜日だ。
『本日昼前ヨリ作戦決行ナリ』
俺はメッセージを送った。
『行きます。河原で落ち合いましょう』
川口少年は即答。
彼はあらかじめ川を調べる日には連絡をくれと言っていた。この話の大元は彼だから、いの一番に連絡だ。
『今日行くの? じゃあ、お店休業にしちゃおうかな。こちらもお弁当も用意するよ』
ナカムラさんも意外なことに、川の調査に乗り気だった。
雨が止むのを待っているあいだ、この話をしたら若い頃にザリガニ釣りをした話で盛り上がった。
俺は別段、ザリガニが好きな少年だったワケでもないが、小学生の頃に近所の水路に潜んでいたザリガニを釣って遊んだ思い出がある。
割りばしとタコ糸で竿を作って、自宅の冷蔵庫からチクワをくすねて近所の連中と競って釣り合ったもんだ。
ちなみにチクワはほとんど自分の腹に消えた。
ザリガニはちゃんとしたエサでなくとも、木の枝だろうがなんだろうが、とにかくハサミでつかむので釣り上げるのは楽だった。アイツ等はアホだ。
『水曜やったら休みやってんけどな。道具貸したるから今から顔出すわ』
フクシマからもヘルプの申し出がきた。
連絡を終えると荷物をまとめ、テリヤキにエサをやりはじめた。
「お前、少しおっきくなったよなあ」
ヒヨコの成長は思ったより早いらしい。
テリヤキは、見た目はまだまだヒヨコだが、すでに産毛が抜け始め、もう羽根らしきものが生えている。
最近はよく首を伸ばしてあちらこちらを見学して回ったり、跳ねまわったりするようになった。
エサの大根の葉をぶら下げてやると、一所懸命にジャンプして食いつこうとする。
「可愛いヤツめ。たんと食ってデカくなるがいい。おうおう、跳ねてやがる。飼い主に似てお前も食い意地が張ってるな」
俺は飛び跳ねるテリヤキを見て笑った。
「なんや、お前ヒヨコも飼ってんのか?」
唐突に俺の背後から関西弁。
「うおっ、早いな!? 断りもナシに入ってくるなよ! いくらオーナーだからって……」
「いや、ちゃんとインターホン鳴らしたし、ミラカちゃんが出てくれたんやけど……」
「マジか。全然気付かんかった」
「あっちのヒヨコもゴキゲンやな」
フクシマが指さす台所では、金髪頭のてっぺんの跳ねた娘が鼻歌と共にサンドウィッチを仕込んでいる。
「遊ぶのもええけど、ちゃんと家賃払ってや?」
「ああ。まあ、UMAが見つかろうと見つからなかろうと、一応記事にはする」
「そうか。ヒヨコ相手に喋っとったから、また頭イカレたんかと思ったわ」
「なんだ、見てたのか。いや、また、ってなんだ」
「見てたけど、キショかったわ~」
そう言ってフクシマはスマホを見せてきた。
『うひひ、可愛いヤツめ。たんと食ってデカくなるがいい。おうおう……』
段ボールの上で大根の葉をブラブラさせている俺の背中が映っていた。
うひひ、なんて言ったっけか?
「け、消してくれ」
「ははは。まあ、あんま時間ないから消したるわ。釣り用のウェーダーと網持ってきたったから、ミラカちゃんに渡しといたわ」
「そ、そうか。アリガトウな」
いつの間に。俺はそんなにボーっとしてたんだろうか?
「ほんじゃ、バケモン捕まえたら教えてな」
そう言うとフクシマは俺の肩を叩き、早々に引き上げていった。
********
俺たちは河原に集まり、ピクニックシートとパラソルタープを設置して拠点を作った。
「どうだ? これなら大丈夫そうか?」
「ハイ。これならバッチリデス」
ミラカはいつぞやの赤ジャージ姿だ。
彼女はシートの上にお弁当や荷物を置くと、日陰の座り心地を試している。
「調子悪くなったら言えよ」
「ハイ。悪くなる前に休みマス」
「それにしても、意外と静かなもんだな」
「土曜の朝ですからね。今どきの小学生は川遊びをあんまりしませんし」
当の小学生が言う。
土手の上を通る人は少ない。もちろん、他に川遊びをしようとしている者も居ない。
まあ、六月だ。まだそこまで暑くもないし、一応は花火やバーベキューも禁止だし。
「勝手に入っても怒られませんかね?」
川口少年が心配そうに言う。
彼は学校の体操服姿だ。網や未開封のポリ袋の束などの荷物をしっかりと準備していた。
「カワグチ君、そんな苗字しておきながら気にするんじゃない。怒られたら謝ればいいのだ」
俺は笑った。俺も釣り用のウェーダーと、造りのしっかりした網で完全武装だ。
「ふたりともやる気満々だなあ」
ナカムラさんも自前のウェーダー姿に、トングとバケツを持っている。
「マスター、そんなのじゃ、ヌルヌルは捕まえられマセンヨ?」
ミラカが首をかしげる。
「これはね、こうするんだ」
そう言うとナカムラさんは、そのあたりに転がっていたペットボトルのゴミをつかんでバケツに放り込んだ。
「ゴミをちょっとでも拾っておけば、何をしてるのか訊かれても言い訳が立つでしょ? 誰も損しないし、いい考えじゃない?」
「ナルホド。マスターは頭がいいデスネ。謝るだけの編集長とは違いマス」
「なんだよ。お前もナイスアイディアって言ったじゃないか」
「そうデシタっけ?」
ミラカが首をかしげる。
「そうだよ。……っていうか、意外とゴミが多いな」
川の中を見やると、結構な数のゴミが沈んでいる。
「このあたりは流れが緩やかですから、ゴミが溜まりやすいんですよ。昔はこの川でも、ホタルが見れたって学校で習いました」
川口少年が言った。
「ふうん。ホタルも、いつかUMAみたいな扱いになるのかもなあ」
そう言って俺は網で何かのビニールのクズをすくい上げる。
「ミラカも!」
赤ジャージがやってくる。俺は網を渡す。
「ウメデラさんたちが影を見たのって、このあたりなんですか?」
川口少年が訊ねる。
「もうちょい上流だな。雨が降ったし、ヤツも少し下流に移動したかと思って」
「なるほど。さもありなんですね。でも、僕は上流から当たってきますね」
そう言うと川口少年は離れて行った。
「僕も彼といっしょに行ってこようかな。ときどき深いところもあるし」
ナカムラさんが申し出てくれ、お願いする。
カワグチ君はしっかりしているが、やはり他人様のウチの子供で、小学生だ。
ひとりで作業をさせるのはやはり少し心配だ。
保護者ふたりに子供ふたり。ナカムラさんが来たのには、これを気にしてのことも含まれている。
「バケモノは見当たりマセンネー」
麦わら帽子の娘は川の縁から網を泳がせて遊んでいる。
「ゴミが取れます。川にゴミを捨てるなんてとんでもないデスネ!」
それから彼女はゴミを摘まみ上げると顔をしかめた。
「あの場所もあまり深くなかったよなあ。今は水も綺麗だし、見たところ何も居ないなって、うお!?」
俺が川の中をうろついていると、スネに何かがぶつかった。
「ウオ……ってダジャレデス?」
ミラカは川のゴミをポリ袋入れると、ゴミを見るのと同じ顔で俺を見た。
俺の足元には魚。
フナだろうか? 二、三十センチはある。
「でかい魚だな。初めて見た」
「でも、バケモノじゃないデスネ」
「そうだな。あの影はこんな感じじゃなかったな」
「アッ、見てクダサイ!」
ミラカは川の端で何かを見つけたようで、それを網の先で突っついている。
「何を見つけたんだ?」
「カメです!」
そう言ってミラカはカメをつつき続けている。
「イジメちゃダメだぞ」
俺は浦島太郎か。
カメは迷惑そうに顔を甲羅に引っ込めていた。
「ヨシ、捕まえマス!」
網ですくおうとするミラカ。
「いや、カメ捕まえてどうすんだ。カメは飼わんぞ」
「ミラカ、カメは初めて見マシタ!」
「アイルランドにカメは居ないのか」
「そうかもデス。やっぱり捕まえて観察シマショ」
「俺もそのカメは見覚えがないな。なんか甲羅の模様がぼやけてる」
俺は捕獲を手伝うためにカメに近づいた。
すると、カメは急に顔を出すと俺の方に向き直り、ウェーダーの上から噛みついてきた。
「うおっ! ビックリした……」
カメはひと噛みすると、下流の方へ逃げ、土煙と共に水底に姿を消していってしまった。
「カメも噛むんデスネ。ミラカもビックリシマシタ……」
さて、ちょっとしたハプニングはあったものの、作業はほとんどゴミ拾いと化していた。
ミラカも飽きてしまったらしく、パラソルの下で本を開いて、一足早くサンドウィッチをかじっている。
「うーん。やっぱりもっと下流に行ったかなあ」
あまり下流へ行くと川幅が広がってしまう。そうなるとさすがに捜索しきれない。
俺はぼんやりと下流を眺める。カモが泳いで水中に頭を突っ込んだりしている。
「自然も意外とあるもんだな」
川を漁っていて出遭った生物は意外と多い。
カメにカエルに、カモに、アヒル。
それからサギのような大きい鳥。魚は色んな種類を見た。
フナに、何やらまぬけな顔をした魚に、それからなんとウナギだ。
ウナギを見た時はさすがに驚いた。他にも小さい甲殻類と思しき生物がちらほら。
「ウメデラ君。休憩にしようよー」
ナカムラさんとカワグチ君が戻ってくる。
俺たちは昼食にしながら、互いの成果を発表しあった。
「ウナギが居たんだ」
「ウナギ!」
ナカムラさんが声を上げる。
俺はスマホに収めた画像を披露する。
「へえ、驚いたなあ。野生のウナギって、もっと綺麗な山奥の川に棲んでるイメージだったよ」
「俺もです。カワグチ君は何か見つけた?」
「いいえ。ウシガエルと魚はいっぱい見ましたけど」
「そうか。でも、これだけ生き物がいるとなると、ちょっとくらい変わったモンがいても不思議じゃないな」
「ですね。夏休みの自由研究に使おうかなあ」
「おにぎり美味しいデス」
俺たちの発表会をよそに、ミラカは終始口を動かしている。
ナカムラさんやカワグチ君の持ってきたお弁当なども合わせて、四人分にしては多すぎるくらいのサンドウィッチやおにぎりがあったが、彼女はそれを全体の半分以上は食べていた。
「ミラカちゃんは何か面白い物を見つけた?」
ナカムラさんが訊ねる。
「ミラカはカメを見つけマシタ。編集長をガブッって噛んでマシタ」
「あれはちょっと驚いたな」
「編集長、ずっと川の中で、うおっとか、うわっとか言って楽しそうデシタヨ」
余計なことは言わんでいい。
「カミツキガメかもしれませんね。外来種です」
川口少年はメガネを押し上げると、スマホで画像を検索してみせた。
画面にはさっきのヤツにそっくりなカメ。
「おーおー。コイツだ。そんな名前してんだ、噛みつくハズだよ」
「テレビでは噛まれると大変だって言ってましたね」
「そうか? 割と大したことなかったが……」
「手加減してくれたのかもしれマセン」
「そいつはありがたいこった」
昼食も済み、午後からもうひと踏ん張りだ。
今度はもう少しだけ下流に拠点を移し、広い範囲の捜索をおこなった。
……が、成果はナシ。
「ぱっと見で、巨大生物いないのは分かるがなあ」
「あったのは巨大なゴミだけでしたね」
河原には引き上げられた自転車が二台。
「誰が落としたんデショウ?」
ミラカが首をかしげる。
「盗んだ自転車の処理か、いらなくなって捨てたんだろうな」
「心無い人が居るもんデスネ」
ミラカは腕を組んで渋い顔をした。
「あ、この前の外人だ」
土手のほうから子供たちがやってくる。
いつぞやテリヤキを散歩させたときに会ったガキンチョABCだ。
「ゴミ拾いしてんの?」
一番生意気な少年Bがミラカに訊ねた。
「フフン、聞いて驚かないでクダサイ。私たちは、謎の生物を追っているのデス!」
パラソルの下で本を読んでいた娘が胸を張る。
「ウソだあ。ゴミ拾いじゃん?」
Bは笑って俺たちの引き上げたゴミを指さす。
おまけ程度に集めていたが、それなりの量になってしまっていた。
「いいことじゃん」Aが言う。
「えらいデショー!」ミラカが再び胸を張った。
「お前はそこで本を読んで食ってるばかりだろう」
「だって、飽きたんダモーン。みんなは何してたんデス? ゲーム?」
「今日は図書館行った。アイツが行こうって言うから」
BがCを指さす。彼らはめいめい、大きなカバンを持っていたり、ずり落ちたナップサックを背負っていたりする。
「読書はいいことデス。たくさん読んで賢くなりマショー」
「オマエはアホそうだけど」Bが笑う。
「うわ、英語の本だ」Aがミラカの本を覗き込んで驚く。
「すげえ……」
Bも覗き込み、笑うのをやめた。
まあ、英語といっても魔法少年ハラヘリポッチャリーシリーズなんだが。
「……ねえ、今何か居たよ」
Cは川のほうを見て目を凝らしている。
「ん、何かって? どの辺だ?」
俺は川の中を見渡す。
「あっちのほう。あの草がいっぱい生えてるところに見えた」
中州というほどではないが、草が密集して生えて島のようになっている地形だ。
そこにはゴミがたくさん引っ掛かっていたので、目に付くゴミの掃除だけはした。
「そういや、草の中までは探してないな」
俺とナカムラさんが川を渡り、草むらに足を踏み入れる。
「なんだ? かたまりが……」
何かがある。巨大な少し土色がかったかたまり。
「見た感じは岩だが」
俺はよく分からない物体を網でつついた。弾力がある。
「げぇ、ヘドロかなんかか?」
すると、その物体はノロノロと動き始めた。
「動いたぞ! カメラカメラ!」
俺はスマホでその生物の撮影を始める。
「ウメデラ君! その生き物をつついたらダメだよ!」
ナカムラさんが声を上げた。何やら慌てた様子だ。
「何ですか? 毒でも?」
「違うよ! それは……」
謎の生物は一メートルはゆうにあろう巨体で、全身がイボに覆われヌメっている。
大きな尾ビレと控えめな手足、それと潰れた顔。
つまりはトカゲをブサイクにしたようなルックス。
ソイツはゆっくりと草むらから這い出てくると、大きなあくびをした。
「オオサンショウウオだ!」
川口少年も慌てて撮影を始めた。
「特別天然記念物だよ。驚いたなあ」
ナカムラさんまでがスマホを回し始める。
「ギャーー! でかいヌメヌメ! アイツデス! キショイ!」
ミラカはそっぽを向いた。
「すっげー!」「でけー!」子供たちも川辺に集まってくる。
「ギャーー! こっちに来マシタ!」
天然記念物は警戒心が薄いのかサービス精神が旺盛なのか、ゆったりと泳ぐと岸辺にあがり、少し歩いてからまた大きなあくびをした。
「すっげえ、こっち来た。なにこれトカゲ?」
「恐竜みたい」
子供たちも興味津々だ。
「よ、よし。逃げないってんなら、今のうちに写真をたくさん撮ろう」
俺たちはオオサンショウウオを囲んで撮影会を始める。
周りで人間がギャーギャー騒いでも、スマホを近づけて撮影しても文句ひとつ言わない。
ずいぶんと肝の据わった野生生物だ。
「オオサンショウウオは七十年以上生きることもあるそうです。野生ではここまで大きくなるのは稀だそうですけど……」
川口少年はスマホのアプリを使って長さを測定している。
「すごい! 一メートル四十五センチもありますよ!」
「ヤダー! 私と同じくらいアリマス!」
「おい、ミラカもこっちに来い。一枚ぐらい、いっしょに撮影しようぜ」
「ヤダー! ヤダー!」
「助手だろー。俺のサイトは可愛いお前の写真も人気なんだから」
俺は嫌がる娘をおだてる。
実際、彼女の写真の有無は記事の人気度に直結すると言ってもいい。
「ウッ、可愛い……。でも、ヌルヌル……。ウッ、ウッ……」
眉をひそめて拠点とオオサンショウウオのあいだをうろうろするミラカ。
「仕方ないですね。ミラカさんがイヤだって言うなら、僕が代わりに……」
川口少年は手櫛で髪の毛を整えると、オオサンショウウオの横にしゃがみ込む。
「いいねー、少年。いいよいいよー」
俺はそれを撮りまくった。
「ウググ、じゃあミラカも……」
少年に触発されて、ミラカがようやくサンショウウオに近づく。
「うわ、すごい顔だな……」
ミラカの顔はいまだかつてないほどの不快感を表現している。
「ミラカちゃん、そんな顔じゃ可愛くないよー」
ナカムラさんが笑う。
「そうだぞ。バーガー・シングの店員さんみたいにスマイルだ」
俺はほぼ変顔の領域に足を踏み入れている顔を何枚か写真に収めた。
これはこれで需要があるかもしれない。
「ウ、ウググ……ニ、ニコッ」
口でそうは言っても顔は半分しか笑っていない。
明らかな作り笑いでおもしろい。
俺たちがひとしきり撮影をすると、オオサンショウウオは再び口の奥を見せてから水の中へと帰って行った。
「いや、驚いたな。本当にあんな生き物が居たなんて」
「UMAじゃなかったデスネ」
「そうだなあ。でも、普段見ないものが、いっぱい見れたな」
「楽しかったデスカ?」
ミラカが訊ねる。
「ああ、楽しかった」
「ソウデスカ」
半分以上はパラソルの下に居た娘もニコニコだ。
いつもは横を通り過ぎるだけの河原だが、近くで見てみると多くのものが見えてくる。
遠い宇宙や深海に想いを馳せるよりも、思いのほかこういった近所のほうが、不思議な発見があるのかもしれない。
「あっ、カメだ」
「見て見て見て! デカいカエル!」
「あれ、海モンのヤツに似てね?」
「逆でしょ」
子供たちの声だ。
近年、子供たちの遊び場や、身近な自然が消えつつあるという。
しかしそれは、俺たち大人の勘違いで、単純に遊びかたの提示ができなかったり、危険や環境破壊のほうにばかり気を取られているのが原因なのではないだろうか?
無いものや悪いものばかりを探して見つめるよりも、今ここにあるものにも、もっとよく目を向けてみるのも大切なことかもしれない。
俺は、河原の流れを追う少年たちを眺めながら、そんなことを考えたのだった。
********




