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事件ファイル♯04 今度こそUMAか!? 近所の河原に巨大生物!?(2/6)

 事件が起こったのはその翌日だ。

 なんと! 川口少年が川で発見したのはカエルではなく、フロッグ・モンスターだったのだ! ……なんてことはモチロンない。

 そして、事件は河原ではなく、我らがオカルト調査事務所の中で起こったのだ。


「ネーネー、ヘンシューチョー、B・T行きマショー、B・T」

 昼飯を食ったばかりのミラカが俺におねだりをする。

「昨日食べたばかりじゃないか。しかも、今どんだけ昼飯を食べたと思ってるんだ。食べるなら食パンでもかじってろ」


 大食いにはツッコミを入れないと言ったが、アレは撤回だ。

 ミラカは俺と同じだけのインスタントの食事に加えて、炊き込みご飯の残りも平らげたうえでこの発言をした。

 単に量が足りないだけというならまだしも、コスパの悪いファストフードも食いたがるのはいただけない。


「炊き込みご飯が薄味だったのがイケマセン。味の濃いものが欲しくなっちゃったのデス。アー、塩味が恋しい。恋しいナー?」

 すり寄ってくるミラカ。

「塩でも舐めてろ。この前買った岩塩があっただろ。それに俺は腹がいっぱいだ」

「エー。じゃあ独りで行きマス」

 合羽を羽織るミラカ。今日も雨だ。

「やめとけ。B・Tも安くないだろ。いくら収入があるといっても、毎日ファストフードなんてを食ってるとすぐに金が尽きるぞ」

「ミラカが働いて稼いだお金デス! 私がどうしようと勝手デス!」

 がま口サイフを振ってチャリチャリ音を鳴らすミラカ。


「へっ、家庭教師代で貰ったお金と俺のバイトの給料も合わせれば、総額は俺のほうが上だぞ」

 大食いのちんちくりんを見て鼻で笑う。

「生活費は折半だし。同居人にはもっと気を遣うべきだな」


 ミラカは少し考えると「ウー」と唸って、それから手を差し出した。


「なんだ、その手は。和解の印か?」

 差しだされた手を取り、握手をしてやる。

「イエ、折半なのでB・T代の半分を……」


 俺は握った手を離して金髪娘の頭をひっぱたいた。


「イテッ!」


 ピヨッ。


「何がピヨッだ。給料が入る前の極貧生活をもう忘れたのか。トリ頭かお前は」


 先月に金が尽きかけていたときは危なかったのだ。

 ……おもに俺が。

 日光でひっくり返ったミラカを見てからというもの、俺は彼女の健康管理に気をつかっていた。

 ヴァンパイア設定がどのくらいの栄養を必要とするかは分からないが、カロリーに関しては多めに摂らせている。

 単純にカロリーを稼ぐのならそう金は掛からんのだが、やはり彼女も人間だ。

 業務用の油を注いだら済むという話じゃない。

 ちゃんとしたものを食わせるために、俺の食費を削ってしのぐことにしたのだ。

 まあ、おかげで体重が落ち、去年の飲酒生活で溜め込んだものも大分スッキリしたが。


「ウー……じゃあ我慢シマス。その代わり明日は……」

「明日もダメ! 次にカネが入るまで節約だ」

「エー! いつになるか分からないじゃないデスカ!」

 まあ、直近で日雇いのバイトが一件入っているのだが、ここは黙っておこう。


 ピヨッ。


「ピヨッじゃない!」

 俺はミラカの頭をまたひっぱたいた。

「編集長のウンコ! 女の子をぶつなんていけマセン!」

 叩かれたせいで金髪の一部が跳ね上がってヒヨコのようになる。

「三百十六歳なんだろう? 普段は子供扱いするなって言うクセに。大人ならちゃんと我慢するもんだ」

「ウー! 大人でもレディをぶつべきじゃないデス!」

「ピヨピヨ言うんじゃありません!」

「ピヨピヨ言ってマセン!」


 ピヨッ。


「……言ってるじゃないか」

「……言ってマスネ」

 俺たちは音の聞こえたほうを見た。ニシクロヤマ村から届いた段ボールだ。


 ピヨッ。


「何か居るぞ」

「UMAデショーカ?」

 ミラカは俺の後ろに隠れた。

「アホか。どう考えてもヒヨコの鳴き声だ」

「デスヨネ。でも、何故?」


 ピヨッ。


「また聞こえた」

 声のぬしは俺たちに、自身の居場所を知らせるかのように何度も鳴いている。

 ふたりそろって箱を覗き込むとそこには……。


 ヒヨコが居た。


「わあ……。ヒヨコちゃんデス!」

 瞳を輝かせるミラカ。

「そうだな。ヒヨコだな」

 段ボールの隅には黄色くてふわふわの生き物が居た。どこからどう見てもヒヨコだ。


「贈り物に卵もありましたケド……」

 ミラカは段ボールから卵の入ったカゴを取り出す。

「どれも割れてないな。毛並みも綺麗だし、昨日今日生まれたヤツじゃないぞ」

「紛れ込んだのデショーカ?」

 指先でヒヨコを撫でるミラカ。ヒヨコは小さく震えている。

「だとしたら、返したほうがいいか?」

「エー。ミラカ、この子を育てたいデス!」

「ダメだ。有名な品種のヒヨコとかだったら怒られるぞ」


「イヤだ! 育てマス!」

 ミラカがヒヨコを両手ですくい上げる。


「人間様の食事にすら窮しかねないってのに。とりあえず連絡だ」

 俺はニシクロヤマ村の観光ページに問い合わせのメッセージを打とうとした。


「おりゃっ!」

 ミラカは勢いよくノートパソコンの電源ケーブルを引っこ抜く。


「こらっ! 内部バッテリーあるから別にパソコン止まらんけど、やめてくれ」


「育てマス!」

 ヒヨコを頭に乗っけて言うミラカ。


「育てません!」 

 俺は言い返す。


「ウー……育てろ!」

 ミラカはキバを出して俺に向かって唸ると、指を突き出し叫んだ。

 それからくるりと反転して、頭の上にヒヨコを乗せたまま事務所を飛び出していった。


「アホかアイツは……」

 ヒヨコ娘の後ろ姿を見送りながらため息をつく。


 観光ページからの返信はすぐにきた。


『ヒヨコは入れていない。

 紛れたのかもしれないが、大したモンでもないし、送り返してもらうほどのモンでもない。

 まあ、煮るなり焼くなり好きにしてくれ……とのことです。

 あと、タケノコは季節を外して生えてきて気味が悪かったから送ったけど、食べてみてヘンだったら食べなくていいそうです。

 もし、食べるなら早くしないと灰汁が強くなるので気を付けてくれ、だそうです。


 ニシクロヤマ村観光課フジタツボミ


 P.S あの日は酔っぱらってご迷惑をかけてしまい、申し訳ありませんでした。』


 どうやら返信をくれたのは土産物屋のねーちゃんらしい。

 伝言内容の適当さ加減からはおっちゃんが想像される。

 俺は村の人々を思い出して口元を緩めた。


『ありがとうございます。タケノコは炊き込みご飯にして食べましたが大丈夫でした。美味しかったです。

 ヒヨコは煮るなり焼くなり好きにします。またそちらに遊びに行きます』


 返事をしておく。


 さて、ヒヨコなんてどうやって飼えばいいんだろうか?

 本当は面倒だから、先方に「返してくれ」と言われることを期待してメッセージを打ったのだが、アテが外れてしまった。

 こうなっては仕方がない。

 ヒヨコの処遇もあるし、ああなったミラカを説得するのはほぼ不可能だろうから、俺はヒヨコを飼う方向で考えを進めることにした。


「いまいち分らんな。ペットなんて飼ったことないし」

 俺が飼ったことがあるのはゴキ……ケネス君くらいのものだ。

 ミラカがかき集めて缶に詰めたケネス君たちは、こっそりと繁華街に放っておいた。


 ノートパソコンの前で首を捻っていると、スマホにメッセージが届いた。


『調査結果の報告』

 川口少年はどうやら“ウシガエル”に辿り着いたらしい。

 大きなカエルの写真と、鳴き声付きの動画が送られてきた。

 謎の声の正体は残念な結果に終わったが、報告書代わりのメールはけっこう真面目に作り込まれていた。


 このくらいの出来なら、このままサイトに載せてやってもいいかもしれない。

 もっとも、「正体はウシガエルでした」じゃ記事として弱すぎるから他の要素とも併せたいところだ。

 食用ガエルやザリガニの話も交えて、何か生態系について話を広げれば記事らしい記事になるか?


 俺が川口少年の努力をなんとか記事に昇華できないかと頭をひねっていると、ヒヨコ娘が早々に戻ってきた。


「ヘ、編集長! 大変デス。ヒヨコがバケモノで震えてるんデスヨ!」

 ミラカは乱暴に扉を開けて駆け込んでくると、玄関の扉も閉めないで俺の前で騒ぎ立て始めた。


「なんだ? ヒヨコがバケモノ?」

「エ? ああ、違いマス。ヒヨコが震えてるんデス!」

 ミラカはヒヨコを差し出す。

 黄色い毛玉はブルブル震えている。さっきの小さな震えとは明らかに違う。


「当り前だ。雨の中外に連れ出したりなんかして。温めてエサでもやりゃいいだろ。とりあえず、段ボールと、おが屑とかで温めてやれば」


「……飼ってもイイノ?」

 翡翠の瞳を震わせながら俺の目をまっすぐに見つめるミラカ。


「ああ。ニシクロヤマ村の人も、よく分からんから返さなくていいとさ」

 俺は目をそらしながら言った。


「ヤッター! ヨーシ、ではちょっと出かけて来マス!」

 ミラカはそう言うとヒヨコを頭に乗せて回れ右をした。

 彼女がターンをすると、髪の香りに混じって、なんだかウマそうなニオイが俺の鼻をついた。


「おい、待て。ヒヨコをまた寒い所に連れていくな。っていうか、その袋は何だ」

 俺はミラカが小脇に抱えている紙袋を指さす。


「こ、これはヒヨコちゃんを温めてあげようと思って買った熱源体……」

 ミラカは紙袋を抱えて後ずさる。

 俺はミラカが下がった分距離を詰めて鼻を鳴らした。


「テリヤキチキンバーガー」

「な、何のことカシラ?」

 ミラカが一歩後ずさる。

「シングポテト」

 俺も一歩詰めて、ミラカの鼻先に顔をズイと近づける。

「ヒヨコちゃん温めなくッチャ」

 そっぽを向くミラカ。

「宇宙人のパンケーキ、脳みそメロンソース」

 回り込む俺。

「残念。イチゴソースのほうデス」

 にへらと笑うミラカ。

「どさくさに紛れてB・T買ってきやがったな」

「ナゲットもアリマース。一個要りマス?」

 スマイルと共に首をかしげるミラカ。

「要らん!」

 俺は紙袋をひったくり持ち上げた。

「アーッ! コーヒーがこぼれます!」

 手を伸ばしジャンプするミラカ。頭の上でヒヨコが悲しそうに鳴いた。

「ヒヨコを乗せたまま跳ねるな」

「B・T返してクダサイ! なんでもしますカラ!」

 必死に懇願するジャンクフード娘。

「だったら、まずはヒヨコをどうにかしてやれ。飼いたいって言ったのはお前なんだぞ。温めて寝床とエサの用意!」

「エー。せっかく買ったB・T冷めちゃいマスヨ!」

「ヒヨコが永久に冷たくなるぞ!」

 ミラカはめんどくさそうに頭のヒヨコを紙袋の中に入れた。

「食べ物といっしょにするな!」

「でもここ、暖かいデスシー」


「……ドア開けたまま何を騒いでるの?」

 玄関の方から声がした。

 覗き込んでいるのはメガネを掛けた優し気なおじ……おにいさん。


「あ、ナカムラさん。うるさくしてスミマセン」

 俺はミラカの頭を軽くひっぱたいてから頭を下げた。

「いや、仲良くやってるようで何よりだよ。それより、ウチに君たちのお客さんが来てるよ」

「そうだった。忘れてた」

 俺はちらとスマホに目をやると、カワグチ君からメッセージが来ている事に気付いた。


『ロンリー』に顔を出すと、お客が一名様。もちろん川口少年だ。


「雨の中呼び出してスマンな」

「どうせ暇でしたから。ウメデラさん、報告書は読んでくれました?」

「おう、読んだ読んだ。けっこう出来がよかった。っていうか返事もしただろ」


「僕に何の用ですか?」

 訊ねる彼は褒められて嬉しそうだ。


「そうそう。優秀なキミの力を借りたくてな」

「声の正体はウシガエルでしたけど……」


「それとはまた、別件なんだ」

 俺は紙袋からポテトを探り出すジャガイモ娘を指さした。


「ミラカ、さっき入れたヤツを……。あっ。ナカムラさん。ここでヒヨコ出しても平気ですか?」

 俺は今さらながら、喫茶店のマスターであるナカムラさんに断りを入れる。


「ヒヨコ? いいよ。他にお客さんも居ないし。ヒヨコでも吸血鬼でもどうぞ」

 ナカムラさんは苦笑する。


「スンマセン。キリマンジャロと……カワグチ君も好きなの頼んでいいぞ」

「ありがとうございます。僕もキリマンジャロで」

 川口少年はメガネをクイッとやった。


「じゃ、出しマスヨー」

 ミラカがテーブルの上にテリヤキバーガーの包みとパンケーキの包みを並べた。

 その上にはヒヨコ。

 今はピヨピヨと言っていないが、落ち着いた様子で首を動かしている。

 少しは温まったらしい。


「ヒヨコだ。可愛いですね。学校の飼育小屋にもニワトリが居ますよ」

「そうだろうと思った。急な話なんだが、ウチでこのヒヨコを飼うことになってな。それで、学校ではヒヨコの世話とか、どうしてるのか聞きたくてな」

「飼育係じゃないんで、あんまり詳しくないですよ。友達に聞きます? あー、でも、アイツはスマホ持ってなかったな……」

 川口少年はスマホを取り出すが手を止める。


「それなら、僕がアドバイスできるかも」

 カウンターからナカムラさんの声。


「え? ナカムラさんが?」

「昔、ニワトリを飼ってたことがあるし、ヒナを孵したこともあるよ」

 ナカムラさんがコーヒーを注ぎながら言う。


「へー。意外ですね」

 俺はナカムラさんのことをあまり知らない。

 喫茶店がオープンしたのは俺がここに越してから少しあとのことで、付き合い自体はけっこう長い。

 だが、彼は自分の昔のことをあまりしゃべるタイプではなかった。

 本人も喫茶店のマスターらしく、コーヒーのうんちく以外では、聴き手のほうが好きだと言っている。


 知っているのは人柄がいいのに独身なことと、メガネを掛けていること、それと旅行好きなことくらいだ。

 ちなみに、『ロンリー』の壁に飾られているおみやげと称して旅行先から持ち帰られた奇妙な品々も、俺が訊ねでもしなければ、その由来が語られることは無い。


「くず野菜もあるし、ちょっとエサを支度してあげるよ」

「さすがマスター! 頼りになりマス!」

 ポテトをかじりながら言うミラカ。


「あれ? じゃあ、僕が来た意味は……」

 川口少年がつぶやいた。

「そうそう。ヒヨコの件も実はおまけだ。わざわざ呼び出したのは、“こっち”がメインなんだ」

 俺は一冊の真新しい分厚い本を取り出した。

「それは“近代怪奇現象大辞典”!」

 目を輝かす少年。

「その通り。今回の調査は残念な結果に終わったが、報告書は面白かったし、報酬としてこの本を進呈しよう」

「いいんですか!? やったー! ありがとうございます!」

 川口少年は普段のちょっと気取った態度を崩して、子供らしく喜んだ。


 近年、世間でオカルトブームが再燃している。

 ……といっても、マッチの火ほどのものだが。


 大規模掲示板にまとめられた都市伝説がマンガ作品に昇華したり、動画投稿者が肝試しやホラーゲームを実況配信したりなんかが影響しているのだろう。

 そういった時流もあってか、紙の本もいい感じにまとめられたものが増えてきている。

 ちなみに、自分の分も含めて五〇〇〇円なり。結構、いい値がする。


「嬉しいなあ……。あっ、“赤い部屋”のことも載ってる!」

 さっそく楽しそうにページをめくる少年。

 俺もカワグチ君くらいの歳にこういう本を貰ったら、きっと同じように喜んだだろう。


 正直、報告書うんぬんはただの方便だ。

 誰かさんのせいで、子供の喜ぶ顔を見るのが癖になったってわけだな、うん。


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