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事件ファイル♯16  ケベスさん現る!? 廃屋の秘密を暴け!(6/6)

 廃アパートは木造ニ階建て。

 壁の色は元は白系だったのだろうが、今はあっちこっちに黒が侵食。

 一部は地面から伸びた植物のツルが覆いつくしていた。

 一階部分の緑に覆われていないスペースはスプレーの落書きがいくつも重ねられている。

 よく見ると、ニ階の外壁にまでアルファベットが書かれている。どうやったんだ?


 窓には雨戸。

 一部の窓は戸板を失っており、割れたガラスが露出している。

 ベランダは赤茶けた金属の棒のみ。


 敷地内には伸び放題の草、朽ちたトタン板にゴミの数々。

 ゴミは単なるポイ捨てだけでないようで、今となっては旧式のブラウン管テレビや、工業用の一斗缶、黒ゴミ袋に自転車の車輪などがあり、それらは土や草と半ば同化していた。


「ゴミ捨て場じゃないんだから……」

 背後でハルナの声。


「危ないから待ってろって」

 振り返るとゴミを前に腰に手を当てているハルナの姿。

 ヒロシ君もくっ付いてきている。


「なんで? 早く行くぞとか来るなとか言っちゃって」


「中に誰か居るらしいし」


「居てもいいじゃん別に。女の人の声がするってゆってたけど、センパイもしかして、やらしーこと考えてる?」

 ハルナが意地悪くニヤける。


「考えてる。それも物騒なほうで」

 俺は真顔で返す。


「ナイナイ。センパイは事件に巻き込まれ過ぎて、心配性になってるんすよ」

 ハルナは鼻を鳴らして否定した。

 コイツの言う通りかもしれない。とはいえ、声を聞いたというヒロシ君は黙り込んだままだ。


「ギャハハハハ!」「おい、声がデカいって」

 中から笑い声があがった。

 ハルナとヒロシ君がビクリとニ階を見上げ、そろって生唾を飲み込むふたり。


 中で何がおこなわれているにしろ、ここまで来て引き下がる気もない。

 俺は忍び足で建物に近づき、サビた階段を一段一段と注意深く踏んでいく。


 ときおり聞こえてくる男の話し声。声のするニ階の一室へと近づくと、声の主は若い男と子供っぽい声だということが分かった。

 ドアはどの部屋もご丁寧にぶっ壊されている。ほとんどの部屋は荒れ放題。見たところワンルームだ。

 男たちの居ると思われる部屋の前まで進み、うしろを振り返る。きっちりついてきている姉弟。

 ヒロシ君は、眉を上げて口を半開きにしていた。


 それから、鼻をひくつかせて……。


「へっくしょん!」


 大きな声でくしゃみをしてしまった。

 部屋の中からドタバタと慌ただしい物音。


「ちょっとヒロシ!」

 ノーマルな声量で叱るハルナ。


「来ルナアーーーー!」

 中から絶叫。またも姉弟は肩を弾ませた。


「我ハ、ケベス。近ヅクワラベノ魂ヲ喰ラウ者……。子供ハタチサレ!」


 なんか、“ケベスさん”がめっちゃ声色を変えて叫んでいる。

 ちょっと裏返ったような懐かしい声。俺にもあんな声になった時期があったなあ。


「セ、センパイ。逃げましょう!」「あわわわ」

 焦るふたり。


「タチサレ……タチサレ……」「うぉおぉぉぉおん~~」

 うめき声も追加された。

 ふたりでやってるのか。うめき声のほうは声が高い。


「いや、むしろ向こうが逃げるんじゃないかな」

 俺はもう、この件についておおよその答えが分かった。

 制止する姉弟を無視して、壊れて開きっぱなしの玄関に堂々と姿を現してやった。


「やべっ! 大人だ!」「逃げろ!」

 バタバタと忙しく駆けて行くふたりの人影。

 半ば俺に衝突するように強引に部屋を出て、一目散に逃げて行った。俺は共同廊下から少年たちの姿を見送る。


「なっ、何? ってゆうか誰? ケベスさんは?」

 ハルナが視線を走り去る少年たちと俺のあいだで忙しくさせ、声をあげた。


「アイツらがケベスさんだな。そんで、宝ってのは……」

 俺は部屋の奥へと踏み入る。

 この部屋はそこそこ綺麗に片づけられており、新しいコンビニの袋や空きペットボトル、それから雑誌の類が置かれていた。


「何これ? 誰か住んでたの?」

 ハルナも部屋へと入って来て、見回す。それから雑誌に気づくと、手に取って。


「ちょっと! これ!」

 怒気を孕んだ声とともに雑誌を投げ捨てる。

 床に落ちた雑誌のページが開き、“肌色のまぐわい”があらわになった。


「女子高生であるハルナさんもご存じのようですね。それは、“エロ本”というものだ」

 俺は打ち棄てられた本をビシリと指さし言った。


「見たら分かるよ! って、これ全部そうじゃん!」

 床に所狭しと散らかっているのは、どこから集めて来たのか大量のエロ本とグラビア雑誌だ。

 お宝の山には何人もの古今東西の裸の女たちが潜んで居ることだろう。


 その多くは、水分を吸ったり乾燥したりを繰り返してページがくっ付いたり、バリバリに固まったりしている。

 見るからに新しいものも何冊かあるが、それは普通の漫画雑誌だ。

 もっとも、表紙はグラビアアイドルで、ちょっとした写真集のページのあるものだが。


「あっ、見たことない漫画がある。可愛い絵」


 ハルナが一冊の漫画雑誌を拾い上げる。

 俺はひと目でそれが何か分かったが、あえて彼女に注意をしなかった。


「うっそ! マジで!? これもやらしい奴じゃん! ホント男ってサイテー……ってコラ! ヒロシ! アンタも読まないの!」

 メガネの少年のアタマを平手で叩くハルナ。


 ヒロシ君が手にした雑誌のページには、牛のようなお乳を持ったおねーさんが靴下とメガネ以外何も身に着けていない状態で寝そべっている写真がデカデカと掲載されていた。


「そういう漫画には、意外とストーリーが面白いヤツもあるぞ」

 俺はエロ漫画初心者にアドバイスしてやる。


「センパイッ!」

 俺も叩かれる。


「まー、要するにだ。ここは男子中学生の秘密基地……というよりはお宝置き場だ。ケベスさんのウワサは、他に寄って来た子供を追っ払うために作って流したってトコロだな」


 俺はハルナが捨てた雑誌やヒロシ君が取り落とした雑誌を、他の雑誌とともに丁寧に一か所にまとめた。


「サイテー。……っていうか、大分県の祭りがどうのっていうのは?」


「んー。偶然の一致だろうな。ケベスは単なる“スケベ”のアナグラムだ」

「じゃあ、ウメデラさんが最初に推理した説が当たってたってことですか?」


 ヒロシ君が言った。それからくしゃみ。


「そういうことだな……お、いかんな」


 俺は食べかけのお菓子と共に置きっぱなしになっているスマホに気付いた。


「忘れ物だ」

 失礼して中身を拝見。

 保存された動画には画質の悪いエロ動画。ヒロシ君が聞いた女の人の声の正体はこれか。


「スマホの忘れ物を取りに来たいだろうから、さっさと帰るか」

「えー。全部焼き払いましょうよ。エロ男子マジアリエンティ」

「ハルナ、お前十八にもなってそんなこと言うなよな。結婚もできる歳なんだぞ」

「ウーン、全然イメージ湧かない。ほかの学校だとデキちゃった子の話とか聞くんすけど……」

「そういうのは地域差や個人差があるからな。ま、若いうちからほどほどに触れとくのが健全なの」


「そうですよね」

 そう言って川口少年は一冊の雑誌を再び手に取った。


「パクって帰るのはダメ」

 俺はヒロシ君をたしなめる。

 彼は雑誌を元の位置に戻したが、視線は終始表紙にクギ付けだ。

 そんなもん持って帰ってもハルナに捨てられるだろ。


「さ、帰るぞ。アイツらが戻って来れなくて困ってるだろ」

「別にいいっしょ。天罰っすよ天罰」

「そんなことばっかり言うな。お前もスマホの置き忘れは不安だろが」


「あー……そっすねー」

 ようやく納得するイマドキの女子高生。


 俺たちがアパートを出ると、遠巻きにさっきの少年たちがこっちを見て立っているのが見えた。


「もうちょっとこう、隠れるとかしないのか」

 

 苦笑する。きっと彼らは今、生きてきた中でいちばんビビっているだろうな。

 ま、コトが無事に済めば将来笑い話になるだろうし、勘弁してくれ。


「アイツらの前通るんすか?」

 ハルナがイヤそうに言った。

 彼らの立ちつくしているのは、この道路が国道へ合流する地点だ。


「それはちょっと可哀想ですね」

 ヒロシ君も殊勝なことを言う。


「そーだな。また田んぼ通って帰るか」

 俺は何も言わずにハルナに背を向けしゃがんだ。

 「やった」の声と共に飛び乗るハルナ。


「ねーちゃん! ウメデラさんに何させてんだ!」

 ヒロシが声をあげた。ハルナは無視だ。


「ま、さっさと戻ろう。ケベスさんの廃屋がそこだったんなら、ミラカたちがどこに消えたのかが気になる」

 俺はあぜみちに踏み出す。


「確かにそっすね。他にもケベスさんの出る場所が?」

「どうだろな。ああいう事情だと、小学生が兄から教えてもらった場所が、ウソって可能性も高い」


 俺はこういった考察をするのが好きだ。

 結果は一週間楽しみにした割にはお粗末なモンだったが、これはこれでという感じだ。

 ヒロシ君の表情も悪くはない。


「おい、ハルナ。足を締め付けるな。歩きづらい」

「だって揺れるんだもん。もっと、そっと歩いて」

 背中のハルナが徐々にずり落ちている。


「文句は田んぼに言え。ぐえっ」

 回された腕が俺の喉元に引っ掛かる。


「っていうか自分で歩きなよねーちゃん。どうせ靴は汚れてるだろ」

 アパートは当然散らかっていたし、敷地では草や泥を踏んでいる。


「いいの。スカートのすそとか汚れるし」

 ハルナはよじ登ろうとしてるのか、腿を使ってモゾモゾとやった。

 背中に密着する体温。俺は彼女が落ちないように少し前かがみになってやる。


「そもそも、そんな格好で来るなよ……へっ、へくしょん!」

 ヒロシ君がくしゃみをした。


********


 先ほどミラカたちと遭遇した地点まで戻り、スマホで彼女に電話を掛けてみる。


「ちゃんと出るかな……」

 三コールするが応答なし。

 六コールまで待って諦めようとしたとき、通話が始まった。


「もしもし?」

『……』


 だが沈黙。仕方ないので、そのまま話を続ける。


「お前たち、今どこに居るんだ? こっちはケベスさん見つけちゃったぞ。逃がしてやったがな」

『公園にイマス』

「公園? なんでまた。公園にケベスさんは居ないだろ?」


『でっかいすべり台があるところデス』

 ミラカの声の遠くから子供の笑い声。俺がこの前見つけた公園か。


「とにかく、そっちに行くから」

 しばらく待っても返事はなかったが、俺は通話を終了した。


「ミラカちゃん、なんだって?」

 ハルナが訊ねる。

「公園に居るってさ。長いすべり台のある公園」


「長いすべり台? あたし行ったことないな」「僕もありません」

 ふたりも知らないらしい。新しいだけなのか、生活圏から少し離れるだけで分からなくなるものなのか。

 とにかく、ふたりを連れてすべり台のある公園へと急いだ。


 公園では、ミラカが連れていた小学生の一部が探索そっちのけで遊んでいた。

 やたら人数が多い、どうやらさっきは居なかった近所の子も交えて鬼ごっこをしているようだ。


「おー。アイツら、サボって公園で遊んでたのか」

「あっ、ミラカちゃんのお兄ちゃん。ケベスさん見つかったってマジ?」


 小学生のひとり……なんとか君が俺を見つけて駆け寄って来た。


「マジ。だけど、もう居ないだろうな」

「マジで見つけたの?」

「マジだマジ。キミたちは探さなかったのか?」

「だって、低学年のヤツらが公園で遊び始めたし……」


「ここにはデカいすべり台があるぞ」

 俺は青くて立派な遊具を指さす。


「すべり台とか卒業したし」

 鼻息を吐く少年。


「卒業かあ。俺はこの前滑った。そんで転んだ!」


「だっせー!」

 笑う少年。

「ダサいとか言うな。アレはローラー式のすべり台でな。レアだし、思ったよりも早くて激ムズなんだぞ。ま、キミには無理かもな」


「は? いけるし。ちょっと見ててよ!」

 そう言うと少年は、すべり台のほうへ駆けていった。


「ほう、ローラー式ですか。大したものですね」

 ヒロシ君がメガネをクイッとしながら言った。


「ヒロシ、キモいぞ」

「ねーちゃんは知らないだろうケド、遊具って高いんだぞ。それに、ローラー式は特に。長いヤツだと高級車より高いんだぞ」

 知識を披露して鼻を鳴らすヒロシ君。


「高級車!? マジでゆってんの? あたしも滑ってこよ!」

 ハルナは高級車のワードに反応してすべり台に駆けていった。ヒロシ君もあとを追う。

 独りになった俺はあたりを見回し、屋根付きの休憩所で麦わら帽子を膝に乗せて座っている娘を見つけ出した。


「よう。ケベスさんの正体は、お宝の守り神だったよ」


 遊ぶ子供たちを眺めるミラカの表情は明るい。


「ナンデスカ、ソレ? お宝? 財宝デスカ?」


「まーな。欲望の渦って感じだったな。っつーわけで、決闘は俺の勝ちだ」

 俺は隣に腰をおろす。


 しばしの沈黙。

 それから誰かさんの腹の音。


「ソーイエバ、デスネ!」

 それを打ち消すように切り出すミラカ。


「テリヤキが、卵を産んだソウデス。学校の子から聞きマシタ」

「ほう! そいつはめでたい? のかな。まあ、元気にしてるようでなによりだ」

「卵を食べそこなったのは残念デス。ミラカ、カルボナーラのパスタ(・・・)が食べたかったデス」


 そう言ってミラカはちらとこちらを見た。俺はため息一つ。


「パスタのソース。素直に謝ってくれたらそれで済んだのに」

「スミマセン。企業の汚いやり口に思わず怒りが……ではなく、編集長のせいにしてゴメンナサイ」


 ミラカの視線を頬に感じた。

 俺はさっきの少年がすべり台から上手に着地する姿を見て口元を緩める。


「いいよ。俺も、ちょっと、つーか、かなり意地悪だったしな。スマン」


 彼女のほうへ向き直り謝る。


「ヘヘ……喧嘩両成敗デス」

「ちょっと使いかた違うくないか?」


「ソーデスかね。あと、アイス食べてゴメンナサイ」

 ミラカは手を合わせて謝る。

「そうだ。食べ物の恨みは恐ろしいんだぞ」

「ヘヘ、逆の立場ならミラカ絶対許しマセン」

「まだ、他にあるだろ?」

 俺はいまだに膨らみを持つ後頭部をさすって言った。


「エ? エーット。プリンを食べたこととか?」

 食ったのか。知らなかった。あとで食べるつもりだったんだが……。


「違うぞ」

 まあ、いいだろう。


「デハ、こっそり編集長のお気に入りのカップ麺を食べたことデスカ?」

 そういやヤケに減りが早いと思っていた。……まあ、いいだろう。


「違うぞ」

「デハ、サイダーをコップに注ぐのが面倒でラッパ飲みしたこと?」


 それ、危なくない……?


「食い物のことばっかだな。そうじゃなくって。風呂場でアタマぶつけてくっそ痛かったんだぞ。オノで殴られたほうがマシだ」

「オウ! 忘れてマシタ。せっけんもゴメンナサイ……」


 ミラカが俺の後頭部に手を触れ、優しく撫でた。

 ちょっと傷んだが悪い気はしない。


「頭がデコボコになっちゃってマス……。まさか本当に踏むとは思わず……大丈夫デスカ?」

「あんまり大丈夫じゃないかもな。アホになった。それに寝づらい」

「ウー……。申し訳アリマセン。寝づらいといえば……」


 ミラカはもう一度謝り、言葉を詰まらせる。目をちょっと伏せて。


「そうだなー。先週はエアコンも無くて夜中暑くて死ぬかと思った。ま、最近はやっと涼しくなってきたしな?」

「ソ、ソーデスカ。……でも、夜は独りで寝ていると寂しくないデスカ?」


 アタマに手をやり、にへらと笑う小娘。


「そりゃお前だろ。お望みとあらば寝床は戻すぞ」

「ヘヘ。その方向でお願いシマス……」

「つーワケで、あとは詫びハンバーガーだけだな。今晩にでも食いに行くか。仲直りパーティーだ」


 詫びといってもどうせ一緒に食う。そうなると、喜ぶのはコイツのほうだろうが。


「アー……。ハンバーガーはナシ……というか今度にシマセンカ?」

 ハンバーガー娘から意外な言葉が飛び出す。


「どうした? お前もアタマを打ったか?」

「イエ、そうではなく。じつはミラカ、今晩のメニューはもう決めてあるんデス」

「ほう、なんだ?」


「ラムのソテーです。冷凍デスガ……」

 そう言って、にへら笑いをするミラカ。


「マジか。俺が食いたがってたのを覚えていたのか。可愛いヤツめ」

 俺は思わずテンションを上げ、アタマを抱いて髪をくしゃくしゃにしてやる。

「ウエーヘヘ……」

 ウソっぽい悲鳴をあげながらくっ付いてくるミラカ。


「はー。死ぬかと思った」

 ハルナの声。


 川口姉弟がすべり台から戻って来たようだ。


「あんなノロノロ滑ってて死ぬかよ。詰まっててみんな困ってたじゃん」

「だって、あれマジヤバいよ。撤去しよ撤去!」

「税金の無駄だよ。高級車くらいするって言っただろ」

「スカートも巻き込みそうだったし、危険物! ケガする子もいるかもよー」

「みんなちゃんと滑れてたじゃんか」


 ヒロシ君は過激派の姉に抗議している。

 そうだな、なんでも規制はいけないよな。


「ところで、センパイ。今、ミラカちゃんに抱き着かれてなかったっすか?」

 ジト目が向けられる。


「まさか、気のせいだろ」

「ハルナちゃん、気のせいデスヨ」


 俺たちは顔を見合わせ「なっ」「ネー」とハモる。


「ウソくさ……」

 ハルナが睨む。


「さあ、俺もちびっこに負けないようにひと滑りしてくるか!」

 誤魔化して、立ち上がる。


「ミ、ミラカも子供じゃないけど、滑ってこよーカナー?」

 ミラカも立ち上がる。


「ふたりともホントにケンカしてたのかなあ?」

 ヒロシ君も疑問を呈する。


「ウソっぽい、っていうか絶対ウソだ。……別にいっすけど」

 なんとなく憎しみのこもった声。


 俺とミラカは逃げ出した。


「なんだか、ハルナちゃん怒ってマセン?」

「さーな」

「フーン? ハルナちゃんにイジワルしたらダメデスヨー?」

「してない! 俺もよく分からん!」


 すべり台の横の坂を駆けあがる。


 いい景色、子供たちの嬌声、それから仲直り。


「けっこう見晴らしがイイデス!」

「よっしゃ、滑るか!」

「ヘヘ、ちょっと面白そうデス」


 そして俺たちは、ふたり仲良く着地に失敗してずっこけた。


********


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