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事件ファイル♯16  ケベスさん現る!? 廃屋の秘密を暴け!(5/6)

「おはよう、ミラカ。体調は大丈夫か?」

 目覚めると彼女は台所で朝食をこしらえていた。


 ところが、挨拶をしても返事はナシ。


 ベーコンの脂を弾くフライパンの音のせいで聞き落としたのかと思い、もう一度声を掛けてみるが、ノーリアクション。

 その後、なんと彼女は自分の分の朝食だけを支度して、そそくさと平らげて部屋に引っ込んでしまった。


 昨日の行動、特に彼女が倒れたのを看護したことを考えれば、抱き着いて「ゴメンナサイ、アリガトウゴザイマシタ!」くらいのことがあってもおかしくないと思っていた。


 俺は腹が立つとか悲しいとかを通り越して、ただ茫然と台所にたたずんだ。

 しばらくして我に返り、どのくらい機嫌が悪いのか、何故機嫌が悪いのだろうかと、ミラカのブログをチェックしてみる。

 アイツは体調不良だろうが、忙しかろうが、日に一回は必ずブログを更新している。


 やはり昨日も更新があったようだ。

 「編集長を一日中追跡」という趣旨の記事だ。


 呆れたことに俺を盗撮した写真のオンパレードだ。


 俺がコンビニに入る姿(編集長は自分には無駄遣いするなと言いつつコンビニを使っていてムカつくというコメント付き)や、俺が小学生に囲まれてすべり台前で正座をしている姿(編集長、小学生に怒られるの図)や、例のお城のようなデザインのラブホテルの写真が掲載されている。


 ホテルに関してはお城ではなく教会か何かと勘違いしたらしく、『可愛い建物、ここで結婚式を挙げたい』だなんてトンチンカンな感想が付いてて笑った。

 コメント欄も訪問者たちの笑いとツッコミで溢れている。


 それはいいとして、ブログからは彼女が不機嫌な理由は垣間見えてこない。


 次に、SNSのほうをチェックしてみると、こちらでも昨日のことに触れられていた。


『公園で体調が悪くなって倒れたら、編集長がおぶって家まで送ってくれました。嬉しかったです』


 そんなことをおおやけに発表するな。リプライで俺がフォロワーから袋叩きになっているだろ。

 だが、問題はこの投稿じゃない。最新の投稿、昨晩の書き込みだ。


『編集長からハラスメントを受けました』


 ほらみろ、こっちの書き込みのリプライでも俺が袋叩きだ。

 俺は外をぶらついて彼女を看病したうえに、吸血鬼の好物も買ってやった。

 アイツは俺を盗撮しただけだ。何がハラスメントだ、被害者はこっちじゃないか。


 俺は理不尽な扱いにすっかり気分を悪くした。

 ミラカからも説明はナシ。体調はすっかりよくなっていたようだが、洗濯以外の家事もいっさい放棄。


 俺も腹が立って彼女に対抗して無視を決め込んだ。


 実際のところ、日雇いのバイトや、ちょっとしたよそ様のサイトのコラムの仕事などで忙しくて単純に構っている暇もなかった。


 そのまま、俺たちはお互いに口を利かない長い冷戦状態に突入してしまったのである。


********


 ときは流れ、土曜日。

 川口姉弟とケベスさんの廃屋探しへ出かける。


「本日は晴天なり、本日は晴天なり! センパイ、準備はいいですか?」

 目の前でボブヘアーがやかましくしている。


「姉さん、今日は曇りだよ」

 弟クンのツッコミ。

 ヒロシ君の言う通り、空はネズミ色だ。降水確率は低かったので、日差しが遮られて、ちょうどいい塩梅の天気だ。


「先週は暑かったからな。曇ってるくらいがちょうどいい。ところで、ハルナはなんでそんな恰好をしてるんだ?」

 俺はハルナの服装にツッコミを入れた。


 彼女は、アイボリーの長袖シャツにグレンチェック柄のロングスカート、靴は低いヒールのパンプスだ。カラーはラベンダー。

 ボブは毛先のほうだけ少し明るいカラー、耳にはピアスが光っている。


「ちょっと寒くなって来たんでチャンスかと。どっすか、これ? きゅんきゅんっすか?」

 どっすか、と言われても。


 確かにそれ自体で見れば可愛い。

 街にデートに出かける大学生みたいな印象だ。彼女の中身を知ってる以上、違和感がバリバリ。


 もうひとつ言うと、

「探索に行くのにその恰好はないだろ」

 という感じだ。


「ほら、ウメデラさんにも言われた。だから言ったじゃん。今日は歩き回るだけだよ」

 ヒロシ君がため息をつく。


「えー! ガチで探検するんすか? じゃあ、違うコーデにして来ればよかった……」

 ハルナはため息をついて下を向いた。何しに来たんだコイツは。


「っていうか、また髪を染めたのか?」

 毛先のほうだけだが、まばらにゴールドが入っている。


「ナイナイ。学校あるんで染めたらヤバいっすよ。これはヘアワックスです。洗えば落ちるんで。センパイも染めてみます? 青とかピンクもあるんで、一日だけパリピとかコテ系とかできますよ」


「なんだコテ系って。トンコツ背脂マシマシみたいなもんか?」

 俺は首をかしげる。


「通じなかった……。まあ、いいっす。ところで、今日はミラカちゃんは?」

 ハルナが訊ねる。

「あー、アイツは今日は来ないと思う。さっきどっか出かけて行ったし」


 最近は口を利いていないし、アイツが何をしているかも把握していない。


「そうなんすか? まあ、いいんすけど」

 そう言ってハルナはヒロシ君を見た。


「何? なんで見るんだよ」

 ウザったそうに姉を見返すヒロシ君。


「別に。風邪ひいてるんだったら帰っていいよ」

「なんだ、ヒロシ君は風邪をひいているのか? 調子が悪いんだったらやめるか?」


「別に、風邪はひいていません」

 と、言いつつも彼は鼻をすすりティッシュを取り出す。

「鼻水でてるじゃん。帰っていいよ」


「ヒロシ君がダメなら中止だな。俺は帰って寝る」

「えーっ!」

 ハルナが声をあげる。


「大丈夫です。これは風邪じゃなくて、花粉しょ……へっくしょん!」

 くしゃみをするヒロシ君。

 鼻をかんで、メガネを戻すも、「クイッ」にキレがない。


「何花粉だ?」

「ブタクサとヨモギです、ずび……」

「へえ、そんな花粉症もあるんだな。花粉症といえばスギやヒノキのイメージだ」


「イネとかも、ある人はありますね。あんまり酷いと、熱も出て風邪よりツラくなる人もいます……」

 鼻をかむヒロシ君。


「ふうん。大変だなあ」

 俺はスギヒノキがちょっとある程度だ。マスクも別に要らん。


「予防接種とかもあるらしいですけど……ずび」

 注射が嫌いなのだろうか。俺も嫌いだったし、今でも好きじゃないが。


「ね、予定変更してどっか屋内に行こ!」

 ハルナが言う。

「やだ。俺はこれを楽しみに今週を頑張ったんだ。ケベスさんに会いに行くんだ」

 ヒロシ君が「右に同じく」と続いた。


 さて、隣町へ足を向けた俺たち。

 道中、俺とヒロシ君がケベスさんに関する推測をアレコレ立て、女子高生もときおり突拍子もない予測で乗っかってきて、それなりに楽しんでいた。


 ところが!


 ちょうど隣町との境界の信号を待っていると、俺たちは妙な一団に取り囲まれたのだ。


「……何してんだ?」

 俺の前に立ちはだかるのは、金髪麦わら帽子で、なぜかサングラスを掛けた小娘と、近所の男子小学生の集団だった。


 ミラカは小学生のひとりに耳打ちをすると何やら手渡した。


「はい、これミラカお姉ちゃんから」

 何かを受け取った小学生がそのまま俺にそれを差し出す。


「おう、ありがとう……」

 渡されたのは白い封筒だ。「果たし状」と書かれている。わざわざ墨と筆で書かれているぞ。

 俺はサングラスで表情を隠した小娘をちらとみやり、いちおう中身を読んでやる。


『梅寺アシオ殿。貴殿へ決闘を申し込む。

 勝敗はケベスさんの正体をつかむことをもって決める。

 敗者は昨今の非礼を謝罪し、詫びハンバーガーをおこなうこと』


 全部筆書き。なんじゃこりゃ。


「センパイ、ミラカちゃんとケンカしてたのってマジだったんすか?」

 ハルナが手紙を覗き込む。

「まあ、マジっちゃマジだ。アイツが悪いんだが、全然謝らん。じつを言うと、最近口も聞いてない」


「あはは。家庭内別居ってヤツっすね~」

 ハルナが楽しそうに言った。


「姉さん、笑いごとじゃないだろ」

 ヒロシ君がたしなめる。


「えー。別にケンカなんてフツー、するもんでしょ? あたしとヒロシだって割としてるし」

「大体はねーちゃんが悪いけどな」

 口を尖らせるヒロシ君。


「ま、いいぞ。この決闘、受けて立とう」

 ようやくのアプローチだ。いつまで続くかと思われていた冷戦だが、それも今日で幕引きだ。

 小学生の群れを味方につけているようだが、こっちはオトナ、それにすでに場所のアタリはつけている。


「川口探検隊VS小学生軍団!」

 ハルナが言った。


「リーダーはウメデラさんだろ。梅寺探検隊!」

 ヒロシ君が抗議する。

「川口2の梅寺1なんだからいいじゃん」

 ハルナの反論。


「なんでもいいが、ガキンチョたちはもう出発して行ったぞ」

 俺は横断歩道を渡る小学生たちを指さす。

 ご丁寧にもミラカが旗をあげて白フエまで吹いて引率して、子供たちも全員がきっちりと手を上げての横断だ。


「あっ。信号変わったし! 早く行きましょうよセンパイ! おこちゃまたちをギャフンと言わせましょう!」

 息巻くハルナ。


「大人気ないよ姉さん。それより、あの子たちは校区外に出たけどいいのかな? 子供だけなのに、ズルい……」

 ヒロシ君が歯噛みする。

「ミラカはいちおう大人だがなー。そうは見えんだろうが……。ま、俺たちも隣町へゴーだ」


 探索予定地のある国道へ向かっていると、スマホが振動した。


『こちらは数で勝っています。簡単に勝てると思わないことです』

『おう。期待してるぞ。せいぜい頑張れ。B・Tは十月から十一月にかけて、毎年ハロウィンの限定メニューをやってるぞ』

『マジですか? では、ミラカは本気を出しますね』

『どうぞどうぞ』


 なんだかんだで久しぶりのミラカとのやりとりだ。

 勝負にかこつけてやりとりを復活させてくるなんて、いじらしいヤツだ。

 俺はスマホを眺めてニヤニヤ笑う。


「センパイ、何笑ってるんすかー?」

 ハルナがスマホを覗き込もうとした。俺はスマホを遠ざける。


「覗くな」

「別にいいじゃないっすかー。あたしとセンパイの仲なんだしー」

「何がだ。親しき中にも礼儀ありだろ……げっ! ヤバいぞ、ふたりとも」


 俺は遠ざけたスマホを目にして前言撤回。川口姉弟にスマホを見せる。


『余裕しゃくしゃくですねー。でも、ミラカのチームには中学生のお兄さんがいる子が居ます。ミラカたちはもう場所を知っています。せいぜい頑張ってくださいね』


「大変だ! ウメデラさん、急ぎましょう!」

 ヒロシ君が走り出し、俺も続く。

「ちょっと、あたし走りづらいんですけど!?」

 うしろでロングスカートの娘がわめく。


 俺たちは国道に到着したが、ミラカたちの姿は見えなかった。


「居ませんね。確かに向こうに建物が見えますが、そこはケベスさんと関係がないのでは?」


 ヒロシ君が鼻をすすりながら言った。


「うーん。じつを言うと、近辺の怪しいところはすでにチェックを掛けているんだ。ここら以外に廃屋なんてなかった気がするんだが……」


「追い越したりすれ違ったりしてませんよね。方角は同じですし」

 俺たちはダッシュでここまできた。

 国道は長い直線だ。見渡すが、どの方角にも子供の群れは見当たらない。

 途中でどこかに曲がったのだろうが、住宅街の方面になってしまうし、そちらには廃屋らしい廃屋はなかったはずだ。


「うーむ。とりあえず、降りて探索してみるかなあ」


 どっちにしろ廃屋の探索はする。

 所有者にバレりゃ怒られるだろうが、ここまで準備をしたんだ。

 どうせ数十年単位で放置されてるもんだし、入ったからといって誰かが困ることもないだろう。


 廃屋は国道の脇の低い土地にある。

 放置された田畑や林にまじって、細い道路が通っており、そのそばに佇んでいる廃アパートだ。

 ここからでも、壁が植物に侵食されて緑に染まっているのが見て取れる。

 調べたところ、昭和の時代にうち棄てられて、ずっとそのままだそうだ。


「いかにもなルックス! うおおおお!」

 ヒロシ君は先行して、田畑に降りるために設置された階段を駆けていった。


「もー! ふたりとも早い。足が痛いんですけど!」

 ハルナがようやく追いついてきた。


「お前が遅いんだ。なんでそんな服装で来たんだ」


「なんでって……見せたかったし」

 くちびるを噛むハルナ。

 走ったせいかヘコんだせいか、赤くなった顔がメイクで隠しきれていない。仕方の無いヤツだな……。


「まあ、可愛いっちゃ可愛いよ。いっしょに街で歩けば自慢に出来るくらいには」

 しぶしぶ褒めてやる。“似合ってる”とは思わないんだがな。


「ヘヘ、ホントっすか? “彼女感”あるっしょ? 今から街行きましょ! ウインドゥショッピング!」

 パッと表情を咲かせるハルナ。


「残念だが、今から行くのはイカした街じゃなくて、スタれた廃墟だ。お前のほうからついてきたいって言ったんだぞ」

 俺は階段を降り始める。


「うー、付き合いますよう。……足が痛いなあ。パンプスじゃ階段降りづらいし。っていうか、この先、土じゃん!」

 階段の先は田んぼのあぜみちだ。

 最近、雨は降ってないし、田んぼ自体も放置されているものだから、泥だらけということもないだろうが……。


「美容やファッションに力を入れるのもいいが、TPOは弁えろよー。お前ならもうちょい、利口な格好をできただろ。ちょっと昔に流行ってた……山ガールっていうのか? あんな感じの格好とかさ」


「センパイ」

 ハルナは短く言った。振り返ると棒立ちをしている。

「歩きづらい。靴が汚れちゃう。……おぶって」

 両手を差し出すハルナ。


「アホか」

「アホじゃないもん。ミラカちゃんのことはおぶったじゃん。あたしもおぶって!」


 SNSの書き込みを見たか。ハルナはちょっと怒ってるようだ。


「アイツは軽いし、病気だ」

「あたしも軽いほう! それにアタマもビョーキ! あばばばばばば!」

 白目をむいて顔をブルブル振るハルナ。ちょっとウケる。


「ホントに軽いのかあ? 女子はすぐサバ読むからなあ」

「最近、痩せたもん。身長はフツーだけど、体重は全然ないよ。朝に測ったら42.9だった」


「ふーん?」

 数字を言われてもよく分からんが、具体的な数字を言っても平気なものなのか?


「俺に数字を言うということは……」


「う、うん?」


「検索されても問題ないということだな?」

 俺はスマホで女子高生の平均身長と体重を検索する。

 慌てて止めてくるかと思ったが、特に妨害は入らなかった。


 えーと、十八歳女子の平均は……身長157.5、体重50.7……。(ちなみに二〇一八年のデータだ)

「お前、身長は?」

「158ぴったし」


「それじゃあ、ちょっと痩せすぎだな」

 あらためてハルナの顔を見ると、少し頬肉が物足りない気もする。

 服の丈が長く、肌がほとんど隠れてしまっていて、手足の太さは分からんが。


「頑張ったんだけど」

 頬が膨らむ。

「頑張らんでもいい。お前がなるのは美容師であって、モデルじゃないだろ」


「だって。お菓子とか食べるとまたニキビが」

「気にすんな。若いんだから。っていうかお菓子以外を食え。それに、痩せると肌荒れするんじゃなかったか?」


「なんで知ってるんすか、そんなこと」

 ハルナは頭を傾げ首をさすった。


「なんでって、俺の理美容の知識は、ほぼお前由来だぞ。前にそんな話してくれただろ?」

「そでしたっけ?」

「もうひとつ言うと、少しくらい肉付きがいいほうが、男にはモテるぞ」


「マジっすか? そういうことは先にゆってくださいよ。ダイエットやーめたっ」


 彼女は表情をころりと笑わせると、ふたたび両手を差しだしてきた。


「なんでそうなる」

「だって、あたし軽いんでしょ? センパイならよゆーっすよ」


 笑いながら手をひらひらさせるハルナ。


「バカなこと言ってないでさっさと行くぞ、ヒロシ君はもうあんな遠くに……」


 ヒロシ君はあぜみちを抜けて、道路へとたどり着いていた。

 彼はつま先でアスファルトを叩いて、靴の土を落としている最中だ。


「ああ、もう! しゃあないな。俺もダイエットだ!」

 俺はハルナに背を向け、腰を落とす。


「へへ、よろしくおなしゃーす」

 にやけてそうな声が聞こえた。

 俺はハルナを背負ってやる。ミラカを背負ったときとは違う感覚。

 それほど重いわけではないが、上手く位置が定まらず、弾みをつけて調整する。ハルナが「おふっ」と声をあげる。


「向こうに行ったら降ろすからな」

「モチっすよ」

 イマドキJKを背負った俺は、しっかりとした足取りであぜみちを歩く。


「ねえ、センパイ」

 耳元でハルナの声。

「なんだ?」

「あたし、重い?」

「ミラカよりはなー」

「うー、比べるなし!」


「わかったわかった。失礼しました。ほら、重くないだろ」

 俺は速度を上げて、あぜみちを小走りに進む。


 舗装されてない土の道は正直歩きづらい。

 おぶって小走りなんて無理がある。転んでケガをさせたり泣かれても堪らんが、ここはガッツだ。

 俺が努力と根性で道路まで到達すると、先に廃屋へ近づいていたはずのヒロシ君がこっちに戻って来た。


「ウメデラさん、大変です! ……姉ちゃん何してるの? 運動会の練習?」

 何やら慌てている。 


「ま、そんなところだ。どうした? ケベスさんが出たか?」

 俺はハルナを降ろしながら訊ねた。ハルナが「ありがと、センパイ」と言った。


「違うんですけど、なんか男の人たちが中に」

「廃墟マニアとかか?」


「そ、それが様子が、お、おかしくって……女の人の声が……」

 ヒロシ君はしどろもどろになった。


 廃屋、女の声。あまりいいキーワードじゃないな。


 俺は不穏な事態を予感し、表情を引き締め、耳を澄ます。


 廃アパートからは何も聞こえてこない。


「ちょっと隠れて様子を見に行くか。お前たちはここに居ろ」


 そう言い残して俺はアパートの敷地へと足を踏み入れた。


********


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