モブキャラの最期
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——俺は転生した。
レンガ造りの建物に挟まれた、狭く薄暗い路地裏。
その内の一本が、路上の男たちによって剣呑な雰囲気に塗り替えられていた。
「……すみません、あの、僕、急いでる、ので。道を空けてくれ……ください」
「あぁん?」
腕っ節だけが頼りのような、そんな柄の悪い男だった。傍らには、腰巾着のノッポの男。
ずいぶんと体格差のある二人組だが、それでも大の男が横並びだ。狭い道幅を塞ぐには充分だった。
「その、通して、くだ、さい」
「……いいぜ。ただし、条件がある」
「条件……?」
盗賊、野盗、住処のない根無し草。どんな称号でも良いだろうが、タチの悪い悪党ということには変わりなく、性根も格好もみすぼらしい。
正直、いつまでも視界に入れておきたくはない手合いである。汚らしいことこの上ない。
「ああ。お前だって見たことあるだろう、都市の入り口とか国境で」
「……それって」
少年と大柄な男。
その体格差を生かすように、壁際まで追い詰めるような形で二人の距離が近くなる。
「通行料だよ、通行料。有り金、全部置いていけ。そうしたら通してやるよ」
「……その、も、もし、こ、断った……ら?」
「そりゃあ、お前……分かるだろ?」
自らの力を誇示するように、指の関節を鳴らす。
従わなければ力づくで。
ならば怪我をしないよう、素直に金を渡した方が利口だろう。
だが、
「いつもそうだ……」
「あ?」
「お前たちは、いつもそうやって、弱い人間から奪っていくんだ」
「なにブツブツ言ってんだ?」と、これまで黙っていた細身の男が口を開き睨みつける。
この男は、それで目一杯脅しているつもりなのだろうか。だとしたら笑えることだ。
「……僕は神様から力をもらったんだ。もう以前の弱い僕じゃない。僕が本気を出せば、お前らなんて」
その言葉を皮切りに、辺りの壁や地面が揺らめいていく。
同時に感じる異常な熱さ。
空気が熱せられて出来た波紋に目を奪われた、その直後。
"俺の"目の前で俯いていた少年が、勢いよく顔を上げ、
「お前らみたいな人間が居るから——!」
迫る炎が、俺と側にいたもう一人の男を飲み込む。
少年自身との距離もかなり近かったというのに、その炎は俺たち二人以外になんの影響も与えていなかった。
きっと生前、この少年には許せない何かがあって。
俺たちは無遠慮に、その傷を抉ってしまったんだと思う。
ただ、だからといって。
別に焼き殺さなくてもいいじゃないのさ。
最期にそんな下らないことを考えながら、俺、市井 環の何度目か分からない異世界転生ライフは幕を閉じた。
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