貴方の名前は。
視界が闇に染まった。そう言っても意識が無くなった訳では無い。どちらかというと目の前を何かで遮られているといった方が正しい。…何かってナニに?
そう思った瞬間、足元からナニかが絡み付いてくる。ナニかは瞬く間に全身に絡み付き、私のことを絞め殺そうとしてくる。
(呑まれる…)
不思議と痛みはない。ただ、吸い込まれそうな暗闇と痛いほどの静寂に私の存在が消えてしまうような…そんな孤独感に苛まれる。
「目を閉じれば貴方も常世の仲間入り…さあ……眠りなさい……」
(仲間か…なん、か…いい、な……)
不思議な声に促されて目を閉じようとする。だが、耳元で聞こえる声が眠らせてくれない。
「----“セッカ”--“セッカ”--“セッカ”!!」
余りに煩くて目を開けると景色は様変わりしていた。頭上からは微かに光が射しており、私はまとわり付いていたものの正体を見ることが出来た。…それは、根、だった。太いものから細いものまで様々な根がびっしりと全身を覆っているのを見て短く悲鳴を上げた。
(こんな所で眠るなんて冗談!)
脱出しようと体に力を込めるが、根はピクリとも動かない。しかも、根は不利を悟ったかギチギチと締め上げて来て苦しくなる。唯一の希望の光も根が覆い隠そうとしている。どうしたら…
悩んでいると空から救いの声が降ってきた。…あの男だ!
「“セッカ”聞こえるか!?」
「聞こえるよ!私は此処にいる!何か根みたいのに捕まってて動けないの!!」
私は今世紀最大と思われるほど叫んだ。だが、返ってきたのは無情な言葉だった。
「残念ながらお前の声はまだ俺には届かない。だが、1つだけそちらに行ける方法がある!!」
私は気を取り直し、再び期待を込めて上を見上げる。
「“セッカ”俺の名前を喚べ!」
(いや、格好いい事言ってるけどあんたが勿体ぶって教えてくれないから名前知らないわよ!!)
私は状況を忘れて盛大に突っ込んだ。