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仮想現実の魔獣使い  作者: 綾川智樹
2/2

魔獣使い始めます!2

 つらい現実を突きつけられ、スピカは獣使いコースの教室の席に座った。大教室でのコース分けが終わった後、教官の指示に従ってこの教室に移動したのだ。まだスピカ以外の生徒と担任は来ていないようだった。いや、そもそも席が4席しかないのである…。

 スピカががっくりと首を落とした時、教室のドアが開いたかと思うと、小柄な少女が立っていた。

「こんにちは!」

 少女はそう言うと元気にスピカの右隣の席に腰を下ろした。スピカも元気のない声であいさつをする。

「こんにちは…。初めまして。スピカと言います…。これからは…。」

「どうしたの!?スピカちゃん元気ないね」

 スピカが話し終わる前に少女はこちらを向いて、新たな言葉を発した。振り向きざまに長い黒髪が揺れた。

「私の名前はナーシェ。ナーシェ・グローム。よろしくね」

 ナーシェと名乗った少女はにっこりと笑みを浮かべた。対してスピカも精いっぱいの笑みを浮かべてよろしくね。と返す。

「ところで、スピカちゃんはどうして元気がないの?」

「だって…。獣使いだよ?戦闘ではすることも少ないし、なによりVRFでは使い物にならないジョブじゃん。そもそも獣使いなんてジョブはこのフェルト共和国にしかないんだよ。」

 

 獣使いは、このフェルト共和国のみが教育を行っている過程である。世界中にいる魔物を従えて操る。いっけんかなり強力なように感じるが、VRFでは弱いどころではない。

 魔方陣を使用して意識を仮想現実に写すこの戦闘の特性上、獣使い単体で仮想現実に向かったところで意味がない。従えている獣の意識も同時に移さなくてはいけないのである。獣自身には知能や魔力が少ないため、自らの意志によって仮想現実に移ることは困難であるため、獣使い本人が従えている獣の魔力や精神力分を負担することになる。結果としてVRFに連れていける獣は1,2体が限度である。

 こういった性質上、各国はVRFが浸透した初期の段階で獣使いの教育を打ち切ったのである。ではなぜフェルト共和国だけが獣使いの教育を続けるか。それはこの国の歴史にある。その昔、共和国は世界最大の面積を誇る国家であり、獣使いの国でもあった。先天的に獣との意思疎通ができる子が多く生まれ、他国では操ることができない獣さえも易々と扱ったのだ。

 しかしそれも500年以上前の話である。現在のフェルト共和国では獣使いの数は10に満たない。晴れて教育課程を終えた獣使いたちも、仮想現実戦闘員としては少ない給料と、獣に与えるエサ代に苦しみ、数年で引退してしまう。そんな現状を理解しているにもかかわらず共和国が獣使いの育成をやめないのは遠い昔の伝説にすがっているからだろう。

 

「私は獣使い良いと思うけどなぁ。だって辛い訓練とかしなくていいだろうし、獣たちに餌をあげて仲良くなるイメージだよ。」

 ニッコリ笑顔で楽しそうに話すナーシェを少しは見習おうと考えた。確かに前衛兵のように訓練をしなくていいのは魅力的である。

 この考えが甘かったと悟るのはそう先の話ではないのだが…。

「ところで、あとの二人ってどんな子なのか知ってる?」

 そう尋ねられたが、スピカは首を横に振る。自分がいた大教室で獣使いの名前を呼ばれたのは他にいなかった。同時刻に4つの大教室で割り当てがなされていたので、スピカの左隣の空き席2つを考えると、それぞれの大教室で一人ずつ獣使いコースがいると考えられる。

「それにしても4人かぁ。エリートだね!」

 きっとナーシェも同じようなことを考えていたのだろう。4人という数がそれを表している。

「いや、エリート…。なのかなぁ…」

 スピカには弾かれた4人としか考えられなかった。



 教壇に立っている担任は、スピカに大教室で獣使いコースを言い渡した女性だった。

「ナロエ・アームズだ。これから2年間よろしく頼む。」

 スピカは直感で、この教官とは仲良くなれそうもないと感じた。顔を前に向けたまま目を左に流すと、青色の髪と青色の瞳をした女の子が真剣な表情で教官を見つめていた。教官が入ってくる直前に教室に来たため、軽く挨拶をした程度で名前はまだ聞いていない。

「フォンはまだ来ていないのか!」

 アームズ教官は教室に自分を含めて4人しかいないことに苛立ちを隠しきれていない。大きく深呼吸をすると獣コースの内容について話し始めたのである。


 軽く1時間が経過していた。話を聞けば聞くほど、獣コースの辛さが露呈していく。獣を操るための精神力から体力。獣が負傷した際に自らを守る戦闘能力と応急処置能力。特化して鍛えるものはなく、まんべんなく訓練を積むと言った内容であった。

「獣使いコースが楽だと思っていたら大間違いだぞ!はっきり言って一番きつい!だが2年間やり遂げた暁には…。」

 教官の声が急に小さくなったかと思うとスピカの右側を見つめている。そこにはうとうとと首を動かしているナーシェの姿があった。

「ナーシェちゃん…」

 スピカが小声で呼びかけるとナーシェはハッとした表情で顔を上げ、気まずそうに笑みを浮かべた。

「注意するように。」

 教官はそれだけ言うと説明に戻った。この程度の注意で済むのはこの子が持っている愛嬌なんだろうなとスピカは思った。


「では、長々と説明したが午後から早速訓練に移る。まずは実技をしてもらおう。」

「実技というと獣とのふれあいでしょうか?」

 ここぞというタイミングで青い髪の少女が質問を繰り出す。

「うむ。まずは獣に対する抵抗をなくすため…。」

 一瞬教室が沈黙に包まれ、教官の次の言葉を待つ。

「スライムと触れ合ってもらう!」

「ス…スライムー!?」

 スピカとナーシェは二人同時に大声を上げて席を立ちあがった。

「ええい!静かにしろ!」

 教官が大声を上げ、その様子を見ながら青い髪の少女はくすくすと笑っていた。





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