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その少女は異世界で中華の兵法を使ってなんとかする。  作者:
第24話 義将=将軍に必要な6つの資質~正義、仁愛、道徳、信用、知恵、決断力
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その3(全4回) ふだんからモラルと信用を大切にしていれば、いざというとき役に立つ

 帝国南方海上。


 帝国の軍艦が複数、一列に並び、もくもくと排煙をあげながら、勢いよく波をかきわけ、ゆうゆうと航行している。


「波浪警報は出ているが、天気も視界も良好なままで助かる」


 巡洋艦のブリッジで、セイブ提督が双眼鏡を片手につぶやく。


 帝国海軍は今、いくつもの艦隊を派遣して、帝国の南方で海上封鎖を行っている。そのうちの1つが、セイブ提督のひきいる艦隊だった。


 旗艦を含む巡洋艦6隻と、駆逐艦6隻から編成されている。


『11時の方向に船影多数!』


 伝声管を通じて、見張員(みはりいん)の声が聞こえてきた。


『国籍は不明!』


 セイブ提督は、双眼鏡をのぞきこむ。発見した船団――中型船およそ30隻は、どの船も商船のように見えるが、国旗や国名など国籍を示すものがなにも見えない。


「商船に偽装した連邦の輸送船だろう」


 ブリッジにいるだれもが確信していた。


「停船命令を出せ。臨検する。命令に従わない場合は撃沈せよ」


 セイブ提督が指示するや、ただちに停船命令を示す信号旗が旗艦に掲げられた。他の軍艦も同様にする。


 艦隊は単縦陣で、船団へと近づいていく。

 

 ボッ! ボーッ! ボーッ! ボッ! ボッ!


 ボッ! ボーッ! ボーッ! ボッ! ボッ!


 ボッ! ボーッ! ボーッ! ボッ! ボッ!


 旗艦は停船を命じる汽笛をくりかえし鳴らす。


 しかし、船団はいっこうに停船しない。むしろ増速したようだ。


威嚇(いかく)せよ!」


 提督が命じるや、旗艦の主砲塔が旋回し、船団をねらう。他の軍艦も同様にしていた。


 すぐに照準も定まった。すべての軍艦がほぼ一斉に主砲を撃つ。耳をつんざくような轟音が響きわたり、発砲後の煙があたりを曇らす。


 船団の前後左右に大きな水柱があがった。しかし、船団に停船する気配は見られない。


「撃沈せよ!」


 旗艦のマストに戦闘開始を合図する信号旗がはためいた。


 旗艦他5隻の巡洋艦と、6隻の駆逐艦は、船団の船を先頭から順番に狙い撃ちにしていく。その砲撃は正確無比で、砲撃するたび、ほとんどが命中する。


 船団は、次から次に数発の直撃弾を受け、火柱をあげて轟沈していく。当然のことながら艦隊の圧勝だ。


「わが帝国海軍は、少数とはいえ精鋭ぞろいです。しかも近海で、連邦を相手に海上封鎖をかけるなら、確実に封鎖できます」


 総司令官はフミト皇太子に自信たっぷりに語っていたが、その言葉どおりだった。連邦は陸軍国で、ハン王国の時代から海軍力は脆弱(ぜいじゃく)なままだ。


 今や連邦は、南部になにも海上輸送できない状況におちいっていた。兵員も増員できなければ、物資も補給できない。


「このままでは、ジリ貧だ」


 ウーダーイー総督はあせり、タケト皇子や辺境伯の名のもとに南部で挑発、徴用をくりかえす。しかし、ものには限度というものがある。


 南部は豊かな土地だ。海洋資源にも、鉱物資源にも恵まれている。ただ山がちなので農業生産には不向きだが、交易で農産物を入手できるので問題ない。


 しかし、いくら南部が豊かとはいえ、今や交易路は帝国軍によって封鎖されているし、そもそも南部には10万人の兵力を養い続けるだけの経済力はない。ウーダーイー総督の軍勢は、連邦の正規兵や傭兵を含めて、今や10万人の規模にまで(ふく)れあがっていた。


「陸路はないし、海路も使えないなら、空路がある」


 というわけで連邦は、空中戦艦を輸送船として利用することも考えた。空を飛べば、今のところ制空権は連邦がにぎっているので、無事に輸送できる。


 しかし、空中戦艦1隻が一度に運搬できる物資は、10トン程度だ。兵員となれば100人くらいになる。10万人の軍隊に対し、きわめて少ない。


 しかも、連邦の保有する空中戦艦は、今のところ残り4隻だ。建造には時間が必要なので、そう簡単には数を増やせない。


 だから、空中戦艦による輸送は、「焼け石に水」みたいなものだった。


「このまま持久戦にもっていけば、ウーダーイー総督の軍勢もおのずと壊滅します」


 総司令官は予測する。


「これなら戦わずして勝てますな。この作戦でいくなら、軍師殿の好みにあうのではないか?」


 ヤマキ中将がうれしそうにクリーに話をふると、クリーもうなずいた。


「はい。軍事的には良策だと思う」


 しかし、横槍が入る。


 帝都に戻っていたハナ皇姫が、この話を伝え聞いて反対意見を電信で送ってきたのだ。分かりやすくするため、電信のやりとりを会話の形式で紹介する。


『政治的には失策よ!』


 ハナ皇姫は、怒っていた。


『南部を連邦にとられたままグズグズしていたら、臣民はフミトお兄様のことを頼りなく思うわよ。あの皇太子は領土をとられたまま手も足も出せないダメなやつだって』


『わたしの評判より、将兵の命のほうが大切ではないか?』


『はぁ。分かってないわね』


 ハナ皇姫はあきれた。


『フミトお兄様の評判が下がれば、帝都にいる皇子派が勢いをもりかえすわよ。臣民の不満を利用して、フミトお兄様の足を引っぱろうとする。そうなれば帝国の政治が混乱するわ。そうなれば連邦の思う(つぼ)じゃない!』


『まあ、それも一理あるな』


『一理じゃなくて真理よ。こうなるのは確実なの。だから、持久戦なんてダメ。短期決戦でいかないと、軍事的に勝っても、政治的に負けちゃう。だから、分かった?』


 ハナ皇姫はフミト皇太子をひととおり叱責(しっせき)すると、クリーに電信を送った。


『というわけだから、なんとかならない?』


『わかった。なんとかする』


『ありがとう!』


 一連のやりとりが終わったあと、フミト皇太子は執務室でクリーに言った。


「妹の言いたいことも分かるが、しかし、やはり現場の意見が優先されるべきだ。だから軍師殿の考えを優先してもらってかまわないよ」


「はい。でも、姫様の考えは正しいと思う。それに策もある」


 クリーは、フミト皇太子に策を示した。


◆ ◆ ◆


 司令部の作戦室で、クリーは作戦について説明することになった。


 機密を保持するため、出席者はフミト皇太子のほか、総司令官とヤマキ中将に限定された。アルキンは、クリーの補佐役として出席する。


「わが一族の故地に伝わる話だけど、かつてタン国のズフーは言った――」


 人を()んとすれば()ず馬を()よ。敵を(とら)えんとすれば()ず王を(とら)えよ。


「――つまり、いくら南部にいる連邦軍が大軍でも、総大将のウーダーイー総督さえやっつけてしまえば戦いも終わる」


 うなずく一同。だれも反論しない。


「だから、殿下は南部に向けて布告したらいい――」


『わが軍の狙いは、タケト皇子とウーダーイー総督の逮捕にある。その他の将兵は、必ずや連邦に生還させてやろう』


「――海上を封鎖され、生還できる可能性もきわめて少なくなり、絶望的な境遇にある連邦の将兵にとって、これは魅力的な布告だと思う」


「たしかに魅力的な布告であろうとは思うが、それで連邦の将兵の戦意をそげるのか?」


 総司令官はいぶかるように言った。


「はい。敵兵は、建前(たてまえ)上は皇子や総督を守りぬくと言うかもしれないけれど、本音(ほんね)では皇子や総督にさっさと帝国の捕虜になってほしいと願うようになる。生きて国に帰りたいから。だから、まともに戦わなくなる」


「そんなにうまくいくか?」


「はい。わがミン族の故地での話になるけど、かつて名将ガオレンホウが同じようにして成功している」


 名将ガオレンホウは、反乱軍を討伐に出たとき、敵のスパイを捕らえ、次のような情報を敵兵に伝えさせる。


「われらの狙いは敵将にある。敵兵はやむなく敵将に従っているにすぎないのだから、投降するなら許す」


 これを聞いた敵兵は、ガオレンホウの軍勢が攻めてくるたび、さっさと降伏するようになる。敵の拠点は次から次に陥落していき、最終的に敵兵は敵将を捕らえ、ガオレンホウに差し出して降伏した。


 かくして大規模な反乱も、あっけなく平定された。


「今回の作戦も、これに似ている。だから成功する」


 クリーは断言した。


「1つ補足しても、よろしいでしょうか?」


 脇にいたアルキンが言葉をはさんだ。


「もちろんだ」


 フミト皇太子は快諾する。


「連邦の将兵は、徴兵制によって軍務についている者がほとんどです。とにかく無難にやりすごして、一刻も早く兵役を終わらせ、ふつうの生活に戻りたいと願っています」


「うむ。国民皆兵制というやつだな――」


 総司令官が(あご)をさすりながら言う。


「――たしか連邦革命軍が強かったのも、これのおかげだと聞いているが違うのか?」


「はい。革命が始まったばかりの頃は、国民のだれもが“王族や貴族の圧政から解放されたい”と願っていましたから、一致団結して必死に戦いました。しかし、今はそうではありません」


「どういうことか?」


「革命が終わってしまえば、結局のところ連邦革命党が王族や貴族にとって代わっただけで、国民の生活はさほど変わりませんでした。すっかり革命に幻滅し、徴兵された国民のだれもが“連邦革命党のために命をかけるなんてバカらしい”と思っています」


「まちがいないのか?」


「はい。かつて殿下が連邦の大軍を撃破して多くの捕虜を得たとき、自分は多くの連邦人と接することになりました。そのときほとんどの連邦人が同じようなことを口にしておりましたから、まちがいありません。連邦軍の士気は、さほど高くありません」


「なるほど。そういうことであれば、たしかにクリー大佐の言うような布告を出せば、連邦軍の将兵は今の絶望的な状況から救われるわけであるから喜ぶであろうな」


「はい」


「だが、わが軍と連邦軍は敵対しているのだぞ。連邦軍の将兵は敵の言うことを信じるのか?」


「その点は心配ないと思う――」


 クリーが口をはさむ。


「――殿下には名将としての資質の1つである“道徳(モラル)”が備わっている」


「ん?」


「殿下は、かつて連邦軍の将兵を捕虜にしたとき、みずからの良心(モラルセンス)に従い、捕虜たちを連邦に生還させるため、親身になって努力した。だから、殿下が道徳的な人物であり、捕虜を大切にすることは、連邦に知れ渡っている」


「ふむ」


「だから殿下が“捕虜にした敵兵は連邦に生還させる”と言えば、すでに実績があるから敵兵も信じる。そして、これは言いかえるなら、殿下には名将としての資質の1つである“信用”が備わっているということでもある」


「そうだな……」


 総司令官は思案する。


 実際、偵察隊(スパイ)が「ウーダーイー総督の軍勢は、士気が高くない」と報告してきている。


 しかも、フミト皇太子はなぜか敵兵の一部から人気を博していることも報告されていた。聞くところによると北部で捕虜になっていた兵士たちらしい。


 こうした点を勘案すれば、クリー大佐の作戦もあながち書生論とは言えない。


「どうかな?」


 フミト皇太子が笑顔で総司令官に問いかけた。


「ピンポイントで敵将を狙って捕らえれば、いくら敵兵が多くとも組織的な抵抗はなくなります。それを実行するために敵兵の戦意をそぐ方法についても、きちんとした根拠をもっています。したがいまして、南部を平定する作戦として、採用してもよいものと判断します」


「ヤマキ中将は、どうか?」


「もちろん軍師殿の作戦に賛成であります」


「そうか。では、軍師殿の作戦を採用するとしよう」


 かくして通称「擒賊擒王(きんぞくきんおう)作戦」が発動された。

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