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その少女は異世界で中華の兵法を使ってなんとかする。  作者:
第23話 兵失=軍隊が敗北する場合
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その3(全4回) 帝国軍の離間策が発動する

 頼みとする空中戦艦が目の前で撃墜され、南部連合軍の将兵たちは意気消沈している。士気は低下し、戦意も喪失し、闘志もない。


 しかも帝国軍の兵力は、南部連合軍よりも多い。


「この状態で総攻撃をしかけられたなら、わが連合軍は負ける」


 南部5侯の間に知らず戦慄(せんりつ)が走る。


 ただし、それでも戦闘部隊をひきいる3侯――カワ辺境伯(左軍)、トウドウ辺境伯(右軍)、フワ辺境伯(中軍)は強気を見せた。


「たしかに絶対絶命の大ピンチではある。だが、チャンスでもある。“追いつめられたネズミはネコをかむ”と言うであろう」


 カワ辺境伯は、鼻息も荒く言った。ただし冷や汗がにじんでいる。


「将兵らは生き残りたければ、必死になって戦うしかないよな。必死になれば強くなる。まさに“背水の陣”ってやつだな」


 トウドウ辺境伯は、余裕の笑みを浮かべて見せる。ただし顔つきは引きつっていた。


「古来より“断じて行えば鬼神も避ける”と言われています。今こそ不屈の闘志をもって、初志を貫徹すべきです。徹底抗戦し、わたくしたちの意地を見せつけましょう」


 フワ辺境伯は、決意に満ちた表情で告げた。ただし表情は固い。


 3侯は、口では威勢のいいことを言っていたが、すでに「死」を意識していた。その背中には、悲壮感がただよっていた。


 もとろん、その将兵が敗北感にとらわれ、やる気を失っていたのは、すでに述べたとおりだ。


 もうダメだ。そう絶望しかけていた。その矢先――。


「帝国軍より軍使です!」


 伝令が駆けこんできて報告した。帝国軍が使者を派遣して、南部5侯に投降を勧告してきた。


 南部連合軍が空中戦艦を失い、その将兵が士気も戦意も闘志も失っている今こそ、帝国軍にとって総攻撃のチャンスだ。


 帝国軍が一気呵成(いっきかせい)に攻めたてれば、兵力の劣る南部連合軍に勝ち目はないだろう。それなのに――。


「投降勧告だと!?」


 なんとも拍子抜(ひょうしぬ)けだ。


「ここで総攻撃をしかけず、悠長に軍使を派遣して投降を勧告するなど、みずから勝てるチャンスをドブに捨てるようなものではないか」


 南部5侯は、あきれると言うか、ほっとしたと言うか。ともあれ危機は去った。天佑神助(てんゆうしんじょ)とは、このことを言うのだろう。


「これは重大なことなので、諸侯と話しあったうえでなければ回答できない」


 南部5侯は軍使に対して、だれもが回答を保留した。とりわけ前線にいた3侯などは、みずからの陣営に軍使をとどめたまま、軍勢を退却させる。


 軍使を派遣して投降を勧告しておきながら、すぐさま攻撃をしかければ、りっぱな国際法違反となる。世界を敵にまわしかねない。世界から信用を失いかねない。


「だから帝国軍の攻撃は、しばらくはないだろう。これで陣地まで無事に退却することができる」


 3侯とその将兵たちにとって軍使は、「人質」のようなものだった。身の安全を保障してくれる「お守り」みたいなものだった。だから、3侯の軍勢――左軍、右軍、中軍は、パニックになることなく、おちついて退却していく。


 もちろん油断はできない。3侯は、あくまでも帝国軍の追撃を警戒し、自軍を整然と退却させるように全力を尽くす。いつでも反撃できるように殿軍(しんがり)には精鋭を集めていた。


 しかし、帝国軍は追撃してこない。追撃するそぶりすら見せない。


 結果、3侯は無傷のまま陣地に帰還することができた。陣地でまっていた2侯――シン辺境伯とヒラ辺境伯の2人と合流し、さっそく陣中会議を開く。


 もちろん議題は、投降勧告の取り扱いについてだ。


「みなさんの話を聞いて分かったのですが、それぞれ異なる内容の勧告を受けています。これはボクらの仲を裂こうという帝国の策略だと思います」


 ヒラ辺境伯は、諸侯に警戒をうながすように言った。


「そのとおりだ。これには慎重に対処せねばならないと思うが、みなの意見はどうだろうか?」


 シン辺境伯は、神経質な顔つきで諸侯の顔を見まわす。


 しかし、3侯――カワ辺境伯、トウドウ辺境伯、フワ辺境伯の3人は、強気だった。


「われらは追いつめられているとはいえ、追いつめられているからこそ、将兵が必死になって戦う。すなわち、“背水の陣”をしけば、“火事場の馬鹿力”を発揮できるので、形勢逆転も夢ではない」


 そう言って、あくまでも徹底抗戦を主張する。


 このとき3侯は、その配下の将兵を鼓舞するため、こんな布告を出していた。


『わが南部連合軍の威名は、天下に轟き渡っている。ゆえに帝国軍も決戦を避け、投降を勧告してきたのだ』


 その証拠に帝国軍は、総攻撃のチャンスでも、総攻撃をしかけなかった。チャンスをふいにしたのも、南部連合軍の武勇を恐れてのことだ。


 そう考えると、3侯の布告も説得力がある。結果として3侯の軍勢は、ある程度やる気を高めることができた。士気も、戦意も、闘志もそれ相応に回復した。


(相手が弱気なら、こちらが強気に出れば必ず勝てるものだ)


 だからこそ3侯は強気になったのだ。


「あっさり降伏するよりも、まずは力を見せつけたうえで講和を結んだほうが、有利な立場に立つことができる」


 3侯は言いはる。


 いくらシン辺境伯が慎重な意見を言い、いくらヒラ辺境伯が熟慮を求めても、3侯は聞く耳すらもたない。まったく考えは変わらない。


 とにかく背水の陣をしけば勝てる。3侯は、そんな精神論を展開して譲らなかった。


(こいつら、やはり全然ダメだ。頭が筋肉とは、このことを言うのだろう。これなら帝国軍に寝返りを約束したほうがいい)


 シン辺境伯とヒラ辺境伯の2侯は思う。しかし、それをおくびにも出さない。


「勝ち目はない……」


 2侯が同時に口を開こうとしたのだが、フワ辺境伯が口をはさんできた。


「わたしたちに帝国軍が異なったメッセージを出し、わたしたちのことを離間させようとしているのは、わたしたち南部連合軍の精悍(せいかん)さを恐れてのことです。ですから、とにかく弱みを見せてはいけません。見せればつけこまれ、帝国軍の思う(つぼ)です」


 カワ辺境伯も、トウドウ辺境伯も、フワ辺境伯の主張に付和雷同し、力強くうなずいて見せる。


 シン辺境伯とヒラ辺境伯は、例によって、あえて反論しようとはしなかった。もっとも、すでに3侯を見限っているので、反論する気は毛頭なかったが……。


 かくして南部連合軍の方針が決まった。


 1つ。南部連合軍の強さを帝国軍に思い知らせ、有利な条件で講和する。


 1つ。諸侯のもとにいる軍使については、諸侯各自の判断で追いかえす。


 南部連合軍の強さについて、2侯は半信半疑だったが、3侯は自信をもっていた。


 たしかにクリーは、南部連合軍との戦いを恐れていた。へたに戦って余計な死傷者を出したくないと思っていたからだ。


 しかし、帝国軍が投降勧告を出し、3侯を無事に帰還させたのは、単に「恐れ」だけが理由ではない。その裏には、南部諸侯の足並みを乱すための策謀が隠されていた。


 もちろん南部5侯は、それを知る(よし)もない。夢にも思わない。


 かくして陣中会議は「全軍をあげて打って出る」ことを決め、閉会した。南部5侯は、それぞれの決意を胸に秘め、それぞれの陣地に戻る。


 そして、シン辺境伯とヒラ辺境伯は、さっそく帝国軍の軍使に対し、密かに投降する旨の回答を伝えた。


 ◆ ◆ ◆


 帝国軍は、偵察用の熱気球(こんみんでん)を飛ばしていた。だから、南部5侯が戦闘態勢に入ると、上空から見てすぐさまそれを察知できた。


「いくら虚勢を張ったところで、弱い者は弱い」


 クリーは冷静に分析していた。


『弱みしかないのに敵の強みを攻めるのは、自軍の消耗につながる』


『無理して敵の強みに立ち向かうのは、あっけなく負けることにつながる』


 これはミン族に伝わる教えだ。


「南部連合軍が強がって帝国軍を攻めたとしても、ムダに兵力を消耗して負けるだけだから問題ない。どのみち勝ち目はない」


「たしかに相対的に見て、わが帝国軍のほうが強い。南部5侯に勝ち目はないだろう――」


 総司令官は真顔で言う。


「――だが、まあ2侯が寝返りを決めているとはいえ、必死になった3侯と同時に戦えば犠牲も大きくなるのではないか?」


 犠牲が多くなれば、たとえ勝ったとしても「犠牲を少なくする」という作戦目標は達成できなくなる。そうなれば戦術的には勝ちでも、戦略的には負けだ。


 しかし、クリーは自信たっぷりに答えた。


「シン辺境伯とヒラ辺境伯が動かないのはもちろんのこと、カワ辺境伯とトウドウ辺境伯も動かないから心配ない。戦闘はフワ辺境伯との戦いだけになるし、そうなるから犠牲も最小限にできる」


 そう前置きしたうえで、クリーは総司令官に思うところを述べた。それは効率よく戦いを終わらせるための策だった。


「なるほど。それも一理ある。クリー大佐は、まこと策士であるな。貴様のような若手が帝国軍にいるとなれば、帝国軍の将来も安泰だな。わたしも安心して引退できるというものだ。ははは」


 総司令官は快活に笑った。


 ◆ ◆ ◆


 翌日、南部連合軍は、打ち合わせどおりに決戦の布陣をしいた。


 南部5侯の陣地は、前方に3つの出丸があり、後方に2つの主郭があるというつくりになっていた。


 前方3つの出丸には、それぞれカワ辺境伯(左出丸)、トウドウ辺境伯(右出丸)、フワ辺境伯(中央出丸)が陣取っている。


 後方2つの主郭には、それぞれシン辺境伯(左主郭)、ヒラ辺境伯(右主郭)が陣取っていた。


 主郭の背後には大きな河が流れているので、背後から攻められる心配は少ない。たとえ攻められても守りやすい。


 前方に3つある出丸は、左右の出丸が攻められたら中央の出丸から攻撃して守る。中央の出丸が攻められたら左右の出丸から攻撃して守る。互いに側面から助けあうしくみになっていた。だから、敵からすれば攻めにくい構造だった。


 ただし今回は、籠城戦(ろうじょうせん)をしない。全軍をあげて打って出る。


 まず出丸の3侯が出撃し、猛攻して突破口を切り開く。そこへ主郭の2侯が突進し、一気に帝国軍の本陣をねらう。


「帝国軍が目と鼻の先にいる以上、必死になって戦わなければ生きて帰れない」


 南部連合軍の将兵たちは、だれもがそのことを分かっているので、決死の覚悟で戦うつもりでいる。


「初志貫徹! われらの覇気をもってすれば、帝国軍に一矢(いっし)(むく)いることができる! 各員の奮闘に期待する!」


 フワ辺境伯は、愛馬にまたがって陣中をめぐり、将兵を叱咤激励(しったげきれい)してまわった。


 ところが、である。南部連合軍の陣地上空に熱気球(こんみんでん)が飛来して、ビラをばらまいた。


(なんじ)ら将兵に告ぐ。投降せよ。さすれば罪を(ゆる)す』


 そのせいで、せっかく高まった士気も、戦意も、闘志もなえそうだ。将兵たちはできれば投降したいが、「決戦する」という全体の流れにはあらがえない。


「突撃!」


 フワ辺境伯の号令一下、出丸の門が開き、一斉に騎兵が駆け出し、歩兵は走り出していく。とにかく破竹の勢いで突撃し、死中に活を求めるしかない。


 フワ辺境伯は、将兵を鼓舞するため、みずから先頭を駆けていく。


 ところが、駆け出したところで、ようやく異変に気づいた。


 左出丸も、右出丸も、固く門を閉ざしたままだ。一兵も出てこない。だんまりを決めこんでいる。


「どうしたのです!? どうしてカワ辺境伯も、トウドウ辺境伯も動かないのですか?」


 だが、帝国軍を目の前にして、今さら引き返せない。ここで引きかえせば、総崩(そうくず)れとなり、帝国軍に追い討ちをかけられ、大敗するだけだ。


(ここで右往左往するわけにはいかない。こうなれば、とにかく初志貫徹しかない)


 フワ辺境伯は、「不屈(フォーレチュード)侯」の(ふた)つ名に恥じない決断をした。


「すべては作戦どおりです! 一番槍(いちばんやり)の栄誉は、わたくしたちのものです! われらが血路を開き、連合軍に勝利をもたらすのです!」


 フワ辺境伯軍――中軍は、その勢いを失うことなく突撃していく。


 しかし、わずか2万人にも満たない兵力で、帝国軍15万人の大軍とまともに戦って勝てる道理はない。


 しかも、中軍2万の兵力のうち1万人くらいは、傭兵だ。お金で雇われているにすぎないので、損得で動く。


 そもそも傭兵というものは「体が資本」なので、戦況不利となれば、戦闘中の混乱に乗じて逃げだしていく。へたに障害を負えば、これから(かせ)げなくなるからだ。


 それに第一、傭兵隊長みずからが「大事な商品」である部下を傷つけるわけにはいかないし、ましてや死なせて失うわけにもいかないので、率先して逃げるように命じる。配下の傭兵が逃げ出しても、黙認する。


 だから、戦ってみて戦況不利となれば、傭兵はあてにならなくなる。


 そして今、帝国軍からの激しい砲撃と銃撃によって、フワ辺境伯軍の頭上に猛烈な「鉄の雨」が降りそそいできた。友軍が援軍に出てくるようすもない。


「こりゃ、かなわん」


 傭兵たちは突進の足をゆるめ、突撃するふりをしながら戦線を離脱していく。


 ただし、正規軍の将兵には、それなりに忠誠心がある。義務感もある。だから、まじめに突撃していく。しかし、どんなに勇猛果敢に突撃しても、次から次に砲撃や銃撃の犠牲となって倒れていく。


 このままではフワ辺境伯軍は、帝国軍の陣地に到達する前に全滅しかねない。


 フワ辺境伯はチラッとふりかえり、左出丸、右出丸を確認する。しかし、あいかわらず門を閉ざしたままだ。出てくる気配(けはい)はない。


(あれほど事前に打ち合わせたといいますのに、諸侯らはまんまと帝国軍の離間策にはめられたというのですか? それでも(おとこ)ですか! 意気地(いくじ)なしめ……)


  フワ辺境伯は、キュッと唇をかみ(くや)しく思う。しかし、すべては「あとの祭り」だった。


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