表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その少女は異世界で中華の兵法を使ってなんとかする。  作者:
第2話 見威王篇=正義を実現するために物量を投入する
6/120

その2(全4回) 連邦に挑戦状を出す

挿絵(By みてみん)


 フミト皇太子は、連邦軍の本陣に向け、使者を出した。


 ちなみに、軍隊から戦争中に出される使者を「軍使」と言う。軍使は、決して殺したり、傷つけたりしてはならない。当時の国際法の1つだ。


 国際法に違反すれば、国際社会から非難される。場合によっては世界を敵にまわすことになりかねない。


 だから、軍使を使えば、たとえ交戦中であっても、敵と確実に連絡をとりあうことができた。


「われらがシン帝国北部辺境守備軍司令官は、貴軍司令官に対し、決戦を申し入れる」


 使者は、そう言いながら、丁寧に「挑戦状」を連邦軍の司令官に差し出す。


 連邦軍のラエン司令官は、左右に若い女性をはべらせながら、大きなソファーにもたれており、見下すように使者をながめていた。


 ラエン司令官の副官が「挑戦状」を受け取り、ラエン司令官にうやうやしく渡す。


「うっとうしいな」


 ラエン司令官は、ちらっと文書を見ると、そのままグシャっとにぎりつぶした。


「ともあれ明日、おまえらが城から出て突撃してくるから、その相手をしろというわけだな」


「さようであります」


「めんどうくさいな。おまえは、どう思う?」


 ふられて副官が答えた。


「受けてもよろしいかと思います」


「そうか」


 ラエン司令官の決断は早かった。


「挑戦を受けてやると帰って伝えろ」


 言われて使者は、儀礼に従って挨拶(あいさつ)すると、連邦軍の本陣を出て城塞都市に戻った。


 いっぽう連邦軍の本陣では、使者の退出後、ラエン司令官が副官に尋ねていた。


「このまま包囲しておけば、おのずと落城すると思うが、どうして挑戦を受ける?」


「情報によりますと、帝国の援軍が城塞都市に向かっているとのことです。ですから、増援される前に決着をつけたほうが、よろしいかと」


「それは分かるが、援軍がくるというのに、どうしてやつらは決戦を挑んでくる?」


「帝国では、皇太子と皇子が皇位をめぐって、不仲であると聞いております」


「ああ、そう言えば、そんな話もあったな」


「はい。ですから、皇太子としては、皇子の援軍が来る前に勝負をつけ、どちらに実力があるかを見せつけたいのではないでしょうか? 皇子は“政略は得意でも、軍略は不得手”と聞いておりますので」


「それも一理あるが、ワナではないのか?」


「その可能性も考えましたが、その可能性は極めて低いかと。司令官フミト皇太子は、宮殿育ちの世間知らずなお坊ちゃまです。お人よしであり、策をろうすることのできる人物ではございません」


「だが、副司令官は、歴戦の猛者(もさ)さと聞いておるぞ」


「副司令官ヤマキ中将は、猛将と言われるように、猪突猛進タイプの武人です。これまでの戦歴からしても、正攻法以外の戦法を知りません」


「なるほど。しかし、その取り巻き連中に策士がいるのではないか?」


「それも心配ありません。あそこの将校に人物はおりません。優秀ではありますが、平均点の将校ばかりです――」


 副官は、自信たっぷりに言う。


「――それに、もし策士がいたとすれば、これだけの期間も籠城(ろうじょう)して、じっとしていたりはしていないでしょう」


「やはり弟に対して、兄の意地を見せたいわけか? しかし、どう考えても、わが軍に勝てるだけの兵力はなかろう」


「おそらく正々堂々と猛攻すれば、気合いで勝てるとでも考えているのでしょう。あの司令官と副司令官の性格なら、そんな幻想をいだきかねません」


「まさに乾坤一擲(けんこんいってき)で、()けに出るわけか?」


「はい。ですから、おそらく魚鱗(ぎょりん)の陣を組み、わが本陣を目がけ、一点突破をしかけてくるでしょう」


 魚鱗(ぎょりん)の陣とは、敵に対して「∧」の形をとるフォーメーションを言う。すべての兵力を集中して突撃し、敵陣を突破するために最適な陣形だ。


「なるほど。ならば、こちらとしては、包囲殲滅(せんめつ)でいくぞ。中軍を引かせ、やつらを内側に引きこみ、そこを左右両軍が挟み撃ち。そこへ中軍が反転攻勢をかける。どうだ?」


「数の多さを生かしたオーソドックスな戦法かと思います。それでは、全軍に対して、決戦時には鶴翼(かくよく)の陣をとるように伝達いたします」


 鶴翼(かくよく)の陣とは、中央に中軍がいて、左横に左軍を配置し、右横に右軍を配置する陣形を言う。ちょうど中軍が左右に羽を広げたような形になる。だから、鶴翼と言うわけだ。

 戦いがはじまると、中軍が中央で敵軍を引き受け、その敵軍を左右両軍がつつみこみ、包囲殲滅(ほういせんめつ)する。そういった戦法に最適の陣形だ。


「そうしてくれ。しかし、これで意外と早く帰国できそうだな。ふふ」


 ラエン司令官は、不敵にほほ笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ