その3(全5回) 騎士道精神をもって互いに美点を讃えあう
連邦人の送還には、連邦軍が放置していった馬車や軍馬を使った。
フミト皇太子は、クリーとアルキンたち百人隊、そして1000人の騎兵隊を護衛として引き連れていくことにする。
ヤマキ中将は、留守番だ。司令官と副司令官が同時に不在というのは、まずいからだ。
ラエン司令官は、連邦の軍服を身につけ、帯刀も許された。でっぷりとした体を揺らしながらも、軍人らしく颯爽と愛馬にまたがる。
そのあとには捕虜たちを載せた数百台の馬車列が続いた。ガラゴロと連邦に向けてターレン街道を走っていく。
幸いにして好天に恵まれ、旅路は快適だった。一行は、途中で野宿しながら連邦を目ざす。数日でターレン山脈をこえた。
途中には難攻不落の要塞――ターレン要塞があり、多くの砲台や銃座がターレン街道を睨み、守りを固めている。しかし、すでに連絡がいっているので、スムーズに通過できた。
山岳地帯が終わると森林地帯となり、しばらく進んでいくと田園地帯になる。そうこうしているうちに、大きな街が見えてきた。商業都市・チュージャンだ。
一行は、ここで連邦軍に捕虜を引き継ぐこになっていた。
ここでフミト皇太子は、想定外の人物に出会うことになる。連邦の政治を牛耳っている革命党のヤオ党首だ。病的なまでにほっそりとした中年男性で、鋭い目つきをしていた。
「敵でありながら、わが国の英雄を礼遇してくださった貴殿の騎士道精神に対し、深く感謝の意を表したい」
礼服を身にまとったヤオ党首は、丁寧にお辞儀しながら言う。
「こちらこそ、国をあげて歓迎してくださった閣下のご厚情に対し、深甚なる謝意を表したい」
フミト皇太子は、ヤオ党首と握手しながら、丁寧に答えた。
周囲には、新聞記者たちが群がり、会見の様子をせわしくメモしている。近ごろ発明されたばかりのカメラもいくつか置かれていて、ときおりフラッシュも光っていた。
ヤオ党首は、騎士道精神にあふれた政治家というアピールをしたいようだ。あれこれ記者たちに語っていた。
フミト皇太子たち一行は、捕虜たちと別れたあと、宿泊先・招待会場となっている郊外の領主館に案内された。
目の前には美しい湖があり、背後には静かな林がある。背の高い望楼もある3階建ての大きな館だ。
かつて周辺を治めていた貴族の館だが、今は連邦政府の所有となっている。
連邦は、かつてハン王国という王制の国だった。しかし、革命党というグループが国民をあおって革命を起こし、王制をひっくりかえして共和制の国につくりかえる。今から約30年前の話だ。
「この領主館も、革命のときに接収されたのだろう――」
フミト皇太子は、手入れの行き届いた美しい調度品をさすりながら、しみじみと言う。
「――わが帝国も善政をしけなければ、同じ末路をたどるだろうな」
「殿下は、どのような皇帝になりたい?」
クリーがたずねる。
「そうだね。とりあえずは平和と、主権と、生命を守れる皇帝になりたいかな」
「それはいいと思う。わが一族に伝わる教えにもある――」
道理の分かっている人は、大国の平和を保ち、元首の名誉を高め、国民の生命を守れる。
「――殿下の思いは、この教えと似ている」
「なるほど。世の中を平和にし、外国からなめられないようにし、みんなの命を守るということだね。たしかに似ているな。おもしろい――」
フミト皇太子は、ほほ笑む。
「――ところで、軍師殿は、ちょくちょく“道理”という言葉を使うけど、それはどういうものなのかな?」
「えっと……。わたしが教わったのは――」
――タイミングを見極める。
――ポジションを見定める。
――人心を掌握する。
――敵情を把握する。
――臨機応変に布陣する。
――勝てそうなときだけに戦うことができる。
「――そういう人が道理の分かっている人だって言われている」
「わたしも、それができれば、今の乱れた帝国を立て直せるだろうか……」
そう言うフミト皇太子のほほ笑みには、どこか憂いが漂っていた。




