その1(全5回) 連邦革命党のヤオ党首は、人気取りに余念がない
「夫れ万乗の国を安んじ、万乗の王を広め、万乗の民の命を全うする者は、ただ道を知る。」
(そもそも大きな国の平和を保ち、その元首の名誉を高め、その国民の生命を守れるのは、ただ道理のわかっている者だけだ。)
『孫臏兵法』「八陣」篇より
「100万の遠征軍が壊滅した」
このニュースが連邦に伝わったとき、連邦の政府首脳は呆然となり、国民は愕然とした。まさかの敗北に、国中が震撼する。
もっとも権力を手にしたい政治家たちにとってはチャンスだ。連邦の政治を牛耳っている革命党のトップ――ヤオ党首の責任を追及し、追い落とすための口実ができた。
ヤオ党首の政敵たちは、世の知識人たちを巻きこみ、さっそく政権批判をはじめる。政権に批判的な新聞社もだきこみ、声明を出した。
「国政をになう革命党のヤオ党首は、責任をとって即座に党首の座を退き、政界から引退せよ」
ヤオ党首の返答は、こうだ。
「うざい」
これに対して、さらに非難がわきおこり、首都では連日のように反政府デモが行われるようになる。
しかし、ヤオ党首は、まったく気にしない。若くして与党の党首になれるだけあって、ヤオ党首は敏腕であり、辣腕であった。
「犬や猫は、痛い目にあわないと、分からないものさ」
秘密警察を総動員して、政府を批判する者を「国家反逆罪」の容疑で片っぱしから逮捕、投獄、そして処刑していく。相手が女子供でも、容赦しなかった。
まもなく政府への批判、ヤオ党首への批判は、まったく聞かれなくなる。こうして騒ぎが収まったのは、つい最近のことだ。
その矢先、シン帝国から、こんな依頼状が届く。
『貴国のラエン司令官は、敗戦の将とはいえ、その善戦健闘ぶりは敬服に値する。ゆえに、シン帝国・北部辺境守備軍・司令官にして、シン帝国・皇太子のフミトは、ラエン司令官に敬意を表し、ラエン司令官をみずから貴国まで送り届けたいと希望している。便宜をはかられたい』
「!?」
ヤオ党首は意外な展開に驚いた。
あの男は、敵将が称賛するだけの男だったのか?
たしかにボクは、あの男が、使える男だと思った。忠誠心の篤い男だとも感じた。
だから、遠征軍の司令官とした。
それなのに、あの大敗北。ボクは、さんざん「任命責任」を追及されたよ。
でも、帝国で“救国の英雄”と言われている男から、べた褒めされてんじゃん。
「やっぱりボクの見る目は正しかったよ。ラエン司令官は、敵国からも尊敬されている。ボクの任命責任を追及したやつらを見返してやる!」
ヤオ党首は、異常なほどの喜びぶりだった。
もともとクレイジーな人物だから、そうなるのかもしれない。
「おい。おまえ」
「はい」
近くにいたメイドたちのうち、ひとりが答えた。
「この件を大至急で、新聞社に伝えろ。大々的に報道しろとな。報道しない新聞社は不公正な報道機関として報道許可を取り消すと付け加えることも忘れるなよ」
「かしこまりました」
メイドが、足早に出ていく。
(やっぱりボクには天が味方している。ボクこそが連邦に君臨すべき偉大な指導者なんだ)
ヤオ党首は自信を深めていた。




