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その少女は異世界で中華の兵法を使ってなんとかする。  作者:
第5話 簒卒篇=勝敗を決めるもの
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その5(全5回) 負けないために必要なことがある

 ここは第3収容区にあるシャオ隊長と、その取り巻きたちが暮らしているテントだ。


 大型のテントだけあって、中は広くて、天井も高い。30人くらいは寝起きできそうだ。


「あんたが軍師殿か!? ほんとかわいいな。ははは」


 シャオ隊長は、フミト皇太子からクリーを紹介されるやいなや、満面の笑みをうかべ、クリーの手をとった。


 シャオ隊長はあいさつの握手をしたつもりだったが、クリーの顔は真っ赤になる。


「シャオ隊長、たわむれはやめてやってくれ。軍師殿は、うぶなのだから」


「おっと、すみません」


「だいたい貴様、いきなり婦女子に触れるとは、失礼だぞ」


「あぁ?」


 シャオ隊長は、フミト皇太子には従順だが、他にはそうではないようだ。叱責してきたヤマキ中将に対して、ガンをとばす。


 ヤマキ中将もにらみかえし、険悪なムードだ。


「副司令官とシャオ隊長は、いきなり犬と猿だな」


 犬猿の仲を言いたいらしい。


「シャオ隊長」


 アルキンが呼びかけた。


「ん?」


 シャオ隊長の気がそれて、険悪なムードも消えた。


「百人隊隊長のアルキンだ。共に戦うことになるが、よろしくお願いしたい」


 アルキンは手を差し出し、握手を求めながら言う。


 シャオ隊長は、アルキンの手をギュッと握った。


「こちらこそ、頼むな。で――」


 そう言いながら、シャオ隊長はクリーを見る。


「――これから共に戦うにあたり、軍師殿には注意点を教えてもらいたいのだが、どうだろうか?」


「それなら、5つある。これに気をつけないと負ける」


「ほう?」


「第一に、現場の指揮官には全権が与えられていないといけない」


「その点なら、心配ない――」


 フミト皇太子が笑顔で言う。


「――現場の判断に任せるから、存分にやってもらいたい」


 クリー、アルキン、ヤマキ中将、それにシャオ隊長が、同時にうなずいた。


「第二に、殿下には伝えたが、兵法を分かっていないといけない。ただ、これは、わたしが軍師として努力したい」


「期待してるぜ」


 シャオ隊長が軽く言う。


 クリーも軽くうなずく。


「第三に、指揮官同士に不和があってはいけない」


「そうだな。副司令官に、シャオ隊長、戦場では2人で協力しあってくれよ。ははは」


 快活に笑うフミト皇太子。


「「もちろんです」」


「第四に、スパイを使わないといけない。たとえば、敵がどこにいるかをさぐる。また、味方の秘密がばれないように気をつける。そういうもの」


「それが自分も心配であった」


 ヤマキ中将が真剣な表情で言う。


「シャオ隊長、貴様の部下には、連邦の回し者や、裏切者が潜んではおるまいな?」


「ふんっ、そのへんは心配いらねぇ」


 不敵な笑みを浮かべるシャオ隊長。


「裏切者には、しっかりケジメをとらせるようにして、ふだんから裏切らないように全員をしつけてるからな」


「それは頼もしい」


 ヤマキ中将は、へたな芝居のセリフまわしのような言い方をした。


 フミト皇太子に心配をかけましとして、シャオ隊長のことをほめようとしたのだろうが、お世辞を言うのが下手くそだ。


「第五に、人心(じんしん)掌握(しょうあく)だ。部下たちが、どれだけ指揮官に心服しているという点が重要になる」


「「その点なら、問題ない」」


 ヤマキ中将と、シャオ隊長が、はもった。


 フミト皇太子は、にんまりとする。


「ところで、殿下にお願いがあります」


 シャオ隊長が、改まった表情で言った。


「オレらは殿下のために喜んで忠義を尽くします。もし不手際があれば、思いきり罰してください。しかし、もし成果があれば、確実に賞してほしいのです」


「ん?」


「オレらの働きがよければ、ぜひオレらを殿下の部隊に編入させてもらいたいのです」


 シャオ隊長は、真剣なまなざしでフミト皇太子の目を見つめている。


「わかった」


 フミト皇太子は、おだやかな笑顔で答えた。


 その後、「即席の城」作戦が成功したのは、すでに知られているとおりだ。


全文訳『孫ぴん兵法』簒卒


 孫子は言いました。

①軍隊が勝つのは、きちんと兵士を選抜するからです。

②軍隊が勇ましくなるのは、そうさせる制度があるからです。

③軍隊がうまく戦うのは、そうさせる態勢が整っているからです。

④軍隊が鋭くなるのは、信賞必罰を徹底するからです。

⑤軍隊が恩恵をもたらせるのは、道理にかなっているからです。

⑥軍隊がもうかるのは、すばやく(戦いを終わらせて)帰るからです。

⑦軍隊が強くなるのは、人民をしっかり休ませるからです。

⑧軍隊がダメージを受けるのは、何度も戦うからです。

 孫子は言いました。

①道徳的な行いこそが、軍事で一番の財産です。

②信用こそが、軍事で一番のほうびです。

③戦いを憎むことこそが、軍事で一番の覇権を確立する方法です。

④人びとの支持を取りつけることこそが、軍事で一番の勝(利を得る方法)です。

 孫子は言いました。

 つねに勝てる場合は、次の5つです。

①君主から信任されて全権を与えられているなら、勝ちます。

②道理をわかっているなら、勝ちます。

③人びとの心をつかんでいるなら、勝ちます。

④まわりの人たちが仲良くしているなら、勝ちます。

⑤敵の実力をきちんと調べ、どこで戦うのが有利なのかを計算しているなら、勝ちます。

 孫子は言いました。

 つねに勝てない場合は、次の5つです。

①君主からよけいな手出しや口出しを受けるなら、勝てません。

②道理をわかっていないなら、勝てません。

③将軍どうしに不和があるなら、勝てません。

④スパイ活動を使わないなら、勝てません。

⑤人びとの心をつかんでいないなら、勝てません。

 孫子は言いました。

 勝利のヒケツは、~を尽くすこと、どのようなときに賞されるかを明確にすること、きちんと兵士を選抜すること、敵の~に乗じることにあります。以上は、「軍隊のすぐれた戦う能力を保障してくれるもの」と言えます。

 孫子は言いました。

 君主の信任を得られなければ、将軍としての責務を果たせません~。

~令、第一に「確実である」で、第二に「忠実である」で、第三に「思い切りよくする」です。

 どのように「忠実である」べきかと言いますと、君主に忠実であるようにします。どのように「確実である」べきかと言いますと、成果があれば確実に賞するようにします。どのように「思い切りよくする」べきかと言いますと、悪事があれば思い切りよく断罪するようにします。

 君主に忠実でないなら[君主の立場に立って考えてみて戦争することが国のためにならないなら]、その軍隊を決して動かしません。成果があっても確実に賞されないなら、だれもついてこなくなります。悪事があっても思い切りよく断罪されないなら、だれも言うことを聞かなくなります。

二百三十五字


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